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「彼女は死にました。」私はあなたの子を産みません。  作者: Kurakura


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父の後悔


 王城、赤の応接室の続き部屋。

部屋の一番奥のテーブルで、小さなお茶会が始まっている。


「おとう様にはピンクのをあげるね♪」


 楽しそうにお菓子を取り分けるクレア(レア)を見て、ドケーシス公爵は微笑みながら、

愛娘の頭を優しく撫でる。

 クレア(レア)の向こう隣には愛しい妻が笑っている。

ソファに三人…仲良く並んで座るお茶の時間。


絵に描いた様な親子の団欒なのに…夫妻の心の中は悲しみでいっぱいだった。


(……私はどうして…もっと……)


◇◇◇


「旦那様!」


 領地の屋敷

フルーク・ドケーシス公爵は、寝支度をする前にもう少し仕事を片付けようと、執務室で机に向かっていた。

 そこへ執事のカルムが蒼白な顔で、慌てて入って来る。


「ノックも無しにどうした…そんなに緊急か?」


「旦那様!お嬢様が!!お倒れになったそうです!」


「……!!何だと!?」


公爵は立ち上がり、執事に渡された書簡を読む。


「………………そんな…クレアがまさか……」


そこへ、慌てた様子のドケーシス夫人が駆け込んで来た。


「あなた! クレアが倒れたって聞いたわ! 何があったの!?」


「……クラリス。詳しい話しは、馬車の中で話す。直ぐに支度を…急いで王都に戻る」


「………あなた?」

「…とにかく急いで。…話は馬車で」

公爵は夫人を急かす様に、退室させた。


「馬車を乗り換えて、一晩中走るぞ」

「心得ております」


長年勤めている執事は、主人が家族思いなのを重々理解している。


以前、クレアが王城で襲われた事件の時、

王都に用があった夫人を残して、単身で領地に来ていた公爵は

 事件の連絡が届くと、全ての仕事をそのまま置いて

馬車に駆け込み、走り続けた。

途中で馬車を乗り換え、自身は休憩も取らずに戻ったのだ。


 今も、既に早馬を走らせて、中継地点になる箇所に乗り換える馬車を用意する様、

指示を出してある。


今度は、クラリス夫人も一緒なので途中で休息は取るだろうが、馬車の中でも食べられる様、軽食と飲み物の用意を指示して…


(…クレアお嬢様……)

執事(カルム)は、産まれた時から大切に見守って来た存在(クレア)の無事を、ひたすら祈った。



 ドケーシス夫妻が馬車に乗り込むと、公爵は夫人の隣に座った。

執事がバスケットを夫妻の足元に置く。

「軽く食べられる物を詰めて有ります。」


「すまないな…弟に連絡を入れて、後の事は頼む…」


「畏まりました。道中お気を付けて」

執事(カルム)は頭を下げて、扉を閉めた。


 静かに出発した馬車は、直ぐに速度を上げる。間もなく真夜中になる暗い道を、可能な限り最速で駆ける。


 馬車の中…夫人がクレアの状況を聞こうと口を開く前に、

公爵は隣に座る夫人を抱きしめた。


「…………クラリス。」

「?…はい。」

「………………」

「…フルーク? ……何? …クレアの容態、悪いの?」

夫人の体が、カタカタと震え出す


「………………クレアは命を絶とうとした」


夫人が大きく息を吸い込んだ…

「………………うそ。…うそよ!嘘嘘嘘!」


夫人は身を捩って暴れ出す

それを公爵はしっかりと抱きしめる。

「嘘! 嘘って言って!!! あぁ! …どうしよう…どうしようフルーク……お願いだから嘘って言ってぇ………クレアが! クレアがそんな……どうしよう、私達のクレアがぁ!!! クレアが…そんな決断を………」


暴れていた夫人はやがて、公爵にしがみ付いて泣き叫ぶ…


しがみ付いて泣く夫人を抱き締める公爵は、苦悶の表情で、

クレアの事を思い出していた。

 (……あの時に…どうして私は…)


