レイナとシェイム
(返事が来た!)
ドレッサーの前でノートに向かい歓喜するレイナ
(シェイムかぁ……やっぱりネガティブな感じなのね…)
そう思いながら、ペンを取る
[お返事ありがとうシェイム。ところで、私は最近、自我が目覚めたんだけど…あなたはいつ頃から?]
シェイムの返事のすぐ下にそう綴った。
いつ自分じゃなくなるか分からないので
急いで書いて引き出しに仕舞う。
「ん〜〜〜〜〜」
立ち上がり伸びをして、チラリと時計を見れば五時半を過ぎたところ。
(随分早く目が覚めたのね……じゃぁアニタが身支度を手伝いに来るか、意識が閉じるまで、授業の進み具合を確認しましょ。)
自分を自覚する前のクレアの記憶はあるが、自我に目覚めてからはクレアやシェイムとは完全に切り離され、記憶の共有はされない。
自分で居られる時間は限られるので出来る事は少ない。
ならば授業にだけは遅れまいと、レイナは短い時間にとにかく知識を詰め込む事にした。
◇◇◇
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「---…アノの発表会で表彰された令嬢に花束を送ったんだよ。」
クレアは手元のお茶を見つめていた。
(…あら!ウィリアム様……昼間…婚約者同士のお茶会かしら?)
「………それは…とても喜ばれたでしょうね。」
クレアがニッコリ笑ってそう答えると、ウィリアムは僅かに眉を顰めた気がする。
「……うん♪。凄く喜んでた。」
ウィリアムはニッコリと笑い茶菓子を口に運んだ。
クレアはお茶を飲む
(…なんで態々そんな事をクレアに言うのよ…ヤキモチでも妬いて欲しいのかしら……意味が分からないわ。)
「……じゃぁ、そろそろ戻ろうか。」
そう言ってウィリアムは立ち上がりクレアに手を差し伸べる
「ん?…どちらへ?」
ウィリアムを見上げコテンと首を傾げてクレアは尋ねた
「……どうしたの?……ダンスの練習だよ。」
立ち上がったウィリアムは不思議そうな顔をしてクレアを見下ろす
「……!…そーでした!」
慌ててウィリアムの手取り立ち上がる。
(お茶会じゃなくて休憩だったのね……ウィリアム様と一緒のダンスレッスン…確か隔週の土曜日…)
ウィリアムのエスコートで練習室に戻って、そのまま部屋の中央に進み、二人で組んでポーズを取る。すると音楽が鳴り出す。
身体が覚えている様で、ウィリアムのリードに任せればクレアの体は自然と動いた。
レイナの時に会うのは初めてのウィリアムは記憶にあるより少し背が伸びていた。
(………ウィリアム様の目線が高い…体格差があった方が踊りやすいのかしら?…それともウィリアム様のリードが上手になったのかしら?……………楽しい♪ )
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カタカタカタカタ……
(……あら。馬車の中……帰宅中かしら?…………手が痛いわ……月曜か木曜ね…)
程なくして屋敷に着くと、手の痛みを我慢して鞄を持ち上げる。
(痛いケド…あの女、念入りに冷やすから割と大丈夫なのよね…バレない様に周到だ事…まったく、何がお仕置きよ!後から採点してるのに何を間違ってるって言うのよ!?八つ当たりにも程があるわ!いい加減にして欲しいわね!)
心の中でブレーニー夫人に文句を言いながら、自室までの廊下を歩く
「アニタ、少し仮眠を取るわ。また制服のまま寝転んでも良い?」
「勿論です。」
アニタは笑顔で答える。
自室に戻ると早速ドレッサーの引き出しを開けノートを確認する
[ウィリアム様と婚約して、一年位経った頃。
気付くと、皆んなが私の悪口を言ってた。]
レイナは眉間に皺を寄せながらシェイムの字を撫でる
(十一歳の頃から……)
自分は幼い自分を哀れんだ。
[それは凄く嫌だったわね。シェイムの時はいつも悪口の時?]
そう綴ってノートを引き出しに仕舞う。
こうしてレイナとシェイムの意思疎通が叶った
◇◇◇
[うん。悪口の途中から私になってるみたい。後…馬車に乗ってる時と…夜。寝る前に私になる事が多い。私のまま、ベットに入るの。
それと女の先生が痛い事をする時……]
[夜によく現れるのね。だからノートに書ける時間があったんだ。
あの女はブレーニー侯爵夫人って言うのよ。
私が初めて出た時があの女に打たれてる時だったケド、覚えてる?]
[覚えてる!いつもはティーポットを持ってから私じゃなくなるのに、あの時だけ打たれてる途中だった。]
[あの時は初めて私が出たから、シェイムが退いたのかしら?…たまに、シェイムの次に私が出てる様な気がするんだけど…どう思う?]
[わかんない。でも、私になる時はクレアが辛い時な気がする。その時に辛いとか…思い出して辛いとか。]
[ああ、なる程…だから、馬車の中や寝る前…。
私、何度か馬車の中で出るんだけど…もしも、シェイムから私だとしたら…クレアになる時と違いがある?]
[あるかも… クレアになる時はいきなり場面が変わる感じだけど。
最近は私の時に私の意思で隠れた気がする…レイナが居るから隠れられたのかな?。]
[今度、やってみてくれる?]
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(……自室…ドレッサーの前…)
レイナが視線を下すと目の前にノートが開いて置いてある。
[今から、やってみる]
と、書いてあった。
「ありがとう♪ シェイム。」
レイナは鏡に向かってニッコリと笑った。




