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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第一章 帰還

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04 魔王城、下層探索 (2)

 部屋の中央に置かれている大きな円卓に、持って来た小菓子を出して、木製のカップに水筒から水を注ぐ。

 魔王城に転移してくるときに持っていた荷物がすごい量になっていたのは、ご領主さまからこんなものまで持たされていたからだった。おそろしいことにワインの入った水筒まで詰め込まれている。


 小腹を満たしながら、ライナスと情報交換した。

 書棚の本は、どうやら分類別に仕分けられているようだった。ただし年代も言語も関係なく、分類が一緒であれば同じ棚に置かれている。もっとも私とライナスはどちらも外国語にはあまり堪能ではないから、外国語の本がすべて本当に同じ分類の本かどうかまでは確認できていない。ただ、まあ、外国語の本だけ分類無視で置くほうが不自然だから、たぶん合っているだろうと思う。


 情報交換も終わり、続きを再開しようと立ち上がろうとしたところ、ライナスにとめられた。

 ライナスは私を円卓の前に座らせたまま書棚に向かい、迷いのない手つきで数冊の本を取り出して、私のところに持って来た。


「フィーには、これを読んでみてほしいんだ」


 手にとってみると、それは上級魔法書だった。回復魔法、浄化魔法、補助魔法。

 中級魔法までは一冊にまとまっていたけど、上級魔法は分冊になっているらしい。


「今読むの?」

「うん。もし覚えられそうなら、覚えてほしい。書棚の調査は俺がやるから」


 上級魔法なんてさすがに覚えられる気がしないし、時間の無駄のように思われた。でもライナスは、試してみるべきだと言って譲らない。


「フィーは中級魔法だって、本を読んだだけで覚えてたよね。なら上級だって試す価値はある」

「いやいや。あれは読めばわかるように書いてあったからで────」

「上級の本だって、読めばわかるように書いてあるかもしれないよ?」


 今日のライナスは、妙に頑固だ。

 ライナスに仕事をやらせて自分だけ本を読んでいるだなんて、どうしても気が引けてしまう。でも当のライナスがそうしろと言い張るのだから、仕方がない。

 結局、私が折れた。


 まずは回復魔法の本を手に取る。

 回復魔法がどのように作用するかに始まり、初級や中級魔法との関連など、基本的な説明が詳しく書かれている。上級という名称に気圧されてしまったけど、説明のわかりやすさは意外なことに初級や中級と大差がなかった。薬師に必要な知識と重なる部分も多いから、それでわかりやすく感じるのかもしれない。


 いつの間にか時間が経つのも忘れ、すっかり本に没頭していた。

 洞窟の中の部屋だと陽光の変化がわからず、時間の感覚が失われる。


「フィー、そろそろ食事にしよう」


 ライナスに声をかけられて顔を上げ、お腹がすいていることに気づいた。

 彼は本をのぞき込むと、私の進み具合を尋ねた。


「上級魔法書はどう?」

「まだ理論の解説のところしか読めてないけど、意外とわかりやすかった」

「やっぱりな」


 やっぱりってどういう意味だろう。ライナスの言葉に首をかしげると、なぜか彼は得意そうな顔をする。


「フィーならきっと習得できると思ってたんだ」

「まだ読み始めただけだから。覚えられるかどうかまではわからないわよ」

「大丈夫。できるよ」


 ライナスはいかにも自信たっぷりに請け合うので、笑ってしまう。いったいその自信は、どこからわいてくるの。


 図書室から中庭までは、割とすぐだった。図書室に行く前に散々あちこち歩き回ったせいで、奥のほうにある場所だと勘違いしていたけれども、実際には中庭からほぼ一本道で距離もあまりない。これなら私ひとりでも迷わず行けそうだ。


 中庭に出ると、ちょうど日が暮れていくところだった。まるで時間を見計らったかのようだ。感心していたら、ライナスが種明かしをしてくれた。さきほどまでいた図書室には、時計があったのだそうだ。時計の音なんてまったくしなかったから、私は全然気がつかなかった。


 馬たちの様子を確認すると、それぞれのんびり休みを満喫していた。

 中庭はそこそこの広さがあり、餌も水も十分にあって、馬たちに関して心配することは何もなさそうだ。


 簡単に夕食を済ませ、たき火を前にしてライナスの調査状況を聞く。

 やはりライナスは仕事が早く、既にひとりで半分以上の調査を終わらせていた。しかも調べながら、めぼしい本を選別しているらしい。すごい。私が参戦してもたいした戦力増強にはなりそうもないので、ライナスの「フィーは上級魔法書に専念してほしい」との言葉に甘えることにした。


 話がひと区切りした後は、二人とも黙ってたき火を見つめていた。

 私はライナスのすぐ隣に座り、寄りかかった。身体の触れ合った部分から、体温を感じて温かい。本物のライナスだ。ちゃんと生きている。それがとてもうれしくて、何だか泣きたいような気持ちになった。ライナスを疑ったことは一度もないけど、心配はしていた。ずっと、ずっと心配だった。


 だからこうして無事にいるということが、本当にうれしい。

 ただし二年ぶりに会ったという感じは、あまりしない。こんなふうに一緒にいると、まるで離れていたのはほんの数日しかなかったみたいだ。

 時間の感覚がおかしくなっている。


 思えば、ライナスもどきとお姫さまに会ったのも、魔王城に飛んできてライナスの封印を解いたのも、つい昨日のことなのだ。あれからまだ一日しか経っていないなんて、うそみたい。すっかり遠い昔の出来事のように感じる。


 あんなに全身どこもかしこも傷だらけだったライナスは、解除スキルのおかげで今はもう傷ひとつない。

 封印されていたときの姿を思い出したら、ぞっとして身震いがした。


「日が落ちると、急に冷えるね」


 震えた理由を勘違いしたライナスは、私を毛布にくるんで抱き寄せた。

 勘違いだと説明しようかとも思ったけど、実際ライナスの言うとおり寒くなってきていて、暖かい毛布は心地よかった。だから、ただ「うん」とだけ返事をして、身体を彼に預けた。しあわせだった。

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