「……お父様…ウィリアム様との婚約……見直せませんか……」


 王都の屋敷で仕事を処理している時に、クレアが訪ねて来て、

真剣な顔でそう言った。


「……どうしたんだ?」

公爵は仕事を放って立ち上がり、クレアの元に寄る。

クレアをソファに連れて、一緒に座って手を握った。


「何かあったか?…ウィリアム殿下が、()()おかしな事を?」


公爵はウィリアムの行動を若干、不満に思っていた。

だが、その行動の目的がクレアに()()()()を焼かせる為の行動だとも分かっている。

 クレアへの愛情の向け方を()()()()()()と。


「ウィリアム様に…必要以上に優しくするのは控えてほしいって言ってるんだけど…やめてくれなくて……ウィリアム様が誰かに()()に優しくすると……」


「婚約解消はちょっと難しいかな。それに、婚約解消してしまって良いのかい? クレアはウィリアム殿下が好きだろう?」


フルークの言葉にクレアの顔は見る見る真っ赤になる。


(可愛いなぁ。これがウィリアム殿下に向けてってのが気に入らないけど…)


「もう少し、待ってみないかい? 殿下はまだ、気持ちの伝え方が下手なだけだと思うんだ」


(クレアが()()()事を後悔しない様にしてやらないと……ああ、でも…あんまり一途だと心配だな……()()に嫁ぐんだし……)


王族に嫁ぐ…殿下は一粒種…もしも……そんな言葉がフルークの頭を過った。


「大丈夫。殿下の気持ちは、ちゃんとクレアに向いてるよ。……でもね、クレア…殿下が()()()にも()()()って事に慣れておくのも必要だよ。クレアはいずれ王妃になるから…もしも子が()()()()()()()()……殿下は一粒種だし…()()を娶る可能性もあるからね」


フルークは言ってから()()()()と思った。

しかし…失言だと気付いても、もう遅い。


クレアの顔は色を無くして、仮面の様な無表情になってしまった。


「クレア! 例えばの話だよ! 父さんが馬鹿な事を言った。すまない。ウィリアム殿下はクレアの事を想ってるから大丈夫だ。クレアがこんなに頑張ってるんだから…大丈夫だ」


フルークは失言を誤魔化す様に言葉を連ねてしまい…

クレアの言いたい事の()()に気付かなかった


「…………そ…うですね。もう少し頑張ってみます」


クレアはニッコリと笑顔を向ける。

 フルークはその笑顔にホッとして、問題は解決したと思った。

二人は立ち上がり、フルークはクレアを廊下に出るまで送る。


「一応、陛下か王妃様からウィリアム様を嗜めて頂くよう申し出ておくから。気持ちを楽に持ちなさい」


「はい。お仕事の邪魔をしてごめんなさい。お話し聞いてくれてありがとう。お父様」


そう言ってクレアは執務室を出て行った。



馬車の中…クラリスは一時間以上、泣き続け、

気絶する様に寝てしまった。


フルークはクラリスを抱きしめたまま、目を閉じる。

きっと眠れないが、目を閉じる。


(…あの時、クレアは()()を求めていたんだ……なのに私は……何も分かっていなかった……)


