21 新しい滞在先
到着した先は、私の想像していたものとは全然違っていた。そこはただの「家」なんかじゃなかった。威風堂々たる邸宅だったのだ。誰の目にも明らかに貴族の屋敷。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
出迎えた執事を私に紹介してから、アレックスはテキパキと指示をした。
「お客さまをお迎えするから、二人用の客室に案内を頼む」
「かしこまりました」
「ローデンご夫妻だよ。勇者どのと聖女さまって言ったほうがわかりやすいかな」
「なんと」
執事が目をむいてこちらを見るので、にっこりと会釈しておいた。執事はあわてて「失礼いたしました」と咳払いし、居住まいを正す。
アレックスは執事の様子に構うことなく、先を続けた。
「今日は奥さまだけ先にお招きしたけど、ご夫妻での滞在だ。夫君は明日から」
「かしこまりました」
「あと、明日からはヒュー博士もしばらく滞在予定なんで、もうひとつ部屋の用意をしといてくれる?」
「承知いたしました」
アレックスは頭の中で何かを確認するように、人差し指を立てて小さくうなずきながら少し考え込んでいたが、やがて執事に質問をした。
「お父さまか、上の兄さまはまだ起きてる?」
「おふたかたとも、まだお休み前でございます」
「わかった。ありがとう」
執事への確認が終わると、アレックスはこちらを振り向いて微笑みかけた。
「親には先に事情だけ説明しておくけど、今日はもう遅いから部屋でゆっくりしてください。朝食は、部屋に運ばせるね。明日は、全員そろってから両親を紹介するよ」
「うん。いろいろ本当にありがとう」
執事に部屋へ案内され、着替えてベッドに入る。アンバーのバスケットに、パジャマだけ入れてきた。アンバーは早くもベッドカバーの上に、お腹丸出しでくったり四肢を投げ出している。豪快な寝相は、相変わらずだ。見るとなごむ。
ベッドの中で目を閉じ、私はあわただしかった一日の出来事を思い返した。そうしながらも、私の頭の中には大きなひとつの疑問が渦巻く。
────アレックスって、いったい何者?
* * *
翌朝、目が覚めると、頬に柔らかく温かいフワフワしたものを感じた。アンバーのお尻だ。
いつものように頭だけを毛布に突っ込み、行き倒れスタイルでペタッと後足としっぽを後ろに投げ出している。かわいいんだけど、こわさが勝る。気づかず寝返りを打ったら、簡単につぶしてしまいそうだ。危ないから、本当にやめてほしい。
アレックスが言っていたとおり、食事は部屋に運ばれた。何とも気の利くことに、アンバーの食事も用意されている。
そして予定どおり、昼前にはライナスと博士が転移してきた。さっそくライナスに抱きついて、首尾を尋ねる。
「どうだった?」
「予想どおりだよ。跡をつけてきたね」
尾行には、辻馬車を使っていたそうだ。辻馬車に見せかけただけで、コーウェン総督の家の馬車かもしれないけど。どちらにしても、後ろから一定の距離をおいてついてきたら、いやでも目に付く。隠す気がないのかもしれない。
私の身代わりをしたメイドを辻馬車に乗せ、博士の身代わりをする大使館員を送り出してから、転移してきたそうだ。
大使館に残ったジュードは、大使館員たちと協力して、ライナスと私のアリバイ工作をしてくれることになっている。一日ほど時間をおいてから、観光に出たかのように装うそうだ。
ライナスたちの話を聞き終わり、私は昨日からとても気になっていたことを尋ねようと口を開いた。
「ところで、アレックスって────」
ところがあいにく、私は質問を言い終えることができなかった。その前にノックの音が響いたからだ。やって来たのは、まさに話題にしようとしていたアレックス本人だった。
「いらっしゃい。よかった、無事に来られたんだね」
「うん、ありがとう。助かったよ」
「しばらく世話になります」
ライナスたちと挨拶を交わした後、アレックスが尋ねる。
「両親を紹介したいんだけど、今いい?」
「もちろん。こちらからお願いしたいところだった」
アンバーはちょうど食事が終わって寝たばかりだったから、バスケットごとケージに入れておく。ケージや手荷物は、転移のときにライナスがまとめて一緒に運んでくれていた。
案内された先は、応接室。アレックスの両親らしき人々に迎えられた。私が想像していたよりも少し年若く見える。いずれも見るからに上品だった。
「隊長、こちらが両親です。ロジャー・メリガンとアン・メリガン」
「調査隊では息子が大変にお世話になったと聞いています」
「お目にかかれて光栄です」
夫妻から口々に挨拶されて、こちらからも会釈する。ライナスはそつなく「こちらこそ、いろいろと助けられました」と挨拶を返していた。
「事情は息子より聞き及んでおります。どうぞ遠慮なく、お好きなだけご滞在ください」
「ありがとうございます。とても助かります」
「礼の言葉をいただくなど、とんでもない。我が国の者がご迷惑をおかけしたこと、本人に代わって深くお詫び申し上げます」
深々と頭を下げられて、逆にこちらが恐縮する。ヒュー博士がにこやかにこちらを振り向いて、夫妻の紹介を補足した。
「メリガン伯爵はね、調査隊に参加するときも後援してくださったんだよ」
アレックスの家は、伯爵家だったのか。
横目でチラリとライナスの顔をうかがうと、驚いた様子がなかった。たぶん、これは聞く前から知っていたな。ライナスの頭なら、主要な貴族の家名と爵位が収まっていても不思議はないもの。
ライナス「フィーが出た後、博士から聞いて知ってただけ」




