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魔王討伐から凱旋した幼馴染みの勇者に捨てられた私のその後の話  作者: 海野宵人
第三章 究明

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06 ナガグツネコ

 仔猫を腕にくっつけたまま、私はライナスの背後から少し距離をとった。


 次の瞬間、ライナスは片膝をついて身をかがめ、地面すれすれに半円形を描いて聖剣を()ぐ。それを素早く何度も繰り返した。


「キキー!」

「チチッ!」


 ネズミたちは耳障りな鳴き声を上げながら、聖剣で一刀両断にされていく。驚いたことに、このネズミたちは、ただのネズミではなかった。すべてがネズミ型の魔獣だったのだ。


 普通のネズミとネズミ型の魔獣は、姿かたちだけからは見分けが付きにくい。よく見ると、目の色が違ったりはするらしい。でも基本的には、ほぼ見分けが付かないと思っていい。はっきりした違いは、魔獣なら何らかのスキルを使うこと。


 そして決定的な違いは、体の大部分が魔素から出来ていること。だから魔獣を倒しても、死体が残らない。魔素以外で出来た部分を残して、空気に溶けて消えてしまうのだ。消えずに残される部分を、魔獣ハンターたちは「素材」と呼んでいる。


 ライナスに斬られて真っ二つになったはずのネズミたちは、どれもがサラサラと空気に溶けて消えていった。だけど、とにかく数が多い。後から後から、水が流れるようにやって来る。普通なら、仲間が斬られたら逃げ出しそうなものなのに。


 地面すれすれにしばらく聖剣を振るい続けた末、ようやくネズミ型の魔獣がすべて消えた。


 立ち上がって聖剣をさやに収めたライナスに、私はねぎらいの声をかけた。


「お疲れさま」

「こいつ、あれから逃げてきてたのかな」

「そうじゃないかな」


 仔猫は抱き上げた腕の中で、くぼみに顔を押しつけてじっとしていた。もしかして、これは隠れたつもりでいるのだろうか。顔以外、どこも隠れてないんだけど。


 仔猫は、ずいぶん小さかった。あのネズミ型の魔獣より、明らかに小さい。あの魔獣は、ドブネズミくらいの大きさだった。あれではこの小さな仔猫には一対一でも太刀打ちできないし、ましてや群れて襲われたら逃げるしかなかっただろう。


 瞳の色は、青というか、淡いブルーグレイ。体の色は金色、もしくは黄土色で、手足は黒いトラ柄になっている。でも体は黒いヒョウ柄。そして後足は半分が黒、前足は先っぽだけが黒。足先が白い猫というのは何度か見たことがあるけど、黒いのは初めて見たかもしれない。


 ライナスは私の腕の中にいる仔猫を、「小さいなあ」と言いながらのぞき込む。フワッフワの毛並みを私が指先でなでてやると、仔猫はおそるおそる頭を上げて、こちらを見た。そしてライナスと目が合ったとたんに、悲鳴を上げる。


「ミギャッ!」

「お前、助けてもらった恩人に対して、いい態度だな……」


 ライナスがぼやく一方で、仔猫は腕のくぼみにグリグリと頭を擦り付けた。たぶん、これでも必死に隠れてるつもりなのだと思う。ライナスは呆れ顔を仔猫に向けた。フリフリと頼りなく揺れる仔猫のお尻と、ライナスの何とも言えない表情を見たら、笑ってしまった。


 そのうちライナスも一緒になって笑い、人差し指でちょいちょいと仔猫の頭をなでた。


「目が青いから、まだ生まれて間もないと思う」

「そうなの?」

「うん」


 仔猫の目の色は、どんな猫でも必ず青いのだそうだ。生まれてからしばらくの間は、目が青い。青い期間は個体差があり、数週間から二か月くらい。歯はだいたい生えそろっているみたいだから、授乳期間は終わってそう。総合的に判断して、生後二か月くらいと思われた。