馬車はひた走る。


◇◇◇


二度、馬車を乗り換え…少しの休息と食事を取り、

夫妻の馬車は走り続けた。


その甲斐あって、通常よりもかなり短縮して、

王都の屋敷に辿り着く。


疲労困憊の夫妻だが…とにかく、一刻も早く愛する娘に会いたい。と、駆け足で屋敷に入る。


夫妻の顔色も悪いが…屋敷の使用人たちの顔色も、酷い物だった。


侍従の一人が夫妻を案内しながら話す。

「旦那様! 奥様! おかえりなさいませ! 早くお戻りになれて良かった! お嬢様は自室に」


「クレアの容体は? 大丈夫なのか?」


「はい。今は落ち着いて居られます」


そうして夫妻はクレアの部屋の前に辿り着き

扉をあけた。


「お父様! お母様!」

 ベッドヘッドに凭れかかるクレアが目に入り、

やっと夫妻は、息をする事を思い出したかの様に大きく吸い込んだ。


 「……………クレア…」

「あぁ! クレア! 無事なのね!」


夫人がクレアの元に駆け寄り、

涙を流しながらクレアの頬を両手で包んだ。

その手はフルフルと震えている。


 公爵はクレアの無事な姿に、涙が溢れた。

両手で顔を覆い、その場で立っているのが()()()と言う様子で呟いた。


「……良かった……無事で…生きて…」


 二人の押し殺した泣き声が部屋に漂う。

そこへセイン医師と執事が部屋に入って来る。


「旦那様、奥様。おかえりなさいませ」


二人とも酷い顔色で、呼び掛けに顔をあげる。

夫妻はまだ小刻みに震えていたが…公爵がセイン医師に気付き、


「先生! クレアは大丈夫ですか!?」

セイン医師の両肩を掴んでクレアの容態を伺う。


「落ち着いて、先ずは落ち着いて下さい」

セイン医師は公爵を落ち着けようと、嗜めていると、


クレアが突然叫び出した。

「うあああああああーーーー!!!」


突然の咆哮に、全員の体がビクリと跳ねた。


「そうよ! ウィリアム様なんて大っ嫌い!」

物凄い怒声を放つクレア。


そして、突然両腕を跳ね上げ、その勢いに夫人が弾き飛ばされた。

「きゃあ!」


「クラリス!」「奥様!」


倒れた夫人に公爵とアニタが駆け寄る。

クレアは毛布をバンバンと叩いて暴れ出した。


「どうして!? どうして私ばっかり言われなきゃいけないの!? どうしてよ! どうして私が笑われなきゃいけないのよ! みんなみんなウィリアム様が悪いのよ!」


クレアの見た事のない豹変に、全員が動けない。


「あああああああああああああーーーーーーー! やだ! やだ! やだ! もうやだ!!!」

 そう叫んで、自身の長い黒髪を引っ張り出したクレアに、

大人達の意識が動く。

「!駄目だ!クレア!!そんな事しちゃ!」

「いけませんお嬢様ー!」

「ダメよクレア!落ち着いて!!」


 クレアを止めようと夫妻とアニタが、クレアの腕に手を伸ばす。

「いや!いや!いや!皆んな嫌!!!どうして私ばっかり!」

クレアは抵抗して腕をブンブン振り回した。


「っ痛!」

アニタが頬を引っ掻かれてしまった。


「クラリスは離れてろ!」

公爵はクレアの片腕を掴んで叫んだ。


 セイン医師も抑えに掛かるが、捕まる前に

クレアは大きくのけ反り、公爵の手を振り解いた。

そして枕を掴み、振り回す。


物凄い強さで、セイン医師に向かい叩き続ける。

「!!!うわっぷ!」

すると…破けた枕から羽毛が舞う。


 ガシャン

クレアはその枕を投げ付け、テーブルがひっくり返った。


 ベッドから降りようとするクレアを、止めようとアニタが抱きついたが

上手く止められず、クレアに突き飛ばされてしまう……

  ガシャーン

その勢いでサイドテーブルに置いた食器が落ちて割れてしまった。


「アニタ!」

夫人と執事長はアニタに駆け寄った。


 裸足のクレアが怪我をしたらいけないと、公爵とセイン医師が腕を掴んで止める。



 ……突然クレアの動きが止まった。

はぁ……はぁ…….はぁ……はぁ……

荒く息をするクレア。


部屋の中を羽毛がヒラヒラと舞っている…


「…………何があったの………」


クレアは呆然として、辺りを見まわし出した…


 急に大人しくなったクレアに公爵が声を掛ける

「クレア!正気に戻ったのか?!」

 そう言って公爵は、抑えていたクレアの右腕の力を少しずつ緩める…


「………レイナお嬢様ですか?……」

 左腕を掴んでいるセイン医師が、クレアの顔を覗き込んで、()()()と呼んだ。


「セイン先生?何を言ってるんです?…どう言う意味ですか?……何故クレアを…()()()と呼ぶんです………?」


「さっきまで別の方が出てました。」

セイン医師が答えたのは公爵じゃなく、クレアにだった。

  (……何だ?…何が起きてる?)


