118.バロム子爵
・フランベル4世視点
現れたのは細い男。
貴族にしてはいささか質素な服に身を包んだ、まだ30代前半の男。
バロム子爵だ。
この国の砂糖に関する事業は、ほとんどこの男に任せている。
「陛下。昨日ぶりでございます。
今宵はどういった趣旨でお呼び出しになられたのでしょう?」
「う、うむ。バロム子爵、こちらの大魔導士殿が、そなたとの会談を希望している。
大魔導士殿、別室を用意するから、そこでバロム子爵と会談という形になるが、よろしいか?」
「にゃー」
ケット・シー殿は頷いた。
そして【四次元空間】にタイプライターを収納した。
私は兵士に、ケット・シー殿とニコ、バロム子爵を城の端の小部屋へ案内するよう頼む。
3人が部屋を出る。
……。
…………。
……行ったか。
「勇者3人を、大魔導士殿に悟られぬように早急に呼び出せ。
防衛大臣、緊急会議だ」
「何事でしょう、陛下」
「大魔導士殿が……魔王になったようだ」
「……は?」
しばらくして勇者3人がやってくる。彼らと会議した。
そして、手を出すな、要求にはなるべく従え、静観せよ、との結論が出た。
勇者達は以前より強くなったが、それでも勝てないだろうとのこと。
残念ながら、討伐するのは無理か。
魔王を討伐すれば、国が豊かになると言い伝えられているのだがな。
結局、今までと変わらない対応になるだろう。
触らぬ神に祟りなし、だ。
◇ ◇ ◇ ◇
・トミタ(猫)視点
俺達は離れた部屋に連れて来られた。
バロム子爵がこちらを向き、礼をする。
俺はタイプライターを取り出す。
「初めまして。ロイア・ド・バロムです。
気軽にバロムと呼び捨てしてもらってかまいません、大魔導士様」
『よろしく』とタイプライターで打つ。
「はい、よろしくおねがいします」
それにしても、耳を澄ませると王様の話し声が聞こえる。
猫の聴力って確か犬よりも凄いんだっけか。
彼らは俺に内緒で話し合っているつもりらしいが、何を話すつもりだろう。
ああ、俺が【魔王】称号持ってるってバレてるなぁ。
彼らが俺を討伐するとか言い出したらどうしよう。
「さっそくですが大魔導士様、私に話があるそうですね?」
「にゃん(おっと)」
子爵様にお願いすることは、砂糖の原料となる植物の栽培許可と砂糖販売の許可だ。
俺は王様達の内緒話を聞きつつ、バロム子爵と話すことにした。
が、話し合いは平行線をたどる。
結局、バロム子爵から許可を得ることは出来なかった。
悔しいから、砂糖など一部の品を除く販売権だけ貰った。
販売権とは、お店を出す権利のことで、貴族様からの推薦状のようなものらしい。
ヨツバにはこれで納得してもらうことにしよう。




