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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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09 護衛の身分

 ホテルのロビー奥では、アンバーの入ったバスケットを手に、ベルボーイが困惑顔をしていた。


 それはそうだろう。どこからともなく仔猫が現れ、バスケットの中に飛び込んできたのだから。そのままにしてよいのか、追い払うべきかさえ判断がつかず、困り果てたに違いない。


 ベルボーイはライナスから声をかけられたとき、明らかに安堵した表情を浮かべていた。アンバーはバスケットのふちに前足をかけ、こちらに向かって身を乗り出して目をキラキラさせている。見るからに、褒められ待ち。


「えらい、えらい。ちゃんとできたわね」


 頭をなでてやれば、前足で「お手」のポーズをした。


「ここは遊んでいい場所じゃないから、まだダメ。遊ぶのは、お部屋に行ってからね」


 言い聞かせると、素直に前足を下ろす。たぶん、言葉が通じているというよりは「ダメ」というキーワードと声のトーンから判断しているだけじゃないかとは思う。それでも不思議と、言いたいことはだいたい伝わっている。本当に、この子は賢い。


 アンバーは遊ぶのを諦めた代わり、今度は後足で立って、前足をバンザイするように広げてみせた。小さい子が抱っこをせがむときとそっくりのポーズ。実は、意味も一緒だ。


「抱っこならいいわよ」


 以前は抱っこしてほしいとき、服をよじ登ろうとしていた。でも爪を出して服をよじ登られると、生地が傷む。それで爪を出しちゃダメだと叱ったところ、このポーズになった。わかりやすいし、かわいいし、何の害もないので、定着している。


 私がアンバーを抱き上げたところへ、ホテルの支配人がやって来た。表の騒動を収めてきたようで、汗を拭き拭き、深々と頭を下げた。


「お客さま。ご不快な思いをさせてしまい、大変に申し訳ございませんでした」

「いや。面倒をかけるけど、よろしく頼みます」

「面倒など、とんでもないことでございます! 今後は二度とこのようなことの起きぬよう努めますので、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」


 ライナスが支配人に挨拶を返しているのを聞きながら、「大使館の言っていた『警備の都合』とは、こういうことだったのか」と、ようやく合点がいった。恥ずかしながら、こういう事態は全然想定できていなかった。「ライナスがいたら、警備の心配なんていらなくない?」と思っていたくらいだ。


 物理的な襲撃ではないから、物理的に反撃したらまずいわけで。非常に面倒くさい。相手が身分を笠に着て来る場合、宿の側にだってそれなりの格式がないと対応しきれないだろう。それで、ある程度なら自力で対応できそうな宿を厳選して知らせてきたものと思われる。


 こうなるとわかっていたら、素直に大使館にお世話になっておくのだった。


 つい遠くを見る目になり、ため息を押し殺しつつ心の中で反省をしていると、後ろから拍手とともに朗らかな声がした。


「いやはや、見事なお手並みでしたな!」


 声の主は、初老の紳士だった。あまり背は高くないが恰幅がよく、顔いっぱいに人懐こい笑みを浮かべていた。


「おっと、失礼。私はランドン家の当主をしております、ケネスと申します。お初にお目にかかります」

「フィミア・ローデンです」


 私の簡潔すぎる挨拶にも、ケネスは気を悪くした様子はない。身なりや話しぶりから察するに、明らかに貴族。でもあいにく、家名を聞いただけではどの程度の家の人なのか、私にはさっぱりわからなかった。後でライナスに聞いてみよう。


 頭の中でそんなことを考えていると、ケネスはびっくりするような言葉を続けた。


「リース王国の大使館からの依頼を受けて、国王よりローデンご夫妻の警護を仰せつかっております。ご滞在中、先ほどのような者に絡まれぬよう全力を尽くしますので、どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします……」


 この人、当主だって言ってなかったっけ。そんな人に警護を引き受けさせちゃうことになるだなんて、思ってもみなかった。素直に大使館のお世話にならなかったことを、心の底から後悔した。


 私はライナスの袖を引き、「ランドン家当主のケネスさんですって」と耳打ちをした。ライナスは目を丸くしたものの、すぐ取りつくろい、ケネスに向かって頭を下げる。


「ライナス・ローデンです。内務大臣が直々にお出迎えくださるとは、恐縮です」


 これを聞いて、頭がくらくらしそうになった。内務大臣ですって? どうしてそんな人が、私たちなんかの警護に駆り出される羽目になってるわけ? まったく意味がわからない。後でライナスに聞いたら、このおじさんは内務大臣であり、かつ侯爵だそうだ。


 ケネスは続けて、にこにこと愛想よく説明をする。


「いやいや。本来なら国賓としてお迎えすべき方々ですからな。国益を損ねることのないよう、万全の体制でお迎えせねば」


 国益? 意味がよくわからず、私とライナスは顔を見合わせた。全然わかっていない私たちの様子に、ケネスは笑みを深めて詳しく説明してくれた。


 今回の調査旅行は、私たちの個人的な旅行ではあるものの、内容を考えたら各国の安全保障に大きく関わるものでもある。だからリース王国からは、調査結果を知らせることを条件にして、各国に調査協力を要請していた。しかし同時に、釘も刺していた。


 いわく「ローデン夫妻への政治的な接触は、固くお断りします。個人的な治療の依頼などは、もってのほか。すでに個人的に親交のある者をのぞき、社交の誘いも一切お断りします」とのこと。要するに「面倒くさいことはすべてお断り」という、非常に私たちに都合のよい条件となっている。さすがジムさん、わかってる。


 先ほどのハドリー子爵からの遣いは、明らかにこれに反していた。つまりケネスの立場から見たら、国際問題を引き起こし得るほどの問題行動だったわけだ。


 今回、内務大臣自らが護衛の任に就くことになったのは、この件に関して腕っぷしは必要ないからである。それよりは、相手がどれほど身分や権力を笠に着ようとも、ものともせずに一刀両断できるだけの地位が必要だった。そうした諸々の事情を鑑みて、ケネスが任命されたのだとか。


 うん、まあ、内務大臣が相手じゃ、たいていの人は身分も権力も振りかざしようがないもんね……。


「ま、ちょうどよいあぶり出しになりましたよ」


 そう言って、ケネスは屈託なく笑った。

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