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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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34 岩盤の穴開け (2)

 屋敷ではイーデン用に客室をひとつ用意した。契約期間中、イーデンにはそこで寝泊まりしてもらう。「裁きの書」のスキルを知っているイーデンには、あえて現地に寝泊まりしてもらう必要がないから。


 伯父さまにイーデンを紹介し、早めの昼食を済ませてから、魔王城のライナスのところに転移する。ライナスはイーデンを見て、目をまたたかせた。


「もう連れて来たのか」

「隊長、またよろしく」


 ライナスに挨拶するイーデンは、楽しそうだ。そのイーデンを、そのまま親方のところに連れていく。


「親方、来てくれましたよ」

「いや、本当に連れて来ちまったのか」


 親方は目を丸くしていた。まさか昨日の今日でイーデンが来てくれるとは、夢にも思わなかったのだろう。


「今日から見習いに入ったイーデンです、よろしく」

「どこが見習いだってんだ。立派に熟練の穴掘り職人だろうがよ」


 朗らかにとぼけた挨拶をするイーデンに、親方は吹き出した。いったいいつの間にイーデンが穴掘り職人になっていたのか知らないけど、仲よくやってくれそうだ。


 私はイーデンを魔王城に残して、王都に戻った。


 夕方、再び魔王城に転移して、ライナスに首尾を尋ねる。


「進展はあった。少しずつ掘れるようにはなったよ」


 何とも言えず、含みのある言い方だ。私は首をかしげて、ライナスに尋ねる。


「何か問題があるの?」

「うん」


 ライナスによれば、問題は二つある。


 ひとつは「少しずつ」が、あまりにも少しずつでしかないこと。掘れるには掘れるが、これでは何年かかるかわからない。岩盤を掘るのに使えるスキルは、連続して使えるものではないそうだ。その上、体力の消耗が激しい。


 もうひとつは、スキルを使って岩盤を削ったとき、削れた岩石が勢いよく飛び散ること。しかもこうして削れた岩石の破片は薄くとがって、天然の刃物のようになっていることが多い。スキルを使うたびに生傷が絶えないと言う。


 話を聞いて、ゾッとした。そんな状態じゃ、間違いなくそのうち大けがをする。


 その都度ポーションで治しているとライナスは言うけど、そういう問題じゃないのだ。当たり所が悪ければ、即死するのよ。それまでライナスの横で黙って話を聞いていたイーデンが、ぽつりとつぶやいた。


「マイクがいればなあ」

「マイク?」

「うん。あの人、防御系のスキルいっぱい持ってるからさ」


 なるほど。連れてくればいいのね。


 王都に戻った私は、もちろん伯父さまにマイクを借りられないかと相談した。さらに、イーデンのスキルと同等の威力を出せる魔獣ハンターを集めたい、という希望も出しておく。


「威力がイーデン相当っていうと、一級の魔獣ハンターしかいないんじゃないか」

「そう言われてみれば、そうですね」

「しかも、その中のトップクラスってことだろう」

「そうなっちゃいますね……」

「国内には、もういないと思うよ」


 伯父さまの言葉に、私は肩を落とす。けれども同時に、「国内には」と聞いてひらめくものがあった。国内にはもういなくても、国外まで範囲を広げたらいるってことじゃない?


 そこに思い至れば、浮かんでくる名前がある。デイヴ、ジュード、アレックス、ブレント。調査隊の国外枠として参加してくれた面々だ。指名依頼すれば、きっと受けてくれると思う。全員にお願いしたら、依頼料の総額がびっくりするような額まで積み上がりそうだけど。


 マイクに関しては、伯父さまがすばらしい手際で手配してくださった。なんと翌朝には、屋敷に来てくれたのだ。


 驚いたことに、翌朝来てくれたのはマイクだけではなかった。どうしたことか、ジムさんがおまけに付いてきた。


「だいぶ大掛かりな話になってるんだって?」

「必要な顔ぶれが豪華なだけです……」

「つまり、外交が絡む話ってことだよね」


 お金の心配ばかりしていたけど、政治の心配をすべきだったらしい。


「うちが全額持って、さっさと片付けちゃってもいいんだけど。それよりも各国から派遣してもらう形を取るほうが、外交面からは益があると思う」

「え、なんでですか」

「魔王本体の討伐に貢献したって言えるからね」


 お金よりも名声が大事ということか。それに、それぞれがひとり分の依頼料なら、そこまでの負担にはならないだろうし。イーデンの依頼料も国家事業ということで、ローデン家が立て替えてはいるけれども国から補填されるとのこと。


 でも「各国から派遣してもらう形を取る」と聞けば、ひとつだけ気になることがある。


「ジムさん、ボイクート共和国のことなんですけど」

「うん?」

「派遣をお願いするのは、総督にですか?」


 この件をコーウェン総督の人気取りに利用されるのは、業腹だと思ったのだ。


 私の質問に、ジムさんは「ああ」と合点がいったような顔をしてから、にんまりと悪い笑みを浮かべた。


「もちろん違うよ。あんなごうつく親父には、絶対知らせてやるもんか」

「でも、そんなことをしたら外交問題になりません?」

「そうならないように、話を持っていくのさ」

「どうやって?」


 いかにも簡単そうに言うジムさんに、私はきょとんとした。


「派遣を依頼したいのは、調査隊の隊員だった者のわけだよね」

「はい」

「だったら、それを派遣してくれた人たちに知らせるのが筋ってもんじゃない?」


 隊員たちは、それぞれの国から派遣されて来ていた。ボイクート共和国を除いて。あの国だけは、アレックスの父であるメリガン伯爵が後援して派遣している。だから、あのときの隊員の後援者に連絡をとれば、自動的にコーウェン総督ではなくなるというわけだ。


「おお。ジムさんすごい……」

「お褒めにあずかり、大変光栄です。でも、きちんと整合性をとると自然にそうなるだけだよ」


 それでも、私の心は軽くなった。自分で思っていたよりも、コーウェン総督が私たちを利用しようとするのを不快に感じていたみたい。

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