116.若いってのはいいねぇ
夕方。
俺はマック君と共に王城にやって来た。
城門の兵士に止められる。
「ようこそニコ様! その猫はペットでしょうか?」
「ん? 君は確か、最近就いた兵士だったね」
「はっ! 自分はパーシーと申します!
ニコ様は本日も麗しく……」
「ああ、お世辞はいいから。
それより、王様に伝言お願いするよ。
『猫さんが王様に話があるらしい』と伝えてくれないかい?」
「……」
「おーい?」
「……はっ?! わ、分かりました!」
兵士のパーシー君は、顔を赤くして城に入っていった。
「猫さんがやって来たことに驚いて、一瞬気が遠くなったのかな?」
いやぁ、違う。
あれはマック君に見とれていた感じだった。
どうやらあの青年は、マック君に惹かれているとみた。
「猫さんはどう思う?」
『若いってのはいいねぇ』と書く。
「???」
俺がこんな猫でなければ、青年を酒にでも誘って恋愛相談に乗っていただろうに。
そうだ、後で青年に応援の手紙でも送ってやるか。
内容は、マック君の好きなことやプライベート情報とか、それにあとは……。
◇ ◇ ◇ ◇
・フランベル4世視点
部下の兵士が、ニコの伝言を伝えにやってきた。
おそらくケット・シー殿がらみだろう。今度は何だ?
「報告します! 『猫さんが王様に話があるらしい』とのことです!」
「……ニコのそばに、その猫さんはいたのか?」
「はっ!」
くらり。
私は目まいがした。
ニコの伝言ではなく、直接話をしたい、と?
絶対にとんでもない内容に違いない。
ああ、頭が痛い……。
まだ新魔王の問題が山積みだというのに。
半年前、王都の神殿に神託が下った。
現魔王が力を失い、新たな魔王がフランベル国に現れた、という神託が。
現在、フランベル国のどこかに居るという魔王について情報を探し求めているが、全く手掛かりが掴めない。
フランベルの森周辺にエルフの目撃情報が多発しているとか言うから、魔王シルフが返り咲きしたのかと思ったが。
しかし、神託によれば魔王の名はトミタというらしい。
シルフは関係なさそうだ。
そのトミタについて、国内の兵やギルドを用いて調査させている。
だがそれと同時に、国外から調査の名目で派遣された兵の受け入れを断ったりもしている。
なぜ断るかだと? 自国で暴れられたら困るではないか。
それに他国の者をもてなしたりするのにも手間がかかる。
とまあ、新魔王トミタによって内政外交ともに忙しくなってしまったのだ。
その上さらにケット・シー殿がやってきたという。
私が泣きたくなる気持ちも分かるだろう。
「……ニコと猫さんを通せ」
「はっ!」
ケット・シー殿にトミタのことを聞いてみるのもいいかもしれないな。
あまりに疲れていたせいか、以前にケット・シー殿を大魔導士殿として扱っていたことをすっかり失念していた。
それ抜きにしても、猫さん呼ばわりは無いだろう。




