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「彼女は死にました。」私はあなたの子を産みません。  作者: Kurakura


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解離性同一障害


コンコン…

王都・ドケーシス公爵家の屋敷…客室の扉を誰かがノックする。

  すっかり日は落ちてしまった


 そっと扉が開き、執事長のムーロとアニタが入ってくる


ムーロは クレアの眠るベッドの横に置いた椅子に座り、頭を抱えてベッドに伏す公爵に声をかける

「旦那様…少し、何かお召し上がりになりませんか?…お嬢様にはアニタを付けますので。」


「………」

返事の無い主人の背に手を添えて…ムーロは再び話し掛ける

「……旦那様……奥様の様子も見に行きましょう。」


「…………」

公爵が無言で体を起こした


「……そうだな……」

応えた主人の顔は酷く瘁れて、光を失った様な瞳をしている

そんな様子にムーロもアニタも胸が詰まった


「アニタ……後は頼む。」

アニタは公爵に向かって深く頭を下げる。


公爵は立ち上がり静かに部屋を出る、廊下にはセイン医師が待っていた


「夫人の様子を見に参りますか?」

「そうする。」


執事長は食事の指示を出しにゆくと言って、その場を下がった


夫人の部屋に向かう公爵の後を、セインは付いて行く

(酷い顔色だ……何時間も馬車に揺られて、食事も殆ど取って無さそうだ……状態で言ったら夫人の方がマシだな……)


「……妻はどうしてます?」

歩きながら公爵はセイン医師に尋ねる


「一度、目を覚まされましたが…パニックを起こしまして……鎮静剤を打たせて頂きました。今は薬のお陰で落ち着いた様子で、お眠りになってます。」


「そうか………」


程なくして、夫人の部屋の前に着く…

扉は直ぐに人が呼べる様、半分開かれている


静かに部屋に入った公爵は、ベッドで眠る夫人の側まで行くとポツリと呟く


「酷い顔だ……」


「貴方もですよ。」

 セイン医師は指摘する


「医師の目から言わせて貰えば、公爵の方が状態は良く無いです。貴方もずっと馬車に揺られていたんですから栄養と休息を摂らないと。

先程連絡があり、王族専属医のリッター・メンテ医師が来て下さいます。

それまで仮眠を。眠れなくてもいいです。身体を横にするだけでも休息になりますから。

貴方まで倒れる訳にはいかないでしょう?

夫人とクレア様には貴方の支えが必要です。」


セイン医師の言葉に公爵は、目に少し力が戻った

「そうします。」

そう言って、愛する妻の目元に滲む涙を拭い額に口付ける


セイン医師は公爵の返事に安堵のため息をつく

(良かった……今の状態じゃ()()()()()を見せる事も出来ないしな…)


◇◇◇


公爵が食事を摂り、ベッドに横になってから

次に目を開けた時は二時間近く経っていた


(……もう直ぐ九時……)


「旦那様…少しは眠れましたか?」


ムーロの声にボーッと目を開けていた公爵は

意識をハッキリと戻す。


「………ああ。頭がスッキリした。」


公爵は身体を起こしベットから降りると、コキコキと肩を鳴らしながら答えた。



「リッター・メンテ医師がお越しになっております。既にセイン医師とお話になっておりますので…先ずは湯浴みをなさって下さい。」


(……決定事項の様に湯浴みを勧めるのは、セイン医師の指示だろうな……私はそこまで気を回される状態だったか…)


「分かった…クラリスとクレアは?」


公爵は

部屋続きの浴室に向かいながら、二人の様子を尋ねる


「奥様はまだ眠られてます。お嬢様は先程お目覚めになられました。」


「!!そうか!クレアは大丈夫か?!」


浴室に向かっていた足を反転して戻って来てしまう公爵


「大丈夫です。クレア様は今お食事を摂られてます。先ずは湯浴みを!」

ムーロは公爵を反転させ、背中を押す。


「しかし!」

「旦那様の身支度が整いましたら、お医者様方とお会いになり。その後皆様でお嬢様の元へ参りましょう。だから()()()湯浴みを!」


「……わ……分かった!分かったから押すな!」

渋々了承する公爵を浴室に押し込んで、ムーロは安堵のため息をついた。


(少しお元気になられて良かった……)


