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195.エセ勇者


翌日、ルカタ帝国兵は全員、白旗を上げて降参した。


なので彼らには、燃やしたと見せかけて没収した食料をこっそりと渡すことにした。


【探索】で調べたが、囲いを超える可能性がある者は居なかった。

せいぜい500m程度の絶壁だ。

この世界の規格外の者なら余裕で超えられると思うのだが。

そんな奴はこの中に居なかったらしい。


まあいい。

ルカタ帝国兵はこんなものでいいだろう。


次はルカタ帝国だな。

この兵たちを捕虜として見せつけ、ルカタ帝国の戦意を挫くことにしよう。

その後、上層部で戦争を引き起こした連中を投獄してやるぞ。



◇ ◇ ◇ ◇



・帝国ルカタ皇帝視点



勇者リョウマが王国に捕えられたという情報が、伝書怪鳥によって伝えられたでおじゃる。


手はず通りなら、その後勇者を暗殺。

それから1万の、精鋭10人含む兵が王国へ流れ込むことになっているでおじゃる。



「皇帝! 先ほど新たな伝書が到達致しました!」


「話すでおじゃる」


「それが信じられないことに……全部隊が、巨大な壁に阻まれて身動きが取れないと申しております」


「壁? 険しい山脈は、ルート上には無いはずでおじゃる」



どういうことでおじゃる。



「ワルサー皇帝! 緊急報告です!」


「今度は何でおじゃる」



使い走りの部下が慌てて駆けこんできたでおじゃる。



「きょ、巨大な竜が、腹が透けて中に大量の人が……」


「これでも飲んで落ち付くでおじゃる」



リンゴ酒の入った杯を渡し、飲ませるのでおじゃる。

落ち付きを取り戻した部下が、報告を続けるのでおじゃる。



「巨大な竜が突然現れました!

全身岩石で覆われた竜の腹は宝石か何かで出来ているのか透けていて、中に人が見られます!」



宮殿の中庭に出て、東の方向を向く。


大きな竜型の岩石が見えるでおじゃる。

しかし、竜族と戦ったことがある我から見ると、あれは偽物でおじゃる。


【鑑定】でおじゃる。


――――――――――――――――――――――――

鑑定結果

魔王トミタによる岩石オブジェクト。

中に1万人のルカタ帝国兵を閉じ込めている。

――――――――――――――――――――――――


なるほど、魔王自ら攻めてきたでおじゃるか。

御丁寧に、我が差し向けた兵を全て返還しに来たでおじゃる。


帝国都市が、いつの間にか壁に囲まれているのでおじゃる。

このまま兵糧攻めに持ちこむ気でおじゃるな?


やれやれ、魔王を舐めていたやもしれぬ。

これは帝国の存亡を賭けた戦か。

もはや手加減無用、刺し違える覚悟で挑むでおじゃる。


我は立ちあがるでおじゃる。



「近衛兵、我は魔王と一騎打ちしてくるでおじゃる」


「わ、ワルサー皇帝!

敵はあまりに強大!

皇帝だけでもお逃げください!」


「何を馬鹿なことを言うでおじゃる。

くくく……血がたぎるでおじゃる。

魔王シルフには雑魚を盾に逃げられたが、今度の魔王トミタは真っ向勝負をお望みでおじゃる。

……もう魔王は逃がさぬでおじゃる、くくくく……」



近衛兵は知らぬでおじゃる。

我が勇者や魔王に匹敵する存在、【エセ勇者】の称号を持つことを。


つまり我がこの勝負に勝てば正真正銘【勇者】となるでおじゃる。

そして帝国ルカタは魔王を討伐した国として永遠に讃えられるのでおじゃる。


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