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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第一章 帰還

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08 魔王城、上層探索 (2)

 しばらく考えてから思いついたのは結局、物理的な方法だった。

 孵化させたい卵がここに置かれているのだとすれば、ここは孵化に適した条件が整えられた孵化場ということだ。だったら、適さない場所へ移動したらよいのではないだろうか。


「ライ、これ外に持っていかない?」

「外?」

「うん。ここは薄暗いでしょ? だから逆に明るいところに持って行ったら、孵化しなくなるかも」

「ふむ」


 明るさもあるけど、この柱のようなものから引き離すべきだと思った。この柱から何か精気のようなものを与えられているように思えてならないのだ。

 ライナスが同意してくれたので、いったん中庭に戻ることにした。


 中庭では荷物の中から毛布を一枚出して、孵化場に持って行く。

 卵を運ぶのにちょうどよい大きさの袋がないので、これに包んで運ぼうというわけだ。孵化場で詰め込めるだけ詰め込んでからライナスが背負い、こぼれ落ちたりしないよう私は後ろから様子を見ながらついて歩く。一度では運びきれず、二往復した。


 運び出した卵は、中庭の隅にある日当たりのよい石畳の上に転がしておいた。

 孵化場で見たときはほとんど透明のようだった球体の表面は、日光の下で見ると白く膜がかかっているようで、思っていたほど透明度が高くなかった。おかげでグロテスクな中身を見ずに済む。


 すべて運び終えてから、私はライナスにひとつ提案をした。


「さっきの部屋の中央に、紫色の柱があったでしょ? あれを壊せないかな」

「どうだろう。やってみるか」

「うん」


 あの部屋に戻りながら、ライナスに私の考えを説明した。つまり、あの柱が何らかの形で卵の孵化をうながしているのじゃないか、という推測だ。


「配置から考えて、あり得そうじゃない?」

「そうだね。配置か……」


 ライナスはまた何やら考え込んでしまった。

 考え込むほど深い話をしたつもりがなかったから、その反応は意外だった。でも彼の思考を邪魔したくなかった私は、そのまま口をつぐんでそっとしておいた。


 孵化場では、私の覚えている限りの浄化魔法をまず試してみた。

 どれも発動はするものの、何の効果も見られない。

 回復魔法と補助魔法は、試すのをやめておいた。下手に効果があったら困るから。

 そんなわけで、私は役に立ちそうもなかった。次は、ライナスだ。


「勇者のスキルで、何か使えそうなものはない?」

「どうかなあ。とりあえず片っ端から試してみる」

「うん」


 ライナスがスキルを試す間、私は巻き込まれないよう壁際で見守った。範囲攻撃のスキルも少なくないから、ぼんやりして近くで見ていると危ないのだ。見た感じ、スキル自体は発動しているものの、円柱にダメージを与えられている様子はなかった。ライナスがどれほど頑張ろうが、円柱の表面には傷ひとつつかない。


「だめだな」

「みたいね」


 がっかりしたけれども、できることがないのだから仕方がない。

 中庭に戻ろうと提案しようとして、先ほどのライナスの様子を思い出した。


「そう言えば、さっき何か考え事してたけど、何か気になることあったの?」

「ああ。この部屋の真下に部屋があった気がするなって考えてただけ」

「で、どうだった?」

「たぶん、ある。見に行ってみていい?」

「もちろん」


 中庭に戻ってから中層の扉を抜け、ライナスの案内に従って先へ進む。

 案内されて行った先の場所には、見覚えがあった。ライナスが封印されていた場所だ。ホールのように広い場所で、ほとんど何も置かれていない。玉座のようにも見えるやたら豪華な椅子だけがひとつ、入り口から見て正面の壁中央に置かれていた。


 ライナスは迷いなくまっすぐ、椅子の左側の壁に向かって行った。

 壁に何かあるのだろうか。不思議に思いながらその背中を追うと、彼は壁に手をついた。すると大して力を入れている様子もないのに、音もなく壁が向こう側に動いていくのでびっくりした。継ぎ目が見えなかったので私は気づけなかったけれど、彼の押した部分は扉になっていた。


 扉を抜けると、そこは広々とした寝室だった。

 寝具も家具も見たことがないほど豪華だというのを除けば、普通の居室のようだ。こんな部屋があるなら、中庭で野営なんかしなくても寝心地のよいベッドで寝られたんじゃないだろうか、という考えが頭の中を一瞬よぎったけれども、すぐ否定した。何があるかわからないこんな場所じゃ、安心して眠れそうもない。

 ライナスは部屋の中央に立つと、部屋全体をぐるりと見回してから、うなずいた。


「やっぱりそうだ」

「何が?」

「ほら、あそこ。見てごらん」


 ライナスが指さした先は、ベッドの上にある天井だった。

 そこには天井から半球状のガラスのようなものが飛び出していて、そこからシャンデリアのような飾りが下げられていた。そのシャンデリアには、しずく型の透明な石が無数に取り付けられている。天井についている半球も、シャンデリアにぶら下がっているしずく型の石も、どちらも黒みがかった紫色だ。

 その色は、孵化場の中央に置かれていた透明な円柱の色とそっくりだった。


「もしかして、ここが真下なの?」

「うん。たぶん、そう」


 その視線から、ライナスの考えていることがだいたい想像できた。

 あのシャンデリアが、孵化場の円柱とつながっているのではないか、と彼は考えているのだろう。私もそう思う。そして、もしもあの円柱が卵に何らかの影響を与えているのだとしたら、同じものの近くに置かれているベッドの主にだって何がしかの影響があるに違いない。


 この推測が正しければ、ライナスが調べたがっていた三つの疑問のうち二つがわかったことになる。


 ひとつ目の疑問、魔獣はどのように生み出されているのか。

 何らかの方法により新しい魔獣の卵が作り出され、孵化場で生み出される。


 二つ目の疑問、なぜ復活後の魔王は魔王城から離れないのか。

 魔王であるためには、あの円柱から力を受け取り続ける必要があるから。


 三つ目の疑問、魔王のスキルはどのように増えているのか。

 もしかしたら、これもあの円柱と何か関わりがあるのかもしれない。たぶんあると思う。図書室があることとも、何かしらの関係がありそうな気がしている。

 まあ、でも、どのように増えているかは、割とどうでもよいことのように私には思える。それよりも増えていること自体が問題なんじゃないかな。このまま封印に失敗し続ければ、ますますスキルが増えていくということだから。

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