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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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25 アムリオン王都

 数日の観光の後、私とライナスは船上でジュードと合流した。


 メリガン伯爵のおかげで、滞在中、コーウェン総督からの接触は一切なかった。ヒュー博士の留守宅に押しかけたり、大使館に突撃訪問したりはあったようだけど、どちらにも私たちはいない。


 ジュードはジュードで、ボイクート観光を満喫していたらしい。


「大使館の馬車で出かけるたびに、つけ回してくるんだよ。バレバレで面白かったよ」


 完全なる愉快犯である。


 ちょうどよいカムフラージュになるからと、外出のたびに大使館が馬車を出してくれたのだとか。大使館員たちが総力を挙げて、ノリノリで攪乱作戦の計画と実行に参加していたと聞いて、笑ってしまった。どうやらコーウェン総督は、大使館員からも人気がないらしい。


 ボイクートの首都を出てから、もう一か所の調査地点に立ち寄り、船はアムリオン王国に向かった。調査地点では、やはり何も新しい発見はなかった。



 * * *



 アムリオンの王都は、アムリオン運河の北側にある。この運河はちょうど東大陸との境あたりにあり、南北に走っている。


 ボイクート共和国はアムリオン王国の南西に位置するから、ボイクートを出てアムリオン王都に船で行くには、まず運河を渡る必要があった。


 運河は海から見た限りでは、普通の河口と何も変わらない。でも内陸に向かって進んでいくうち、何度も停止していた。河での航行なら、そんな必要はないのに。どうして停泊する必要があるんだろう。


 こういうときに便利なのが、ライナス先生。


「ねえ、ライ。どうして運河ではときどき停泊してるの?」

「水位を調整するためだよ」

「どういうこと?」


 運河の水位は、河口付近は海面と同じだけど、内陸では海面よりも高いのだそうだ。だから何もせずに放置したら、水が海に流れ出てしまう。それを防ぐため、所々で水をせき止める(せき)が作られている。堰と堰の間には水位調整ができる仕掛けが施されている場所があり、そこで停泊して、進行方向の水位に合わせてから進むのだそうだ。


 この堰を、閘門(こうもん)とか水門などと呼ぶ。


「だから閘門式運河とか、水門式運河って呼ばれてる」

「へえ」


 この後、ライナス先生からは「水位調節には、いくつか方式がある」という説明が続いた。具体的な方式や、それぞれの長所と短所を丁寧に解説してくれる。でも、ごめん。ほとんど右から左へ抜けてしまった。


 まあ、閘門式運河という言葉を覚えただけで、よしとしよう。細かいことは、必要ならそのときまたライナスに聞けばいい。私の記憶はライナスと違って、よくも悪くもザルなのだ。大きなものしか引っかからない。


 そして到着したアムリオン王都は、私が想像していたものとは、まるで違った。


 まず港に入った時点で、船の多さに度肝を抜かれた。そして船から降りたとき、生まれて初めて外国語を聞いた。隣の桟橋につけた船から荷下ろししている水夫たちが、聞いたことのない言葉を話していたのだ。


 方言などではなく、間違いなく外国語。だって水夫たちは、見るからに容姿が私たちとは全然違うんだもの。どこの国の人かまではわからなくても、東大陸から来た人なのは見てわかる。


 水夫たちは全員が黒髪で、肌の色は褐色だった。船乗りだから日焼けしていても不思議はないのだけど、日焼けと呼ぶには色が濃かった。肌色が濃いと、真っ白の制服がよく映える。顔立ちも、私たちとは違った。うまく言えないけど、何というか、濃いのだ。顔のパーツすべてが主張しているというか。


 かと思えば、反対側の桟橋の船からは、また違う雰囲気の水夫たちが乗り降りしている。こちらも全員が黒髪だ。東大陸には、黒髪の民族が多いのかしら。


 けれども肌の色は褐色ではなかった。私たちに色が近い。でも少し違う。クリーム色というか、生成りの色というか。そして顔立ちは、全体的にあっさりしていた。薄いと言ったら失礼かもしれないけど、顔のパーツすべてが控えめだ。この人たちは、褐色の肌の人たちとはまた別の言葉を話しているように聞こえた。


 なるほど、王族がこぞって留学するのも納得だ。見聞を広げる目的なら、西大陸にはアムリオン以上の場所はない。


 私たちの船の桟橋には、宿からの迎えが来ていた。ところが宿の人と並んで、見知った顔がある。


「よっ、久しぶり! アムリオンへようこそ!」

「お久しぶり」


 調査隊で仲間だった、ブレントだ。アムリオン王国から派遣された一級魔獣ハンター。わざわざ来てくれるなんて、思ってもみなかった。


 ジュードが護衛に付いて来てくれたから、ブレントには指名依頼を出していない。到着時間も知らせてなかったのに、よく来てくれたなあ。どうしてわかったんだろう。不思議がっていたら、ブレントが種明かししてくれた。


「大使館から警護の依頼を受けたんだ。滞在中、よろしく」


 そういうことか。アムリオンの大使館には、もちろん予定を詳しく事前に連絡してある。ジュードとブレント、一級魔獣ハンターが二人も護衛に付いてくれるだなんて、贅沢な旅だ。


 滞在先は、ロイヤルゲストハウスという宿である。大使館のお薦めだった。


 宿へと向かう馬車の中、私は窓から街の景色を楽しんだ。シャーロン王国やボイクート共和国の景色は異国情緒にあふれていると思っていたけれども、アムリオンの王都はその比ではない。エキゾチシズムとは、まさにこの街のためにあるような言葉じゃないかと思った。


 王都の規模も、意外だった。人口の少ない国と聞いていたから、王都も小ぢんまりしているだろうと思っていた。でも実際には、他の国の王都と比べて少しも遜色がない。むしろ人通りの賑わいという観点からは、この大陸随一だろう。


 とにかく、人が多い。何か祭りでもあるのかと思うほどだ。でもブレントに聞くと、これが日常だと言う。


 そして通りを歩く人々は、先ほど港でも見かけたように、東大陸から来たとおぼしき姿が多かった。半分か、もしかしたらそれ以上が東大陸の人たちかもしれない。

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