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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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17 シャーロン観光 (2)

 荷造りをだいたい終え、身支度が済んだ頃に、大使館から迎えの馬車がやって来た。


 ライナスと私は、準礼装に身を包んでいる。こうした服があるのは、船旅だから。馬ではなく船で旅をすると決めたとき、衣類をリース王国に送り返すのをやめたのだ。おかげで必要があれば、それなりに貴族らしい服装をすることができる。


 もし馬で旅行していたら、こういう事態に陥ったときに着る服がなかった。貴族として誰かと会うことを全く想定していなかったのは、とても見通しが甘かった。今ならそれがよくわかる。


 着付けは、宿の人にお願いした。侍女も従者も連れてきていないから。貴族向けの宿なので、そういうことにも当たり前のように対応してくれるのがありがたい。


 大使館では、食堂ホールに案内される前に、今日の参加者を紹介された。ひとりはもちろんジュード。それから大使館員二名と、大使夫妻。そしてもうひとり、ジュードと同年齢くらいの青年。


「チャーターした船のオーナーなんだ。いろいろ融通してもらったから、呼んでおいた」

「そうでしたか。助かりました、ありがとうございます」


 よそ行きの顔で礼儀正しくお礼を言うライナスに、青年はにこやかに「いいえ」と返す。自己紹介のために口を開きかけた様子だったのに、私が手にしていたバスケットが気になっちゃったらしい。


 相変わらず豪快な寝相をさらしているアンバーをのぞき込み、小さく吹き出した。


「ふふっ、これが保護したという野生の猫か」


 爆睡中だから大丈夫だとは思うけど、ちょっと近い。だからといって、まだ危険もないのに遠ざけるのも失礼のような気がする。どうしようか躊躇していたら、ジュードがやんわりとバスケットを手で遠ざけるような身振りをした。


「殿下。それ、小さくても猛獣ですからね。近寄りすぎです。もう少し離れてください」


 え、殿下? 私は目をパチクリさせ、ライナスと顔を見合わせた。ジュードが苦笑しながら紹介をする。


「こちら、我が国の王太子殿下」

「失礼、挨拶が遅くなりました。レジナルド・シャーロンです」


 そう言えばダーケイアでも、こんなことがあったなあ……。思わず遠くを見る目になってしまう。いやに船の手配が早いと思ったら、こんなところから調達していたなんて。ちょっとは自重してほしい。


 そんな感じに、既視感のある不意打ちがあったりはしたものの、つつがなく紹介を終えて食堂ホールへ移動する。出てきた食事は、意外なことにリース風の料理だった。


 大使が人懐こい笑顔で理由を説明する。


「しばらく異国の食事が続いたでしょうから、久しぶりに故国の味もよいかと思いまして」

「お気遣い、ありがとうございます」


 久しぶりに慣れ親しんだ味の食事をとると、確かにどこか安らぐ感じがした。


 もっとも、実を言えば、私もライナスもホームシックとは縁がない。結婚指輪のスキルと「裁きの書」のスキルを組み合わせて、短時間とはいえ頻繁に帰宅しているから。もちろん極秘事項なので、決してそんなことは言えないけれど。


 それに、ちょくちょく帰宅しているとは言っても、基本的に食事はすべて旅先でとっている。故国の味が久しぶりなのは、間違いなかった。


 食事が始まると、王子さまは気安く話しかけてくる。


「ジムの友人なんだって? 私もジムの友人なんだよ」

「そうなんですか」

「友人の友人だから、すでに友人と言っても過言ではないな」


 どう考えても過言です。


 王太子殿下は、さわやかな笑顔でボケたことをおっしゃる王子さまだった。なるほど、これはいかにもジムさんの友人だ。それも、類は友を呼ぶたぐいのご友人。


 けれどもライナスは、王子さまの冗談に対しても生真面目に返していた。


「いえ。ジムさんは直接の友人ではなくて、兄の友人です」


 ところが王子さまは「なるほど」とうなずき、したり顔で続ける。


「つまり友人の友人の弟というわけか。だったらもう、私の弟も同然だね」

「全然違うと思います」


 困惑顔で途方に暮れているライナスに代わり、私がすっぱり斬り捨てておいた。


 ライナスはけんかを売られれば必ず買ってこてんぱんにしようとするし、下心の見え透いたおべっかには拒否反応を示す。けれどもこうした特に裏のない好意からくる悪ノリには、未だに慣れないようだ。


 かわいそうなライナスを王子さまのボケから救うべく、私は強引に話題を変えた。


「ところで、ジムさんとはどこで知り合ったんですか?」

「ああ、同級生なんだよ」

「え、同級生?」


 リース王国の王子さまと、シャーロン王国の王子さまが、いったいどうしたら同級生になるというのか。年齢が同じくらいなのは見てわかるけど、あまりにも国が遠く離れすぎている。


「私もアムリオンに留学したことがあってね」

「留学って、アムリオンだったんですか」

「うん」


 そう言えば以前、ジムさんから「三年間、隣国の寄宿学校で勉強してきた」と聞いたことがある。リース王国の隣国と言えば、西隣のダーケイア連合王国と、東隣のアムリオン王国しかない。だからあのときは、てっきりダーケイアのことだと思い込んでいた。


 まさかアムリオンだったとは。山ばかりの国という印象が強すぎて、留学先と言われてもピンとこない。


 不思議そうにしている私に、レジナルド王子は笑いながら説明してくれた。


「アムリオンは西大陸内で唯一、東大陸と国境を接している国だからさ。見聞を広げるには、うってつけの国なんだよ」


 なるほど、そういう理由だったのか。それならきっと、ジムさんが留学した目的も一緒なのだろう。


 私たちの暮らす大陸は、西大陸と呼ばれている。西大陸の東端にあるのが、アムリオン王国。そのさらに東には、東大陸が広がっている。東大陸は、言葉も文化も西大陸とは大きく異なっていると聞いた。


 二つの大陸は、世界地図の上で見るとほぼ別の大陸だ。だがよく見ると、実はアムリオン王都の東側にある半島の先が地続きになっている。


 そして、これまで知らなかったけれども、細く地続きになっている部分には運河があるのだそうだ。その通行料が、アムリオン王国にとって大きな外貨収入源になっているのだとか。しかも運河を利用する船は、西大陸のものより東大陸のもののほうが多いらしい。


 食事の席ではこんなふうに、地理と文化の話題で盛り上がった。そういう話なら、知識量の多いライナスにとっては得意分野だ。


 こうして、シャーロン王都での最後の夜はふけていった。

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