01 調査隊編成
再び魔王城へ行ってくるお話です。
ライナスと私は現在、魔王城へ派遣する調査隊の編成で、毎日目が回るほど忙しい。
編成と言っても、別に隊員を任命するわけではない。だって調査員にふさわしい能力が何かなんて、ライナスにも私にも全然わからないから、任命のしようがないのだ。
それでは隊員をどのように選ぶのかというと、自薦や他薦による。
ライナスと私の仕事は、その中から「連れて行きたくない人」を選り分けることだ。そういう意味では、消極的に任命していると言えないこともない。
ただし、拒否しづらい人もいる。それは、外国の人。
今回、調査隊を組むにあたり、国王陛下は諸外国へも声をかけた。
実は、魔王城の存在する一帯の荒れ地は、どこの国の領土でもない。あんな土地の領有権を主張したがる国は、どこにもなかったからだ。だから荒れ地の内側に存在する「最果ての村」は、どこの国にも所属していない。
荒れ地に国境を面している国は、魔獣被害の大きい国でもある。
歴代の勇者はだいたい、この五か国のうちのどこかに誕生していたようだ。
そんなわけだから、この五か国はどこも魔王城には関心を持っている。そうした他国を差し置いて、我が国だけで調査隊を組んでしまうと、抜け駆けととられて、いらぬ国際問題となりかねない。という事情により、残りの四か国にも声をかけた。
できることなら、他国は他国で勝手に調査隊を組んでほしいところだ。しかしそれが不可能なため、合同調査という話になる。というのも、魔王城に入るためには、ライナスの存在が欠かせない。だからと言って、他国が調査したいと言い出すたびに、いちいちライナスが駆り出されるのも迷惑だ。だったらもう、最初から調査隊に誘っておけばいいんじゃないか、となったわけだ。
こうして声をかけた上で派遣されてくる隊員は、非常に断りづらい。
なぜなら諸外国には、せいぜい一、二名の枠しかないから。にもかかわらずそれを拒否したら、国を拒否している感じになってしまう。だから事前にこちらから出しておいた条件を満たしている限り、そう簡単には拒否できないのが外国枠なのだった。
ありがたいことに、今のところ、外国枠で拒否したくなるほど困った人はいない模様だ。とはいえ、顔合わせしてみないことには、本当のところはわからないのだろうけど。
顔合わせと言えば、国内の参加確定メンバーと顔合わせをしたときにはびっくりした。思ってもみない人がいたのだ。
「どうも、隊長補佐という名の雑用係、ジムです」
なんと、ジムさんこと、第二王子改め王弟となったジェームズ殿下が、隊長補佐として参加することになっていた。どうしてわざわざ王族が、と思ったら、どうにも気の毒な理由からだった。
「魔王討伐の遠征のときと、同じルートで行くんでしょ? うちの愚妹のやらかしを、きちんと後始末してこないとね」
身内としての責任を感じているらしい。やらかしたのは、ジムさんじゃないのに。一応、ライナスからの報告をもとにして、宿泊地となった村々に、すでに賠償金と謝罪の手紙は送ってあるそうだ。でも自分の目と耳で被害の程度を確認した上で、過不足なく賠償して誠意を尽くしておきたいのだと言っていた。
あのお父さまと、あの妹姫さまが身内だと、ジムさんも気苦労が多そうだ。
調査隊の隊員は、心配していたほど年齢層が高くはならなかった。ライナスの出した条件のおかげだと思う。ライナスは隊員を受け入れるにあたり、三つの条件を出した。
まず、十分な協調性があり、集団行動に問題がないこと。
次に、馬に乗れること。
最後に、初級の魔獣ハンター程度の戦闘力と生活力を持つこと。
最初と二番目の条件が、前回の遠征でのライナスの苦労を思わせて、ちょっと泣ける。
三番目の「初級魔獣ハンター程度の戦闘力と生活力」とは具体的に言うと、下級の魔獣であれば自力で倒せ、野営の準備も自分でできる、という意味だ。要するに、道中で足手まといになる人は勘弁してくれ、ということ。
この条件のおかげで、お世話が必要な人が隊員として名乗り出てくることはなくなった。
この三番目の条件が、研究者には特に厳しかったようだ。というのも、そもそも研究で名を上げるような人なんて、だいたいが研究馬鹿と呼ばれるような人ばかりだ。つまり研究以外のことは、何もできないことが多い。
だけど道中に危険があるとわかっているのに、そんな人が隊員では困るのだ。
結局、この三つの条件のおかげで、研究者本人の参加はほとんどなかった。だいたいが助手などの代理参加だ。だから年齢層は、二十代後半から三十代前半が中心。心配したよりはだいぶ若かったけれども、それでもライナスと私は最年少だった。
研究者枠は最終的に、国内から五名、国外から六名の、合わせて十一名が参加することになった。一応、自衛できる最低限の戦闘能力は条件に出したけれども、さすがにこれだけの人数の同行者がいて、戦闘員がライナスだけというのは心細い。
そこで、さらに戦闘員として兵士が六名参加することになった。これにライナス、私、ジムさんの三名が加わる。その結果、総勢二十名の編成と、それなりの人数にふくれあがってしまった。
ライナスは大変に不服そうだ。
もともと私と二人で行くつもりだったから、二十人でも多すぎるんだろう。
まあ、気持ちはちょっとだけわかる。何しろ、最初の遠征での苦労話は、何度聞いても気の毒だ。でも今回は、お姫さまがいないから。前回とは違うから。前回に比べたら人数だって十分の一以下なわけだし。
ライナスが嫌そうな顔をするたびに、そう言ってご機嫌をとる。
最速で準備したにもかかわらず、調査隊の派遣が決まってから実際に出発するまでに、半年近くが経過していた。たぶん、準備にこんなふうに時間がかかるところも、ライナスにとってはうんざりする部分なんだと思う。二人だけなら、準備に二日もかからないだろう。
出発の日が近づき、調査隊に参加する研究者たちが国外から集まってきた。




