38.ネルの冒険その1
・宿屋の娘ネル視点
魔王シルフが現れたと騒がれて1週間。
ここはとある宿屋の中。
「今日も猫さん来ないの?」
来たら新しい本を読んであげようと思ってたネルだったが、太っちょ猫は今日も現れなかった。
「猫さんはお仕事で忙しいのよ、きっと」
母ナンシーはそう答えるが、心の中では、あの猫は病気にでも罹って死んだと思っている。
猫は体調が悪くなると、姿を隠してしまうのだ。
これは弱った自分が敵に狙われないようにしているからだ、と言われている。
本当かどうかは猫にしか分からない。
あるいはどこか別の居心地の良い場所を見つけたか。
「ナンシーさん、冒険者ギルドが宿の手配をお願いしたいとのことです。
ギルドマスターの元まで来ていただけますか?」
「はーい。ネル、ママお仕事だから、お家で留守番しているのよ?」
「うん」
仕事でナンシーが宿を出て行ってしまった後、ネルは思った。
猫さんに自分から会いにいけばいいや、と。
幸い、猫さんがどの方角に帰るのかは知っている。
森の方角だ。
ネルは食料庫からパンと干し肉を小さなカバンに詰め、宿から出て行ってしまった。
1時間後、宿屋に帰ったナンシーは、自分の娘が居なくなっているのに驚く。
すぐにギルドに戻り捜索願を出すのだが、ネルは当然そんなこと知らない。




