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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第二章 調査

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06 最初の宿泊地 (1)

 道中では、ライナスが最初の遠征で宿泊した村に、もれなく今回も寄って行く予定だ。これは、主にジムさんの都合による。前回の遠征でのお姫さまのやらかしを、きちんと調査したいのだそうだ。


 経由地が増えるので、当然ながら旅程も伸びる。幸いなことに、これに関してライナスは特に不満をこぼさなかった。新婚旅行におまけが二十人近くも付いてくるのは大いに不満だけど、少々旅程が伸びようが、あまり気にならないということみたい。

 こうして言葉にしてみると、ライナスの気持ちがわかってしまう。


 これだけの人数のおまけつきで新婚旅行に行くなんて、誰だって嫌だ。

 だって二人きりになれる時間が、ほとんどないではないか。

 私にはおまけが気にならなかった理由は、たぶんあまり本気で「新婚旅行」とは思っていなかったからだ。だけど冷静になって考えてみれば、これはない。だって新婚旅行感が、どこにもないもの。だからと言って、今さらどうにもしようがないんだけど。

 せめて、ときどきはライナスのご機嫌をとってあげよう。


 魔王城までの前半の道のりでは、毎日のようにどこかしらの村に宿泊する。

 初日の夕方に到着した村は、前回の遠征でも最初の宿泊地となった村だ。

 驚いたことに、村民が出迎えてくれた。


「ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたよ」

「お久しぶりです」


 ライナスが馬から降りて村長にあいさつするのに合わせて、私たちも全員降りてあいさつする。あいさつが終わると、ライナスは村長に尋ねた。


「村の中に、野宿して大丈夫な場所はありますか?」

「まさか!」


 ライナスの質問に、村長はカッと目を見開いて大きな声で否定した。

 うん、そうだよね。二十人もの集団で、こんな小さな村の中にいくつもテントを張って野宿しようだなんて、図々しすぎると私も思う。ところが村長の意図は、私が思っていたのとは全然違った。


「野宿だなんて、とんでもない! ちゃんと屋根の下にお泊まりください。分散していただくしかなくて恐縮ですが、全員分のベッドはご用意いたしました」


 これにはライナスも私もびっくりして、顔を見合わせる。

 続けて村長は、私たちを招待してくれた。


「勇者どのと奥さまは、ぜひ我が家にお泊まりください」


 王族のジムさんを差し置いて、村長の家に招かれるというのもどうなんだろう。そう思ってジムさんを振り返ると、彼は苦笑いしながら「断ったら失礼だよ」と私たちの耳もとにささやいた。

 それは確かにそのとおりなので、ライナスと私は村長にお礼を言う。


「ありがとう、お世話になります」

「妻のフィミアです。お招きありがとうございます」


 結局、私たち二人とジムさんが、村長宅に泊まることになった。それ以外の隊員たちは、村長が割り振った民家にひとりずつ泊まる。出迎えてくれたのは、その受け入れ家庭の人々だった。

 隊員たちは、それぞれの受け入れ先に案内されて散っていく。


 その背中を見送ってから、私たちも村長宅に移動した。案内しながら、村長はライナスを振り返って質問をする。


「ところで、王都からの道中はご無事でしたか?」

「ご覧のとおり、全員無事ですよ。──何かあったんですか?」


 質問の意図がわからず、ライナスは首をひねってから質問を返した。わざわざ無事かと尋ねるということは、無事ではすまない何かがあり得るということだ。村長は「実は──」と切り出す。


「最近また魔獣が増えてまいりましてね」

「そうですね」

「街道沿いに、クマ型の大型魔獣が出没するようになってしまいましてね……」

「街道沿いっていうと、王都に向かう方向ですか?」

「そうです。主な被害は南ですが、そちらでもたまに報告が上がるんですよ」

「なるほど」


 クマ型の大型魔獣なら、さきほど倒したばかりではないか。そう思ってライナスのほうを見ると、同じことを思っていたようだ。私に小さくうなずいてみせてから、村長に向かって討伐済みであることを知らせる。


「王都から来る途中で見つけたのは、倒してきましたよ」

「本当ですか!」

「はい。赤毛を一体」

「そうですか。ありがとうございます」


 村長は目を見開いてから、ホッと息を吐き出して礼を言った。でもその声には、ほんの少しだけ落胆の色があることに、私は気づいてしまった。


「報告が上がっているクマ型の魔獣は、全部で何体いるんですか?」


 私の質問に、ライナスはハッとしたように目をまたたかせ、村長は恐縮したように身を縮こませる。短い沈黙の後、村長は視線を落として私の問いに答えた。


「赤毛が一体、黒毛が二体、茶が一体の、全部で四体です」

「多いな」


 ライナスは目を丸くしてつぶやく。確かに多い。

 あまりのことに、私は眉をひそめ、思わずライナスと顔を見合わせた。


「ギルドに討伐依頼は出しましたか?」

「もちろんです。被害を受けて、すぐに出しました。しかしこの辺りにはあまり大型の魔獣を狩れるハンターがいないらしくて、なかなか依頼を受けてもらえない状況なのです」


 私の知る限り、クマ型の魔獣は平原には出没しない。なのに、こんな王都近くの平野部で、四体も見つかっているというのが驚きだった。


 もともとこの一帯には、あまり強い魔獣が出没することはなかったそうだ。だから大型の魔獣に対処できるようなハンターたちは、この近隣の村に滞在することがない。この辺りで活動しているのは、駆け出しのハンターが多いのだ。彼らは、小型の、しかも群れていない魔獣でないと、狩るのが難しい。

 そうした事情により、これまで魔獣の駆除ができていなかったのだそうだ。


 村長の話を聞き終わると、ライナスはジムさんを振り返った。


「ジムさん、明日の朝、出発前に少し寄り道してもいいかな」

「うん。むしろ、こちらからお願いしようと思ってた。ありがとう」


 出がけに討伐していくつもりのようだ。よかった。

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