「………えっ?」

 「突然…怒り出して、大声で暴れる方でした。」


公爵は意味不明の会話が成り立っている事に困惑を隠せない…


「………あぁ…だから喉が痛いのね?……それに…何だか、とても疲れた…」


そう言ってクレアは脱力し、気を失った。


「クレア!」

セイン医師と公爵の二人でクレアを支える。


「先生!何がどうなってる?!」

公爵はセイン医師に問うと、


「端的に説明しますと、先程話されたのはクレア様の中に居る人格のお一人です。その前に暴れていたのは、また別の人格の方。……クレア様の中には複数の個別の人格が存在します。」


バタン……

「奥様!」

「大変!奥様!しっかりして下さい。」

「クラリス?!」


夫人は許容範囲を超えたようで、倒れてしまった……



◇◇◇


 公爵はベッドに寝かせたクレアを、そばに置いた椅子に座って見ている……


あの後、部屋を片付ける為にクレアを客室に運んだ。


セイン医師は倒れた夫人を…

執事長は怪我をしたアニタを介抱している…


バタバタしているうちに、外は夕暮れ時になっていた……


「複数の人格……」

公爵はポツリと呟いた。


「おとう様…?」

クレアが小さな声で公爵に呼びかけて来た


「クレア!。気が付いたか。」


「…………()()()()()()()よ。…()()()()()()。」


公爵は息が止まった……

 「……な…何を…」

「あたまの中で《ウィリアム様なんて大っ嫌い》ってグルグル回ってるの…」


そう言って、クレアは再び眠ってしまった。


ベットの横で、公爵は頭を抱えて伏せる…

(……頼む……頼むクレア……()()()なんて…よしてくれ…)


公爵は祈り続けた………






〜入りきらなかった公爵の過去話〜


フルークとクラリスは学園を卒業して、直ぐに婚姻した。

その頃、まだ爵位を継いでいないフルークの仕事は公爵の補佐だった。

仕事の殆どは公爵領で執り行う…

公爵領は王都の隣で、馬車で丸一日程の距離とかなり近いのだが…

妻であるクラリスは、妃殿下の学生の頃からの友人で…妃殿下になったばかりの頃は、しばしの重積から離れられる大切な話し相手だった

その為クラリスは王都の屋敷から離れられなかった…

やがて、妃殿下とクラリスは同じ年に子を授かり

益々生活の拠点は王都になる…

妻と娘を溺愛するフルークは頻繁に王都と公爵領を行き来する。それこそ一日置きに…

 父親はフルークのまめさに呆れたが…仕事には手を抜かず真摯に取り組んでいたし。息子の溺愛ぶりは評判が良かった。

何より自分やフルークと同じ黒髪の孫娘が愛しかったので、協力を惜しまなかった。

 クレアが三歳になった頃、フルークの弟が学園を卒業し、公爵領に戻って仕事を手伝う様になると

フルークは可能な限り王都の屋敷に居座り、クラリスと共にクレアの成長を見守った。

クレアがウィリアムと婚約を結んだ頃、爵位を継ぐ事になり…クラリスも公爵夫人としての仕事を任される事になる…

王太子の婚約者になったクレアは、ウィリアムの希望で王都に残る事になった。

もちろん夫妻は、幼い娘を心配して頻繁に王都の屋敷を訪れていたが…爵位を継いだばかりの夫妻には捻出出来る時間は少なかった…

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― 新着の感想 ―
すごく難しい話だけど、人間が人間である以上現実でも 解離性同一障害を抱える人が歴史上にいた可能性はいくらでもあって、 まだ『そういうものがある』と認識されてなかったから 周囲もわからなかったことなんて…
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