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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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07 最初の宿泊地 (2)

 村長宅で客室に案内された後、私たちは手分けして夕食前に隊員たちに伝言をした。翌日の予定を変更するためだ。出発前にクマ型の魔獣を討伐するため、国外から参加の隊員と研究者たちには村で待機してもらう。討伐は、私たち三人と兵士たちで行う予定だ。


 手分けして伝言すると言っても、隊員ひとりひとりに伝言するわけではない。私たちからはそれぞれのチームのリーダーに伝え、そのリーダーたちからチームメンバーに伝えてもらう。


 今回の調査隊では、三つのチームに分けてある。国内参加の研究者チーム、兵士チーム、そして国外参加チーム。私の担当は、国内参加の研究者チームだ。このチームのリーダーは、チーム内で一番年長の、イーデンという名の魔獣ハンターにお願いしている。

 実は国内研究者チームも、研究者チームとは名ばかりで、実質ほとんどが魔獣ハンターだ。それぞれ研究者から依頼を受けて参加している。魔獣ハンターでないのは、研究助手がひとりだけ。


 ちなみに兵士チームのリーダーはマイク、国外参加チームのリーダーはヒュー博士だ。兵士チームへの連絡はライナスが、国外参加チームはジムさんが担当している。ほんの少しでも政治が絡む可能性のありそうなものは、全部ジムさんが担当なのだ。


 イーデンに翌朝の予定が変わったことを伝えると、彼は「わかりました」とうなずいてから、少し考え込むような顔をした。何か気になることがあるのかと思い、そのまま待っていると、私たちの予定を尋ねてきた。


「討伐に行くチームは、何時にどこへ集合ですか?」

「朝食を済ませてから、八時に村の南口に集合です」


 素直に質問に答えてから、少し気になったので一応、念を押しておく。


「でも研究チームは、村で休んでいて大丈夫ですよ。終わったら呼びに来ますから、すぐに出られるよう、準備だけお願いします」

「わかりました」


 イーデンと別れて村長宅に戻ると、じきに夕食の時間になった。

 夕食の席では、さっそくジムさんが用件を切り出す。


「実は、前回の遠征時での不始末についても、きちんとした調査をしたいと考えています」

「不始末、とおっしゃいますと?」

「はっきり言っちゃうと、うちの愚妹がかけた迷惑の具体的な内容を調べた上で、その適正な補償について相談したいってことですね」


 村長は「ふむ」とうなずいて、あごに手を当てた。それからにこりと笑みを浮かべて、ジムさんの申し出に対してこう答えた。


「それに関しては、もう済んだことです。お気持ちだけで、十分ですよ」

「いや。こちらの村は、補償金の受け取りを辞退したと聞いています。散々迷惑をかけておいて、何の補償もなしというわけにはいきません」


 ジムさんとしては、そう言うしかないのだろうなあ、と思う。他の村と差をつけるのは、施政者としてまずい。ところが村長は、ジムさんの言葉にうなずきつつも、補償金を受け取ることには同意しなかった。


「でしたら、その補償金は勇者どのにお渡しください」

「え?」


 村長の言葉に、ジムさんは面食らったように目を見張った。はっきりと顔に「なんで?」と書いてある。それを見て村長は、ライナスに向かって「おや。お話ししてないんですか」と、尋ねるとも確認するともつかない口調で声をかけてから、ジムさんに対して説明をした。


「国から補償金が出るなら、それは勇者どのにお渡しください。あのときの補償は、すでに勇者どのから頂いておりますから」

「え、そうなの⁉」


 ジムさんは驚いたように大きな声を上げてから、情けない顔をライナスに向けた。


「聞くのもこわいけど、いったいあの子がどれだけ迷惑かけたのか教えて……」

「俺が金を出したのは、この村だけですよ。ずっと出し続けられるほど、手持ちがなかったんで」

「それならそれで、この村の分は補償しないと」

「別にいいですよ。討伐の報奨金をもらってるし」


 ジムさんに「それとこれとは、全く別の話だから」とうながされ、ライナスは前回の遠征時の話を始めた。各村で次の村へ早馬を出してもらい、事前に自衛のための準備をしてもらったという、あの話だ。

 村長は、その先の村でどうなったのかは知らなかったようだ。楽しそうにライナスの話に耳を傾けていた。先に進むにつれ、どんどん調度品が少なくなっていき、ついにはベッドもなくなったと聞くと、村長は声を上げて笑った。その反対に、ジムさんは頭を抱えてしまっている。


「あー、もっと早く聞いておくべきだった。本っ当に申し訳ない」

「もうすっかり忘れてたことだし、気にしないでください」


 ライナスにしてみたら、自分が補償金を出したことなんて、大して印象に残る出来事ではなかったのだろう。だってそれどころじゃない、もっとずっとひどい目に遭ってきたわけだから。当時の村長とのやりとりは嫌な思い出どころか、何とか尻ぬぐいできてホッとした思い出だった可能性さえある。

 つまり彼にとっては「解決して終わったこと」なので、もう意識に上ることもなかったのだと思う。


 でも客観的に見れば、本来であれば国が出すべき費用を、ライナスが肩代わりしたわけだ。ジムさんとしては、見過ごすことができないんだろうなあ。まあ、ライナスが補償を断ってるのも、ただ単に面倒くさがってるだけだと思うから、後でちゃんと話し合ってほしい。


 とりあえず、これ以上お金の話を村長の前で続けるのもどうかと思うので、私は別の話題を振った。


「ところで、魔獣の件ですけど、被害を受けたっておっしゃってましたよね?」

「はい、確かに言いました」

「けが人は出ていませんか? 薬は足りてます?」


 薬師としては、最初に話を聞いたときから気になっていたことだ。

 魔獣ハンターさえ歯が立たないような相手に、ただの村人が無事でいられるわけがない。もし襲われたら、軽いけがでは済まないだろう。案の定、私の質問に、村長の表情は曇った。


「何人か、けがを負った者はおります。薬は……、そうですね、何とかやりくりできております」


 何だか歯切れが悪い。

 気になるので村長を質問攻めにしたところ、薬師としてはとても看過できない状況が明らかになったのだった。

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