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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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29 ヒュー博士の過去 (2)

 さっさと跡継ぎ候補から脱落してからは、魔獣ハンターギルドに登録して活動を始めた。そのときの年齢? 何歳だったかな。確か、十二歳くらいだったかなあ。


 別にそれほど早くもないよ。平民なら普通じゃないかな。

 貴族でも、次男や三男だったら、それくらいから将来を見越して見習いを始めることがよくある。公爵家でってのは、確かにちょっと珍しいかもしれないけど。


 親も反対はしなかったね。

 跡継ぎとしての期待はまったくしない代わり、したいことは何でも好きなようにやらせてくれたんだ。歳の近い先輩魔獣ハンターを探して、護衛と指導を指名依頼してくれていたらしい。だいぶ後になってから知ったよ。当時は、ずいぶん面倒見がよくて気のいい先輩がいるなあ、としか思っていなかった。


 補助魔法を覚えたのも、その先輩の指導のおかげだね。

 さっぱり使えるようにならなかった回復魔法と違って、練習すればしただけ精度が上がるし、次から次へと新しい魔法を覚えられるし、楽しかったなあ。先輩に教わったのは中級までで、上級は独学だ。


 魔法と装備のおかげで、中型や大型の魔獣を狩り始めるのは早かった。

 何しろ、最初から装備は一級品をそろえてもらっちゃってたからね。平民出身のハンターなら、少しずつ稼ぎを上げて、装備のグレードを上げていかなきゃならないところだ。何だかんだ言っても、親には相当助けられていた。その点に関しては、感謝しているよ。


 中型や大型の魔獣を狩るようになると、月単位で家を離れるようになった。だって、王都周辺には小型の魔獣しかいないからね。もっと大きいものを狩ろうとするなら、地方へ行くしかない。


 補助魔法使いはね、魔獣ハンターとしてはほぼ無敵なんだ。

 攻撃力特化のハンターに比べたら、討伐に時間はかかるけれども、その代わりに討伐に失敗するってことがない。だから、パーティーを組むのも楽だったね。あちこちのチームから誘いがあったし、自分で組んでもいいし。


 そうして地方を転々とする暮らしが始まると、あまり家には帰らなくなった。一年以上も家に帰らなかったこともあったよ。その頃には、国内だけでなく国外に足を延ばすこともよくあった。

 国外に出るようになると、ますます家から足が遠のいた。

 家からどころか、国から遠のいたね。


 なぜかって? 国の中枢の腐敗っぷりに我慢できなくなったからだよ。

 国外に出ると、この国との違いがはっきりわかる。特に地方の差が歴然としていた。


 この国の貴族は、何も考えずにむやみに税率を上げて、民の暮らしを圧迫している。今はそんなことはないって? ああ、新しい国王陛下の治世はまともなんだね。でも、当時は違ったんだ。

 税率を上げると、当然ながら人々の暮らしは貧しくなる。だけど、それだけじゃないんだ。地方では魔獣が狩られなくなって、中型や大型の魔獣の被害が出るようになる。

 うん、この説明だけだと、税率と魔獣被害の因果関係がわからないかもしれないね。


 税率が上がると、物価が上がる。そして物価が上がると、その土地で活動しようとする魔獣ハンターがいなくなるんだよ。だって税率が上がろうが、討伐の報酬が上がるわけじゃない。にもかかわらず、狩りに必要となる消耗品の価格は上がる。

 そうすると、必要経費が上がる分だけ、単純にハンターの手取りが減るわけだ。

 わざわざそんな場所で活動したいと思うわけがないだろう?


 魔獣ハンターが活動しなくなれば、魔獣ははびこり放題だ。

 ちょうど今回の旅の途中で我々が見てきた村のように、痛ましい被害が相次ぐことになる。


 君の暮らしていた地方では、そういうことはなかったのかい?

 ああ、なるほど。領主が自ら魔獣討伐をしていたのか。そんな領主ばかりならいいが、決して多くはないね。そうか、税率も、必要以上には上げなかったのか。だから、魔獣ハンターたちが逃げ出さなかったんだな。


 機会があれば、魔獣ハンターギルドに行ってみてごらん。

 領地別の税率一覧が張り出されているよ。ハンターはその情報をもとにして、活動場所を選択するんだ。要するに、その国の領主たちの腐りっぷりが、ギルドに行けば一目瞭然なんだよ。だって非常識なほどの重税を課してる領主が、まともなわけがないだろう?


 そんなこんなで、国外での活動が多くなってきた中、家から速達便が届いた。それも、中身が「すぐ帰れ」ときた。

 何ごとかと思ったよね。そしたら、ウィリアムが婚約するって話だった。その頃にはもう、跡継ぎはウィリアムで確定していたからね。その跡継ぎの婚約だっていうんで、兄弟も顔合わせしろってことになったらしい。


 婚約と言いながら、実質的には婚姻も同然だったみたいだね。

 祝福された結婚指輪も、そのときすでに交換していたと聞いたよ。ああ、失踪前に結婚していた、と君は聞かされていたのか。ジュリアは花嫁修業という名目で、もううちで暮らし始めていたはずだから、間違ってはいないね。


 ウィリアムとジュリアも、君たちに負けないくらい仲がよかった。婚約式じゃ、そりゃあもう、幸せいっぱいだったね。こちらが当てられてしまうくらいに。君は、あの頃のジュリアにそっくりだねえ。

 ははっ、そうか。兄さんもそう言ってたのか。


 婚約式は、かなり盛大で豪華なものだった。

 何しろ、ローデン公爵家の跡継ぎの婚約だからね。そりゃあ、大々的にやるさ。王族の婚姻ほどではないにしても、貴族としては最大級に派手な式を開いたものだ。ローデン公爵家の婚約式となれば、国内の貴族はもちろん、王族だって招かざるを得ない。各国の大使も招いたし、治療で縁を得た国外の貴族にも招待状を出していたよ。


 君のお母さんは、きれいだった。本当にきれいだった。特に婚約式ではしあわせに満ちあふれて、光り輝かんばかりに美しかったよ。

 だが皮肉なことに、それが不幸を招いた。

 あの色狂いの王が、彼女を見初めてしまったんだよ。婚約式で。

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