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【完結】脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~  作者: 景華
第一章

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私、聖女みたいです

「わぁぁんよかったぁぁぁああ!!」

カナンさんが泣きながらギュウギュウと私に抱きつく。

 彼女にもたくさん心配をかけてしまったようだ。


「カナンさん、心配かけてごめんなさい」

「ほんとですよ!! ティアラ様が死んじゃったら、ティアラ様ファンの国民が皆暴動起こすんですからね!!」

 目に涙を浮かべながら私を睨みつけるカナンさんに、「流石にそんなことにはならないですよ」と苦笑いを返すと、彼女はさらに鼻息荒く続けた。


「ティアラ様はほんっとうに自分の人気をわかってないです!! 現に、私が親と喧嘩したのは、ティアラ様の追放を知って怒り狂って城に抗議に行こうとした私を親が止めたからなんですからっ!!」

「エェッ!?」

 何それ初耳!!

 私が原因でカナンさんは家出して、しかもこんなダンジョンに落ちて、死ぬかもしれなかったってこと!?


「そ、それは……面目ない、です……」

「悪いのはティアラ様じゃなくて、馬鹿王太子ですけどね」


 国民から馬鹿王太子呼ばわりされるウェルシュナ殿下って……。

 だけど、妙にしっくりくる。

 今までウェルシュナ殿下に関しては、婚約者としてお守りせねば、婚約者として彼を愛する努力をしなければと、どこか使命的に考えていた部分があって、捨てられないように必死でしがみついていたように思う。

 だけど、そうね。

 いらないんだ、あんな馬鹿王太子。

 そう思うと、なんだか少しだけ、胸の中がスッキリとした気がする。


「ありがとう、カナンさん。……あの、それで、私は一体何があったんでしょう? 怪我をしたような気がしていたんですけれど……」


 あの痛みは確かに夢じゃないはず。

 なのに今、私の右肩はすこぶる好調のようだ。


 抱きついたままのカナンさんの背をトントンと宥めながら尋ねると、アユムさんが難しそうな表情で口を開いた。


「はい。ティアラさんが倒れてすぐ、俺は残りの敵を倒し、あなたを抱えて階段へ走りました」

「えぇ!? ごっ、ごめんなさいっ!! 重かったでしょう!?」


 成人女性の体重+ドレス、そしてモーニングスターを筆頭にした隠し武器やらなんやらかんやらまで備わった私を抱えてここまで帰ってくれただなんて……申し訳なさすぎる……!!

 さぞ重かったことだろうに。


「い、いえ!! 全然!! 軽くて柔らかくてそんなこと──っ、あ、いえ、ゴホンッ、とにかく、大丈夫ですから」


「むっつりだな」

「むっつりだね」

「歩君……」

 守さん達の声はともかく、慌てて否定してくれるアユムさんの優しさが身に染みる。


「で、ここに戻ってとりあえず寝かせて、患部を水に濡らしたタオルで拭いていたんです。そうしたら突然、あなたが光に──こんな炎の魔石の暖色の光とは違う、真っ白い光に包まれて……。しばらく光続け、光が収まったと同時に、傷は消えてあなたが目を覚ましたんです」


 光……。

 そういえば、不思議な夢を見た。

 暖かくて、懐かしい、もう戻ることのない私の夢。


「……!! アユムさん!! その腕は!?」

 ふとアユムへと視線を向けると、彼の右腕の服の破れと、そこから覗く真っ赤な血と痛々しい傷が目に飛び込んできた。


「歩君、ティアラちゃんが倒れた時、周りの敵を一掃したんだ。ものすごい速さでね。その時に大きな黒い魔犬に噛まれたんだよ。それでも気にも止めずに斬り続けて、君を抱えた。ったく、カッコ良いよなぁー!!」


 バンッとアユムさんの背を叩いてニヤリと笑うマモルさんに、「うるさいです」と悪態をつくアユムさん。

 黒い魔犬、おそらくグリムだろう。

 彼らの牙に毒は無いが、痛かっただろうに……。


「あの、アユムさん、見せてもらえますか?」



『“──ねぇ、あなた誰?”』


 耳に残る、私がよく知っていたはずの声。

 もしかしたら……、いや、できる。

 今の私なら。

 漠然と、そんな気がした。


 どうかこの優しい人の傷が癒えますように。

 そう祈りながら、自分の中で蠢く温かい力を流し込む。

 すると──。


「!! これは……!!」

「すごい……綺麗……!!」


 真っ白な光とキラキラと輝く光の粒子が、私の手のひらから溢れ出し、傷口を包み込んでいく。

 誰もがその美しい光に目を奪われ、やがてそれがスッと溶けるように消えると、さっきまであったアユムさんの傷も綺麗に消えて無くなっていた。


「嘘……すごい……。何、これ……」

 カナンさんが目を丸くしてアユムさんの腕を凝視する。

 そこには先ほどまでのぱっくりと裂けた傷は跡形もなく、綺麗な少し焼けた肌の色が顔を出しているだけだ。


「え……治っ……てる……?」

 驚きの表情で自身の右腕に左手でペタペタと触れるアユムさんに、私はほっと息を吐き出して笑った。


「よかった……」

「あの、ティアラさん、これは……?」


 ぽかんとした表情のまま私を見たアユムさんに、私は言った。


「なんか──私、やっぱり聖女だったみたいです」



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