「この人懐こさは、どう見ても飼い猫よね」

「だなあ」


 こんな小さな仔猫を、しかも飼い猫を、森の中に置いていくわけにはいかない。仕方ないので、村に連れ帰ることにした。


 仔猫は、腕の中でおとなしい。好奇心旺盛な目で、きょろきょろと辺りを見回していた。


 宿屋に戻り、さっそくおかみさんに尋ねてみる。


「迷子の猫を拾ったんですけど、飼い主に心当たりはありませんか」

「もしかして、その子ですか?」

「はい、そうです」


 全身がよく見えるように抱え直すと、おかみさんは目を見開いた。


「ナガグツネコじゃないですか!」

「ナガグツネコ?」

「この辺にいるヤマネコですよ」


 後足が黒いのが特徴なのだそうだ。黒い長靴をはいているように見えるので、ナガグツネコと呼ばれているのだとか。


「警戒心が強くて、人間には寄ってこないんですけどねえ。よく捕まえましたね」

「え」


 警戒心が強いどころか、寄ってきたのはこの子のほうからだ。私とライナスは、思わず顔を見合わせた。


「野生の猫なら、森に帰したほうがよさそうですね」

「うーん、どうですかね。親が寄ってこないかもしれませんよ。人間の匂いがついちゃいましたからねえ。とにかく臆病なんで」


 何ということだ。でも、できれば親元に帰してやりたい。


 翌日、ライナスと私は、仔猫を拾った場所に出かけた。仔猫を地面に下ろし、その場を離れる。ところが仔猫は、私たちが歩き出したとたんに不安そうな鳴き声を上げた。


「ミャーウ、ミャーウ」


 この声を聞きつけて、親が来てくれないだろうか。離れた場所から見守るつもりで、仔猫から離れていく。その間もずっと、仔猫は「ミャーウ」と鳴き続けていた。少し距離をとった辺りで、ライナスが私にささやいた。


「あれが親かも」


 ライナスの指さす先には、猫の姿がある。大人の猫が、遠くからじっとこちらをうかがっていた。私たちが十分な距離をとりさえすれば、仔猫のところにやって来そうだ。ライナスと私は歩調を速めた。すると、親猫が鳴き声を上げた。


「グルルグルル、ニャーオ」


 ところが仔猫は、チラリと親猫のほうを振り向いただけだった。すぐに私たちのほうに顔を向け、「ミャーウ」と鳴く。まずい、早く離れなくては。ライナスと私がほとんど小走りのようにして距離をとると、仔猫は悲鳴のような声を上げた。


「キュアー!」


 かと思うと、転がるようにこちらに向かって駆けてくる。


「ちょっと……。親のところに行きなさいよ」

「なんでこっちに来るんだ……」


 戸惑う私たちをよそに、仔猫は一目散に走ってくる。そして追いつくと、私のブーツに前足を置いて、「ミャーウ」と鳴いた。青いつぶらな瞳でじっと見上げる姿は、たまらなくかわいい。


 でも、だからと言って安易に抱き上げたら、匂いがつくだろう。そうしたら親が迎えに来なくなってしまうかもしれない。困った。


 親猫は仔猫が私たちに追いつくのを見届けてから、きびすを返して茂みの中に消えて行った。


 その後、同じように仔猫を置いて離れようとしてみたけれども、仔猫は私たちの後追いをやめない。そして親猫は、二度と姿を現さなかった。


 何度か繰り返した末、ついにライナスと私のほうが根負けした。


「無理だな」

「うん……」


 村に戻って、引き取り手を探す。だけど、引き取ってもいいと言ってくれる人は、どこにもいなかった。誰も彼もが口々に断ってくる。


「いやあ、それは飼える猫じゃないっすよ」

「人間には懐きませんからねえ」

「小さくて見た目はかわいいけど、獰猛なんです」


 どう見ても人懐こいし、おとなしいのに。でも確かに、他の人が手を伸ばそうとすると「シャー!」と激しく威嚇した。うーん。


「拾った責任を取って、飼うか」

「森に置いて来たら、すぐ死んじゃいそうだもんね……」


 諦めた私たちは、自分たちで面倒を見ることにした。野生に帰せるくらいに育ったら、森に放してやればいい。

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