話さなきゃいけなくなりました。
(……どうしたのかしら……そもそも…何でこんな事になったのかしら……あの時……泣いていた事が関係あるはずよね……)
思案に耽るレイナにアニタが進言する
「レイナお嬢様……私はお嬢様のお力になりたいです。……ですが、私以外の手助けも必要だと思っています。………こうなっては旦那様と奥様にも、事情の説明を迫られますし……先ずお嬢様方の事をセイン先生に相談してみては如何ですか?……」
「………そうね…もう一度、先生を呼んで来る様に言って……それと、アニタ。
……ドレッサーの引き出しを開けて…底が二重底になってるから……中のノートを全部出してくれる?」
アニタは指示に従い、廊下に控えているメイドに声をかけて
おそらく料理長に会いに行っている…セイン医師を呼んでくるように指示を出してから
ドレッサーの引き出しを開けた。
「………レイナお嬢様……これは…?」
引き出しにはノートが六冊入っている
シェイムが殴り書きしたノートが四冊……レイナとシェイムのやり取りが始まったのが四冊目の途中で、
最後にレイナが書いたのが六冊目の真ん中辺りだった。
(…このノートを人に見せる日が来るなんてね……ごめんねシェイム……)
レイナの元にノートを運んで来たアニタに、苦笑しながら答える。
「私とシェイムの交換日記よ。」
◇◇◇
レイナはベッドで、運ばれた食事を食べている
負担の掛かった喉と胃を気遣って、漉した野菜スープで炊いた十倍粥を
自分の手でスプーンで掬って口に運ぶ…
部屋の二人掛けソファにはセイン医師が
座って、ノートの六冊目を見ている
テーブルには残りのノートが時系列に並べられていた。
レイナは呼び戻したセイン医師に、これまでのあらましを話した…
「私はレイナ」と名乗り、自分で名付けた事。
リセンス・ブレーニー侯爵夫人に虐待を受けている途中で自我に目覚めた事。
ノートの存在に気付き、シェイムと言う人格がいる事を知った事。
「ちょ!…ちょっと待って!記録を取ります!」
セイン医師は慌てて用紙とペンを取り出した。
ノートを通じてシェイムと連絡を取り合える様になり、自我が目覚める前の記憶は共通して覚えているが、目覚めた後の記憶の共有は無い事。
自分がブレーニー夫人を煽って自滅してもらった事。
この時、アニタは激しく眉間に皺を寄せていた
クレアが睡眠薬を飲む様になってから、シェイムと連絡しづらくなった事。
学園の廊下で泣いていた事。
そしてドレッサーの前
その次は、浴槽で溺れていた事。
そして今…レイナ以外の人格が出てこない事……
なるべく簡潔に伝えたが、それでも昼過ぎまで掛かった。
休憩を兼ねて、レイナは食事を摂り
セイン医師はノートを見ながら、何やら考えながらコーヒーを飲んでいる。
用意されたサンドイッチには手をつけていない
そこへ、執事長のムーロが部屋の扉を叩いた
「先程、早馬が着きました。後、一時間程で旦那様と奥様が到着すると思われます。」
それを聞いたセイン医師は、アニタに便箋を用意する様に頼んで
やっとサンドイッチに手を伸ばした。
「王城勤めの医師に精神疾患の分野に精通した者が居ますので、意見を聞きましょう。」
セイン医師は、サンドイッチを頬張りながら続ける
「お嬢様が頭に怪我を負わされた時に、診てくれた方なので覚えがあると思いますよ。リッター・メンテと言う医師です。」
「……う〜〜ん……多分私は会ってないわ。お医者様に診てもらった覚えが無いもの。」
「………………面白いですね…」
すかさずアニタが睨み付ける!
『面白いとは何事か!』と怒りに震えた声が聞こえそうな圧が出ている
「んんっ!失礼しました!」
アニタの圧を浴びながら、セイン医師は手紙を綴り 封筒に納めて立ち上がる。
「執事長に、至急王城へ出してもらうよう…頼んで来ます。」
そう言ってそそくさと部屋を出て行った
セイン医師は若く見えるが四十一歳になったと言っていた。
(アニタより十歳も年上なのに…アニタの方が遥かに威厳があるなぁ)と、レイナは思った。
少しして、アニタが食器を片付けたところで
廊下が慌ただしくなる
バタンッ
突然扉が開き、青い顔をしたドケーシス公爵夫妻が入って来た。
「お父様!お母様!」
(早くない?)
ドケーシス夫妻は馬を限界まで飛ばし、馬車が壊れんばかりの勢いで帰って来た。
「……………クレア…」
「あぁ!クレア!無事なのね!」
夫人がベッドヘッドに凭れかかるクレアの元に駆け寄り、
涙を流しながらクレアの頬を両手で包む…
その手はフルフルと震え、とても冷たい。
公爵は娘の無事な姿に、その場から動けず両手で顔を覆い、肩を震わせて泣いている
「……良かった……無事で…生きて…」
二人の押し殺した泣き声が部屋に漂う中、
セイン医師が急足で、執事と共に戻って来た
「旦那様!奥様!おかえりなさいませ。」
聞いた時間よりも、だいぶ早かった帰宅に
執事長は慌てている。
呼び掛けに顔をあげた夫妻は
二人とも酷い顔色で、目の下の隈も酷い
一晩中、休み無く馬車を飛ばして来たからだろう
まだ小刻みに震えていた二人だが、セイン医師に気付き
「先生!クレアは大丈夫ですか?!」
公爵が掴み掛かる様に、セイン医師の両肩を掴む
「落ち着いて!先ずは落ち着いて下さい。」
セイン医師は公爵を落ち着けようと、嗜めて
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
はぁ……はぁ…….はぁ……はぁ……
目の前を羽毛がヒラヒラと舞っている…
(………何?…)
レイナは両腕を誰かに掴まれていた…
掴んでいたのは、セイン医師と公爵…
「…………何があったの………」
床には、テーブルに乗っていた筈のノートや
アニタが片付ける為にサイドテーブルに置いた筈の食器
そして羽毛が散らばっている。
ベッドの横には座り込むアニタ
アニタを介抱する執事長と夫人
レイナは呆然と辺りを見回す。
「クレア!正気に戻ったのか?!」
右腕を押さえていた公爵が、そう言って
少しずつ力を緩める…
「………レイナお嬢様ですか?……」
左腕を掴んでいるセイン医師が、レイナの顔を覗き込んで、《今、誰なのか?》を尋ねてくる。
「セイン先生?何を言ってるんです?…どう言う意味ですか?……何故クレアを…レイナと呼ぶんです………?」
「さっきまで別の方が出てました。」
セイン医師は公爵の質問に答えるよりも先に、他の人格の出現をレイナに教えた。
「………えっ?」
「突然…怒り出して、大声で暴れる方でした。」
「………あぁ…だから喉が痛いのね?……それに…何だか、とても疲れた…」
レイナはそのまま脱力し、気を失った。
(…そう言えば…アニタが『…多分…もう二〜三方、居られます。』って…言ってたっけ……)




