68.おかえりフランベルジュ
翌日、俺が森のウッドハウスに帰ると、石像とシルフ婆さんがドンパチやっていた。
『キュオオオオオン!(おい老婆!
我は不思議猫に礼をしに来ただけである!
攻撃を止めるのである!)』
「ええい! やかましいわい、この悪魔風情めが!
ガーゴイルごときがバステト様に近付こうなぞ、片腹痛いわ!
ワシが成敗してくれようぞ!」
シルフ婆さんは引退したとはいえ、魔王と呼ばれていた大魔法使い。
多分、今フランベル国を攻めたら余裕で落とせるだろう。
無数の雷がフランベルジュを襲いかかる。
鑑定してみたらフランベルジュのHPがごっそり減っていてヤバい。
止めなければ。
俺はシルフ婆さんの前に立ち、『攻撃中止!』と書く。
「む……バステト様の寛大な心遣いに感謝するんじゃな、ガーゴイル」
シルフ婆さんの攻撃が止まる。
やれやれ、仲良くしろっての。
『キュオオン(酷い目に遭ったのである)』
『久しぶりだなフランベルジュ』と書く。
とりあえずフランベルジュにヒールをかけてやった。
フランベルジュは、フランベル王国建国に関わったとされる古竜だ。
今はミスリル入りの石像姿をしているが、本当はどんな姿だったんだろうな。
『キュオン!(100階層あるダンジョンをようやく一つ制覇したから、そこで手に入った宝を分けてやるのである!)』
ダンジョンとは、魔獣が沸く迷宮のことらしい。
それだけなら物騒なだけの場所なのだが、内部には宝や貴重鉱石などが眠っているそうだ。
ダンジョンには冒険者の多くが潜り、その命を落としている。
冒険者達はダンジョンを制覇し、貴重な宝を手に入れて成り上がるのを夢見ているのだとか。
で、そのダンジョンとやらのうちの一つを制覇したって言うのか。
凄いな。
「分けてやる、じゃと?
生意気を言うでないぞガーゴイル風情が。
分けさせていただきたく存じます、じゃろうが」
『キュォオオオン……(わ、分けさせていただきたく存じます、である)』
『フランベルジュをいじめないでくれ』と書く。
3年前に飛び立ってから、ずっとダンジョンに潜っていたとは、お疲れ様だ。
せっかくだからフランベルジュを労ってやろう。
今日の昼食は豪勢にするぞ。
キラーロブスター、ワイバーンの肉を取り出す。
キラーロブスターは、人サイズのザリガニ型の、プリップリの身が美味な魔獣。
ワイバーンは蛇に足と翼を付けたような魔獣で、蛇肉よりも油が乗った上質な肉を持つ魔獣だ。
ワイバーンの肉は、マック君に頼んで大量購入してもらった。
たまに贅沢したい時に食べている。
キラーロブスターは、川で異常繁殖していたのを狩った。
誰かが放ったのが増殖したんだろう、きっと。
環境破壊良くない。
俺がゴロゴロ鳴きながら機嫌良く肉を串焼きにしていると、アウレネが帰って来た。
「にゃんこさん、今日の収穫見てください~!
ほらっ!」
アウレネには、近くで油草という草を栽培してもらっている。
この草、年に2回ほど実をつけ、その実から油が採れるのだ。
この油、皮なめしの仕上げに使ったり、石鹸の材料にしたり、当然料理の材料になったりと便利なのだ。
「ところで、にゃんこさんが以前作ったゴーレムさんが、どうしてここに?」
そうか、アウレネはフランベルジュ(石像)を見たことがあるんだったな。
道理で驚いていないわけだ。
「まあいいです~。
それより、ワイバーンの肉を私にも分けてくださいな~」
『キュオオオオオン!(おお、美味そうである!)』
焼いた肉を皆に配る。
皆美味そうに肉に食らいつく。
アウレネとシルフ婆さんは、塩入りの壺から塩を振って肉を食べる。
塩は岩塩をミスリル製おろしで削りおろしたものだ。
俺がアウレネ達用の調味料として用意してやった。
もちろん俺はそんなもの振らない。
猫は腎臓がデリケートだからな。
本当ならシルフ婆さんにも塩分摂取は控えて欲しいのだが、今日くらいはいいか。
俺もワイバーンの串焼きを取る。
いただきまーす。




