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閑話 学院長室の密談


「どうだい、『彼』の様子は」


 夜の学院長室に、穏やかな声が響く。


 声は、机の上の人形から発せられていた。

 綿でできた、のっぺらぼうの簡素なものである。まともな手もないし、服も着ていない。

 見た目はただの白い人形だ。

 魔術がかけられて、話ができるようになっているのだ。


「おおむね、順調でございます」


 と、アレイナが人形に向かって丁寧に応じる。

 人形の向こう側にいるのが、彼女よりは確実に上の人間ということだ。


「それは何より。うまく制御できているということかな」


「お言葉ですが」


 アレイナは声の主をたしなめる。


「ウォルターを制御する、などという考えを持たれないほうが賢明というものです。少なくとも私にはできません。そんなことをしようとすれば、そっぽを向かれてしまうことでしょう」


「では、順調というのは?」


「あくまでウォルターの利に沿って、それでいてこちらの目的にも進んでもらう。そういう働きかけが順調、ということです。手綱を握るなどと、とてもとても」


「アレイナらしくもない。その理由は?」


「大きなものは2つ。彼の性格と、その能力です」


「詳しく聞こう」


「性格については、朴訥としていて、気ままです。日なたの毛深い犬です。ただ見ている分にはのんびりしていられます。が、犬は犬、牙を持ち、俊敏に動くもの。野性を持つもの。怒りもすれば噛みつきもします」


「能力については、言わずもがな、か」


「はい」


 膨大な魔力量。

 それをもとにした無軌道な魔術。

 魔獣を単独で相手にするだけの身体能力。


 何より、従来の常識から外れた理外の魔導具の数々。


「どうしたらいいのか、現時点のきみの見解を聞こう」


「基本的には、好きにさせておくことです」


「ふむ。しつけは?」


「お望みなら別の者に。繰り返しますが、アレを、当たり前の方法や理屈で操ろうなど、考えないほうがよろしい。アレは束縛を一番に嫌います」


「それで誘導か?」


「それもいささか、違います。何かを期待して投げかけるのはよろしいですが、どう動く、などと決めつけては、ましてそれを悟られては、不快にさせます」


「させると、まずいかい?」


「大いに」


 相手からは見えていないないのだが、アレイナはうなずいてしまう。


「無闇に怒らせて何とします」


「そうかい? いくらでもやりようがあるとは思うけれどね。さっきから聞いているとどうも」


 声の主はそこで言葉を切ってしまう。


「どうぞおっしゃってください」


「どうも、彼に嫌われたくないように聞こえる」


 もし人形が口を動かせたなら、口元は笑っていただろう。

 

 アレイナは苦笑を返した。


「ウォルターは、周囲に振りまく影響こそ警戒せざるを得ませんが、本人は、田舎で畑でも耕していれば、実に平凡な性格です。能力と性格がどうしようもなく、その、相性が悪いだけで」


「丸くなったねアレイナ。だが私は足元の獣を見過ごせない。それは、わかってくれるね?」


「もちろんにございます」


「魔術師が滅びるなど、あってはならない。その芽はつまねばならない」


「だからといって魔術師を憎む方向にいかせてはそれこそ甚大な被害が出ます」


「あくまで温和路線で。わかっているとも。では魔術師の友人はできたと、そう考えていいのかい?」


「友人、の定義にもよりますが」


 できた、と言って差し支えないはずだった。


「ダルタインの娘と、バランの娘。この2人と特に、親しくなっていくことでしょう」


「魔術師と友になれば、本人は魔術師を守る方向に動く。敵を友とせよ、とはよく言ったものだ」


「敵と決まったわけではありません。あくまで、解釈の難しい占いによるもの」


「わかっている、わかっている。すまない、私も少々、神経質になっているな」


 声の主が、吐息をつくのが聞こえた。


「とはいえ。『彼』が影響力を持つということでもないか」


「それは」


「ダルタインといえば貴族に顔が利く。バランは大陸に根づく治癒魔術の名家、庶民に人気がある。その2家の娘と親しくなるというのは」


「吉と出るか凶と出るか」


 アレイナが声の主の言葉を継ぐ。


 魔術師の敵に回らせるよりも、友とする。

 そうすれば、ウォルターが自ら、魔術師を滅ぼすのとは逆に動く。

 しかし同時にそれは、魔術師に対して影響力を増大させることでもある。


 魔術師にとっていいことなのか悪いことなのか。

 本当に、判断が分かれるところだ。


「アレイナ。占星魔術において、私はきみを一番信頼している」


「光栄にございます」


「むしろきみの占いさえなければ、よき国民、よき貴族として、彼を迎え入れていたところでもある。占いというのは、まったく、扱いに困るものだな」


「申し訳ございません」


「いや、いい。許せ。やはり神経がたかぶっている。そろそろ休むとしよう」


「は」


 アレイナは、やはり見えてはいないが、頭を下げた。


「お休みなさいませ。国王陛下」


 こうして、密談は終わりを告げた。






ここまで楽しんでいただきありがとうございます。

書いている甲斐があるというものです。

感想、ブクマ、評価、誤字報告をいただくと、それをよりはっきり感じます。

楽しんでるよ、期待してるよ、ここがよかったよ、という方。

どうか教えて下さい。

作品づくりに活かしていきます。

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