◇◇◇


「ここはどこかしら?」

目を覚ましたレイナは開口一番に呟いた。


「お嬢様!お目覚めになりましたか?!」


話しかけて来たアニタの方を見て、レイナは驚きに目を丸くする


「アニタ!!怪我したの?!」


アニタの頬には大判の傷当てシートが貼ってあった

レイナはベッドから起きあがろうとする


「お嬢様!無理をなさらないで下さい。」

アニタは心配気にレイナの上半身を支える


「やだ。どうしよう……これ…()がやったのよね?」


アニタの頬にそっと手を伸ばして、レイナは申し訳無さそうな顔になる


「大丈夫ですよ。ちょっと爪が当たっただけです。」


「ごめんね……………ねぇ。怒って暴れた私は、アニタの()()()()()?」


「実際にお会いするのは初めてです。

一度だけ、クレアお嬢様の部屋の中が…今日の様に酷い様子だった事がありました。

お嬢様はカタカタと震えながら、謝っておいでで…一緒に片付けをしたのですが……

もしかしたら…私が一緒にお片付けしたのはシェイムお嬢様だったのかも知れませんね。」


「いつ頃の事?」


「王城で妃教育を受ける様になって、直ぐの頃でした。」


「ふ〜〜ん………私が現れるより少し前みたいね…」


「お嬢様…お身体を起こしてみて、ご気分は如何ですか?」


「大丈夫よ …でも、なんで倒れちゃったのかしら…」


「そりゃあ……元々、不調だった所に、あの様に大暴れすれば…倒れて当然です!」


「………そりゃ、そうね。お父様とお母様は?。(クレア)の事情をお知りになったのよね?」


「……はい。…セイン先生が()()()()と……それを聞いて奥様はお倒れに……旦那様もかなりショックだった様子です。…お二人共…大変痛ましい様子でした。」


「………そうよね……お父様とお母様には二重にショックよね……」


クレアの自死騒ぎだけでもかなりの心労だったろうにと、レイナは両親のことを想う。


「お嬢様…お加減が大丈夫なら、何か召し上がりませんか?」


「……そうね…食べるわ。ちゃんと元気にならないと!」


アニタはニッコリ笑って

「畏まりました。直ぐお待ちします。…セイン先生にも、お目覚めになったと伝えて来ます。」

そう言って部屋を出て行った。


程なくして、アニタがワゴンを押して戻ってくる

ワゴンの上には、スープやパン プリンなどの柔らかいスイーツが乗っていた。


ベッドの上に食事の準備をしながらアニタは話し出した。

 「先程、王城専属医師のリッター・メンテ医師が到着されまして

今はセイン先生と話されてます。

先程、旦那様が仮眠からお目覚めになられましたので。

お嬢様のお食事が終わる頃に…皆さまで、こちらに参られるそうです。」


「分かったわ。ところで…あの後、誰か別の人格は出て来た?」


「…いいえ。」


「………そう…」

レイナは千切ったパンを口に運んだ……


◇◇◇


コンコンコン

半分開いた状態の扉を、セイン医師がノックする。

「失礼します、お嬢様。」

「クレア!」

セイン医師に続いて公爵が駆け込んできた…ベッドの直ぐ側まで来て、心配気にレイナに話しかける。


「起き上がって大丈夫なのか?」

そう言ってレイナの頭を撫でる。

「はい。大丈夫ですわ。……それより、お父様の方が心配よ。酷い顔をしてる……」


その言葉に公爵はグッと喉が鳴る。


「私は大丈夫だ……食べたし。寝たし。ちゃんと湯浴みもした。」

 目の下の隈が、説得力を無くしているが…公爵は笑顔で応えた。


「お久しぶりです。お嬢様」


 紫の瞳に白髪混じりの金髪が肩まで伸びた、壮年の男性が

そう挨拶をして入って来た。


(あら…渋いオジ様……この方が、(クレア)が怪我をした時に診てくれた先生……)


「リッター・メンテです。覚えておいでですか?」


 緑の縁かがりが施された真っ白なローブを羽織って、医師と言うより、絵本に出てくる魔法使いの様な出立に

(こんな斬新な出立ちの人、記憶に無いから(レイナ)は会った事ない。うん。)


「私は()()()()()になりますわ。()()()と申します。

よろしくお願い致します。」


レイナはニッコリと笑顔で、挨拶をした。


「……ふむ…なる程……では、ご令嬢の体調も大丈夫そうですし。早速お話を伺わせて頂きましょうか。」

リッター医師はニコリと笑った。


 使用人達が椅子やソファやテーブルをベッドの周りに移動し、皆んながレイナの周りに集まる。

アニタも陳述してもらう為に座らせる。


 テーブルの上には、医師達が記録を取る為のペンと用紙。シェイムのノートも置いてある。


 レイナはセイン医師に話した時と同じ様に、リッター医師にも自身の()()()()を話した。


そして今回は、アニタの陳述も加わる。


怒って暴れた()()()が現れた時期

 あの子に「名前が無いのは不便だ」と、レイナが。フュリアス(荒れ狂う)と名付けた。


そしてもう一人

 ウィリアムと婚約して一年程経った頃、夜中に起きてシクシクと泣いているクレアを見たのだと言う


「(おとう様〜おかあ様〜)と泣いて、寝ぼけているのかと思い、声をかけましたら(アニタ〜()()…おかあ様達に会いたいの〜)と泣いてしがみ付いてこられて……(直ぐに会えますよ)とお慰めして、寝かしつけた事がありました。

……翌日、その事をクレア様にお話ししましたら、覚えていらっしゃらなくて……本当に寝ぼけていたのだなと……」


 それを聞いて、公爵はごくりと喉を鳴らした

「クレアは五歳頃は自分の事を()()と呼んでいた…」


「ふむ……幼児退行した人格の様ですな。……その他には、いらっしゃるか?」

リッター医師が先を促す。


「………クレア様は、たまに…夜中に歩き回る事がございました……目は開いているのですが、何も見ていない様な感じで……まるで幽…失礼しました。…()()()()()()()()()()()()いる様子でした。レア様が現れたのと同じ頃です。

…ですが、このお二方が現れたのは、ほんの()()で……一年も経つ頃には現れなくなり。先程まで忘れていた程です。」


「夢遊病の様な症状ですね……歩き回る人格の子が夢遊病なのかな?」

セイン医師は唸りながら考える


「幼児退行の子は()()ね  夢遊病の子は〜…ネビュラ()にしましょう 」


「レイナお嬢様……楽しんでます?」


「あら。だって  名前つけるのって、楽しいじゃない 」


 こんな状況で不謹慎な発言にも関わらずレイナの物言いは、却って場を和ませた。


そのレイナの楽し気な様子に公爵は、

 やはりこの子も()()()なのだと…

他の人格もこの子(レイナ)も全て引っくるめて()()()()なのだと受け入れ始めた。


問診(聞き取り)を終えて、リッター医師は

「クレア様の症状は、解離性同一障害と言います。」

と、告げた


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