そしてあの日…
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「クレア様!待って下さい。クレア様!」
クレアが振り向くと、青ざめた顔の令嬢が廊下を駆けてきていた。
(………誰かしら…?見覚えがあるけど……)
「…ぁ…あの!……先程は申し訳ありませんでした!」
カタカタと合わせる手を震わせながら突然謝罪してきた女子生徒は、輝く様な銀髪にグレイの瞳の美しい令嬢だった。
「…私が口を挟む事では無いのに…差し出がましい発言でした…も…申し訳ありません。……し…失礼します!」
震える声で言うだけ言ってから走り去る令嬢の背中を見つめるレイナ。
(………ああ!…たしか…ヘクター様の婚約者になった、エタンセル・フラム侯爵令嬢だわ!……小さい頃に見かけたっきりだけど…お綺麗になられて…)
何の事を謝罪したのか、さっぱり分からなかったが…誰なのか思い出してスッキリしたレイナだった。
◇◇◇
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(学園の廊下…鞄を持っている……夕方じゃないから、登園したところね。)
廊下の目の前をオレンジ色の髪を揺らしながら小走りで去って行く女子生徒
(綺麗…珍しい髪色ね……随分ご機嫌な足取りだこと………。それより今日は何曜日かしら…)
そんな事を考えながらクレアの教室へと向かった
(今日は私のまま授業が受けられそうだわ)
◇◇◇
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ハァ!……ハァ!……ハァ!……
(……何?!……何でこんなに息が切れてるの?!……)
学園の馬車の乗降場に向かう廊下の途中、レイナは壁に手を付き息を切らしている。
ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……
息を整えようと酸素を吸い込むレイナは自分が泣いている事にも困惑した。
(……涙が止まらない……心臓が早い……これは……走ったからなの?…凄く苦しい!…どうしたのクレア……それともシェイム?…)
フゥ…フゥ…フゥ…
息が整いポケットから取り出したハンカチで涙を拭う
(帰るところなのよね?……鞄はどうしたのかしら……どうしよう…この状態で教室まで探しに戻るのも嫌だし……後で、家の者に取りに行って貰おうかしら……)
考えながら既に足はフラフラと乗降場へ向かっていた。
「お嬢様!大丈夫ですか?!酷い顔色ですよ…」
公爵家の馬車にたどり着くと御者が心配気に声をかけてくる。
「ぅん…ちょっと疲れてるみたい……早く帰りたいわ。…でも、鞄を置いてきてしまったの…」
御者は馬車の扉を開けながら
「お気になさらず。後で誰かに取りに行かせましょう。先ずは帰ってお休みになられた方が良いです。」
そう言って御者は乗り込むクレアに手を貸す。
「…ありがとう。そうして貰うわ。」
出発した馬車の中でレイナは胸を抑えている
(……この余韻は……何なのかしら……)
しばらく走り、馬車は公爵家に到着すると
御者がクレアの不調と鞄の事を侍従と侍女に伝える
「お嬢様…歩けますか?」
アニタの心配気な問い掛けに
「大丈夫よ。馬車の中で随分休めたから…でも、部屋に戻ったらそのままベッドに入るわね。」
クレアは笑顔で答えるも顔色は良くない。
「……それがよろしいですね…何かお飲み物をお持ちしましょうか?」
「いいえ…大丈夫よ。」
そうしてアニタの付き添いで自室に着く。
「……では…何かあればお呼び下さいね。」
そう言ってアニタは部屋を出て行った。
レイナはドレッサーの前に座り、ノートを取り出す
[気付いたら、学園の廊下で、凄く息を切らして、泣いていたんだけど。
クレアが泣いてたのかしら…それともシェイム?
心当たりはあるかしら?]
ノートを引き出しの仕掛け部分に仕舞い、鏡に映った自分の顔をじっと見る
(目が赤い…
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ザバァ
バシャバシャッッ
「カハッ!ゴホッゴホッ!!ウゥッ…」
(苦しい!目が回る!…気持ち悪い……なんなの?!……ここは…浴槽???)
飲んだ水を吐き出す様に咳き込みながら、浴槽の縁に覆い被さる様にしがみ付く。
歯をガチガチ鳴らしながら周りを見渡そうとするも、視界がグニャリと歪んでまともに見られない…
(とにかくここから出なきゃ…)
浴槽から出ようと手に力を込めても、水を吸った学園の制服が重く纏わり付き身体を上げられない
ハッハッと浅い息で酸素を取り込もうとするが、それも上手くいかない
(誰か…呼ばないと…)
閉じてしまいそうな目をこじ開ける様に力を込める。
歪む視界にサイドテーブルが見えた。
(テーブルの上にベルがあったはず……)
「……くっ……」
ブルブルと震えながら手を伸ばす
ガチャンッゴトンッヂリリンッ
手が何かに触れ…落ちて大きな音を立てた
程なくして足音が聞こえる
コンコンコンコンッ
「お嬢様?…大丈夫ですか?…」
(……アニタの声…来てくれた…)
意識を保とうと頑張るも目はどんどん霞み、頭は朦朧としていく…
「お嬢様?!お嬢様!!!お返事して下さい!!!」
ドンドンドンッとドアを強く叩く音が
二重三重に重なって聞こえる…
バンッッと、一層強い音が響き
「お嬢様!!!」
人の声と駆け寄る足音がする。
クレアの意識はそこで途絶える。
次に目を開けた時はベッドの上だった…




