表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第一章 帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/143

07 魔王城、上層探索 (1)

 魔王城の探索を初めて三日目の翌日、ライナスは中層の探索をあらかた終え、上層の探索を始めた。

 探索は、割と単調な作業らしい。

 中層には、下層の図書室みたいに私たちにも役に立つような場所はなかったようだ。ただ迷路の先に倉庫のような場所があるばかりだと言う。しかもその倉庫に置かれているのは、何だか得体の知れないものばかり。とりあえず何が置かれているのかは不明なまま放置して、とにかく探索を続けている、とライナスは言っていた。


 一方、私は相変わらず読書に励んだ。

 補助魔法の本は、回復や浄化の上級魔法と似たような解説も多く、先に二冊読み終えているおかげか読み進むのも速かった。

 昼前に読み終わってしまったので、先に中庭に戻って馬の世話をしたり昼食の準備をしたりした。馬たちは相変わらずのんびりと、中庭での休日を満喫しているようだ。


 昼食の準備を終えてもまだライナスが戻ってこないので、図書室から持ち出してきた歴史の本を開いた。過去の勇者たちの、魔王討伐後の軌跡をたどってみたいと思ったのだ。勇者たちについてまとめた本というのが存在しないため、自分で歴史の本をひもといて調べるしかない。

 「勇者」という文字を探しながら流し読みしているうち、ライナスが戻って来た。


「おかえりなさい」

「ただいま」


 ライナスは、何だか難しい顔をしている。

 心配になったので、尋ねてみた。


「どうしたの? 何かあった?」

「うん……。まあ、とにかく食事にしよう。後で話すよ」


 後で、ということは、食事をしながら話したい内容ではないということだ。

 ライナスは何か気がかりがあるのか、どこか上の空の様子で、食事中に会話が弾むことはなかった。食事が終わってもまだライナスはしばらく心ここにあらずの状態だったが、私はせっついたりせず、そのまま放っておいた。後で話すと言ったのだから、考えがまとまったら話してくれるだろう。それまでは邪魔をしないでおくほうがいい。


 食事の後片づけを済ませた後、ちらりとライナスの様子をうかがうと、まだ膝を抱えて何か考え込んでいた。これは時間がかかりそうだと思い、歴史の本を手に取ったとき、ライナスが顔を上げた。


「フィー」

「うん?」

「見てほしいものがあるんだけど、付き合ってくれる?」

「うん、もちろん」


 私は本を置いて立ち上がり、「見せたいものって何?」と尋ねた。

 ライナスは、まずいものでも飲み込んだように顔をしかめ、「見せたいわけじゃないんだけど……」と口ごもる。その反応に、思わず首をかしげた。いや、だって今、見てほしいものがあるって言ったよね?

 そう心の中で思ったとき、言葉の違いに気がついた。見せたいわけではないけど、見てほしいってことか。


「で、それは何なの?」

「うまく説明できないから、見てもらうのが一番早いと思う」

「そっか、わかった」


 その後はもう質問をせず、おとなしくライナスについて行った。

 迷路の中を歩いて行った先には、図書室の入り口とよく似た大きな両開きの扉があった。ライナスはその前で立ち止まると、神妙な顔で私に謝った。


「見て気持ちのいいものじゃないんだ。ごめん」

「でも見る必要のあるものなんでしょ? 謝らなくていいわよ」


 扉を開けると、そこには図書室と同様に円形の部屋が広がっていた。

 ただし図書室とは違って、薄暗い。部屋の中央には黒大理石でできた丸い台座があり、その中央には黒みがかった紫色の透明な円柱型の石が置かれている。この円柱はかなりの大きさで、直径が私の身長と同じくらいありそうだった。この円柱は、まるで脈打っているかのようにほのかに明滅している。

 そしてその円柱の周りには、人の頭くらいの大きさの球体がびっしりと取り囲んでいた。


 ここまでだと、特に気持ちの悪いものもない。

 けれど次第に暗がりに目が慣れてくると、球体の中に何か入っていることに気づく。そして球体の中身を確認しようと顔を寄せて目をこらし、悲鳴を上げそうになった。


 球体の中にあるのは、胎児の姿だった。

 なにこれ……。


 私が息をのんだのに気づいたのか、ライナスが私の肩を抱いて台座から引き離した。


「ごめん。気持ちわるかったよな」

「何なの、あれ?」

「たぶん、魔獣の卵」

「え、魔獣? でも────」

「うん、そうなんだよ」


 魔獣と呼ぶには、あまりにもヒトに似ていた。まるで人間の胎児のようだった。まあ、胎児のうちはヒトもサルもほとんど見た目は一緒だろうから、ヒトと言い切れるわけではない。でもとにかく、ヒト型をしていた。四つ足の獣っぽくはない。


「これが孵化したら、知能の高い魔獣が、群れを作って組織化して襲ってくるようになりそうじゃない?」


 ライナスの言葉に、私はうなずいた。

 もしもそんなことが現実に起きたとしたら、早晩、人間は絶滅するだろう。

 孵化をとめないと。

 けれどもちろん、そんなことはライナスがとっくに考えていた。


「破壊しとこうと思ったんだけど、歯が立たなかった」

「え、ライでも?」

「うん」


 卵なんて、壊れやすいものの代名詞みたいなものなのに。落としたら簡単に割れるんじゃないの? 中身がここにこぼれると思うと、あまり試してみたくはないけれど。

 私の考えを読んだかのように、やにわにライナスは聖剣を引き抜き、球体のひとつの上に振り下ろした。ギョッとしている私の目の前で、聖剣は球体に当たると、硬質な音を立ててはじかれた。


「ほら。こうなんだよ」

「なるほどね」


 ライナスの行動に驚かされたおかげで、球体の中身を見たときの衝撃が薄れた。

 物理攻撃で歯が立たなかったので、私の魔法で何かできないかと思って呼びに来たらしい。そう言われても、私には攻撃魔法は使えない。覚えてみようと試したことはあるのだけど、どうやら適性がないらしかった。回復系の魔法ならすんなり覚えられるのに、攻撃魔法はさっぱりなのだ。


 一応、頑張ったら初級のものを何とか使えるようにはなったが、攻撃力が全然ない。

 水魔法の攻撃なら、威力の弱い水鉄砲みたいにちょろちょろと、小さいコップ半分くらいの水が飛ばせる。旅の途中で水が枯渇したときには、重宝するかもしれない。でも攻撃力はない。

 火魔法の攻撃なら、指先からロウソクの火くらいの小さな炎が出せる。火打ち石いらずで便利ではある。でも攻撃力はない。

 風魔法も、土魔法も、まあ似たようなものだ。


 さて、どうしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ 異世界恋愛 ▼
逆襲の花嫁

▼ ハイファンタジー+異世界恋愛 ▼
魔王の右腕は、拾った聖女を飼い殺す

▼ ハイファンタジー ▼
代理の王さま
― 新着の感想 ―
[気になる点] 中世ファンタジー(?)な世界で、地方の出の日曜学校に通ったぐらいの主人公が『胎児がどんな姿か』を知っている? 読書家ではあったみたいだけど、そんな知識に触れられるのだろうか。 あるいは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