169.ぐったり
あれから1週間、俺は働き過ぎてぐったりしている。
隔離施設の座布団の上で、ぐてーっとする。
隔離施設に居た初期の人達は全員完治したので帰した。
今居る人達が帰れば、とりあえず重症の結核の人は居なくなるはず。
あと、町の人や家畜、野良猫達全員に猫タッチして、抗結核抗体を作った。
兵士に頼んで、町の人を朝、昼、夕方にそれぞれ1000人ずつくらい、役場へ来させて、兵士に偽薬を配らせる。
偽薬とは字のごとく偽物の薬で、ブドウ糖とかを適当に混ぜた物だ。
もちろん結核に効果があるわけではない。
それを、町の人全員へ、兵士が手渡しで支給する。
必ず本人が来なければならない。
薬は目の前で飲んでもらう。
その時に、俺がポンと猫タッチするのだ。
抗体があれば、とりあえず重症化は防げる。
既に結核を発症している人はそのまま隔離施設へ送らせる。
夜には町の端の畜舎にこっそりお邪魔したり、猫の集会所の連中に抗体を与えたりした。
おかげで睡眠時間が減って、眠くて仕方ない。
そんな作業を延々と繰り返し、今日、ようやく町の結核が落ち着いた。
「もし! 大魔導士殿はいらっしゃるか?!」
俺が休んでいると、兵士が呼びに来た。
また仕事かぁ。
「にゃー(どうした)」
「国王がお呼びです」
一応、国王や城の連中には全員猫タッチで抗体を与えている。
とすると、何か別件か。
俺は四次元ワープで王城へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
王城の王の間へ現れる。
「大魔導士殿、いきなり現れるのは心臓に悪いのだが……」
王様は言うが、俺は忙しいんだ。
いちいち取次ぎやらで時間を食っている暇はない。
タイプライターを取り出し『で、要件は?』と打つ。
「今回の感染の大流行だが、王都に留まらず国の全領土、さらに他の国でも死者が続出しているらしい」
『俺になんとかしろ、と言われても無理だぞ?』と打つ。
いくら何でも、世界中の連中を治すには、時間も体力も人手も何もかもが足りない。
「フランベル国内の領土だけでも、どうにかならないだろうか?」
王様の気持ちは分かるが、別に俺はフランベル国をえこひいきしたのではない。
自分の知り合いが多い、この町を助けただけだ。
フランベル国だから助けた、というわけではない。
『森の隔離施設へ送ってくれたら、俺がなんとかするが』と打つ。
「本当か?!」
『ああ』と打つ。
この日の軽はずみな発言は、俺を激しく後悔させることとなる。
まさか約1年間、隔離施設で働きっぱなしになるとは誰が予想できようか。
いや、予想出来なかった俺が馬鹿なだけだったか。




