37.錬金術師、城に帰る
・錬金術師マクドーン視点
「やっぱり、あの猫さんは特別な魔導士に違いない」
町への帰り道、錬金術師の少女は独り言をいう。
「鉛筆とか言ったっけ……こんな発明品を作るほどの才能を持っているのだから間違いない。
森で猫の恰好でひっそりと住んでいるのは、自分の生活の邪魔をされたくないからなのだろうね」
世間で天才ともてはやされることに疲れ、隠居している魔導士なのだろう。
自分にも身に覚えがある。
そう錬金術師は考えた。
「ボクがお金を渡してもあまり嬉しそうじゃなかったし、猫さんはお金には困ってないのだろう」
お金に困ってなかったのはたくさん持っているからでなく、単に使わないからだったのだが、そんなこと彼女は知らない。
「バジリスクを討伐したというのも、きっと猫さんだろう」
だが、それを正直に報告してしまっては、せっかくの猫さんの隠居生活を邪魔することになる。
「うん。猫さんのことは他の者には言いふらさないようにしよう」
今回は用心のために、勇者に護送してもらったけれど、次からは一人で行くことにしよう。
何しに行くのかと誰かから聞かれたら、秘密の素材を採取しに行くとでも言えばいい。
そう思いつつニコは町へ戻り城に着いた。
城の中はいつもより騒がしい。
「ニコ様! ご無事ですか?!」
兵士の1人が駆けつけて来る。
「どうしたんだい?」
「はっ! 魔王シルフがフランベルの森に現れたとのことです!
ちょうどニコ様と勇者が森へ向かわれていることを聞いた時、陛下は卒倒しそうでしたよ!」
魔王シルフが森に?
「本当かい?」
「勇者達はそんな奴見ていないと言っています……しかし、冒険者ギルドの者が見たと」
「ボクの聞いた話では、最近冒険者ギルドでバジリスク討伐を偽った者がいるそうだけど?」
「疑うのも無理はありませんが、空に雷文字が書かれています。
『我、この森を支配する者なり』と。
あの文字の魔法は魔王シルフの仕業に違いありません」
兵士の言葉を聞いて、ボクは森の方角を見る。
確かに、雷文字が書いてあるね。
「そういうわけなので、しばらく森への出入りは控えていただきます」
「えー」
次の訪問で、たくさん貢物を猫さんに渡して、貴重な知識を頂こうと思っていたのに。
魔王が現れたということは、猫さんは引っ越ししてしまうかもしれない。
うーん、残念。




