レイナは情報を集めるのが難しい…
高学年に上がってしばらく経つと、シェイムのノートが更新されにくくなった。
[クレアは眠くなる薬を飲んでるみたい。
私になる前に寝てしまうみたいで、しばらく私にならない日が続いてるみたい。今日はギリギリ私が出た。ごめん。もう眠い。]
その日朝からレイナだったクレアが、ドレッサーの引き出しからノートを出して読んでいた。
「…なる程……どうしたのかしら、クレア…」
シェイムが夜に出られなくなった事で、ノートのやり取りが難しくなった。
(貴重な情報交換なのに…何よりシェイムと語れないのは寂しいわ…眠くなる薬って…睡眠薬よね…どうしたのかしら…)
その疑問は直ぐ解けた。
どうやら最近クレアは、夜中に目を覚ましてしまうらしく。眠りが浅いので、ドケーシス家の専属医師に睡眠薬を処方してもらったらしい。
「お薬のお陰で、朝までちゃんと眠れてる様ですね。」
とアニタに言われて、レイナは事情を上手く聞き出した。
(何故、眠れないかはアニタも知らなかったケド…きっとウィリアム様絡みよね…)
レイナはため息を呑み込み、朝食を食べた。
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「クレア……最近、大丈夫か?」
話しかけられたから振り向くと黒髪の背の高い男子生徒がいた。
(………青い瞳……私の事をクレアって呼び捨てられるのは……ヘクター様?)
クレアは爵位の一番高い公爵家の娘。
だから呼び捨てられるのは、同等の公爵位か王族。
同等の爵位であっても令嬢に対して呼び捨てするなら、とても親しいか無礼者か。
見覚えのある黒髪と青い瞳、真面目そうな雰囲気から前者であるとレイナは判断した。
レイナは自我が確立してからヘクターに会うのは初めてだった。
(記憶にあるヘクター様より凄く背が高くなってる、声も低くて…面影は有るけど………危なく無視する所だった……何の事を言ってるか分からないケド……上手く話を合わせないと……)
「…………大丈夫そうに見えませんか?」
(ヘクター様はなんと返してくるかな?)
「!…やっぱり無理をしてるんだな………すまない…俺も何度も注意してるんだ!けど………あいつはどうして!………親しくも無い令嬢の髪に花を挿すなんて……」
ヘクターは悔しそうに顔を顰める
(……あいつって…ウィリアム様よね……やっぱりクレアの眠れない原因はウィリアム様か〜……)
「謝らないで下さい。ヘクター様のせいでは有りませんわ。」
「しかし!」
「ヘクター様。」
レイナは被せる様に名前を呼び、制する。
「いつも気に掛けてくれてありがとうございます。凄く感謝してます。」
ボロが出たら困ると、これ以上踏み込ませない為に
困った様な笑顔でそう言い返す。
「…………いいんだ……これから、カフェテリアに行くんだろ?。送って行こう…持つよ。」
ヘクターはクレアのカバンを受け取ろうと手を差し出した
「…ありがとうございます。」
(クレアはカフェテリアに行く所だったのね)
カフェテリアの入り口まで連れ立って歩いた
「じゃあ俺はここで……クレア…辛かったら誰でも良いから相談するんだよ…」
そう言ってヘクターはクレアにカバンを渡して去って行った。
「………ヘクター様…ありがとう。」
レイナは去って行くヘクターの背中に向かって小さくポツリと呟き、カフェテリアの扉を開ける。
沢山並ぶテーブルや椅子、奥の窓際の席にはウィリアムが座っていた。
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扉の前に立っているレイナは、チラリと見上げ教室札を確認する
(…?…図書室の扉?……入る所だったのかしら?)
そっと扉を開けてみると、扉の真っ直ぐ奥の壁にステンドグラスがある
(誰かいる…)
ステンドグラスの前に造られたヌックに女子生徒が一人、座って本を読んでいた。
大人しい顔立ちの美人で長い真っ直ぐな薄茶色の髪。女子生徒はレイナに気付くと空色の碧眼を見開いて驚いていた。
「「クレア様!」」
叫ぶ様に呼ばれて振り向くとクレアの友達の令嬢達が廊下を走って来る。
「この時間に図書室近づいてはいけませんわ!」
「後日、私達と一緒に来ましょう!」
クレアは二人に引っ張られる様に連れて行かれる
残りの二人は図書室内の女子生徒に睨みを効かせてから乱暴に扉を閉めた。
そしてブツブツと文句を言いながらクレア達を追いかける
「全く!何が、[絵ガラスの君]よ!」
「いくら、頭が良くて美人だって、不道徳が何かも分からない痴れ者じゃない!」
(皆んな凄く怒ってるわね……)
「ウィリアム様はどうかしてるんです!口さがない者達の目を気にして欲しいですわ!」
「クレア様は全然!何一つ悪くないんですからね!」
「……ふふっ」
思わず笑いが込み上げてしまった
「「クレア様?」」
友人達はこの状況で笑い声をこぼしたクレアに驚く。
「ふふふっ…ごめんなさい。私のお友達は皆んな素敵な人ばかりだなって思って」
「〜〜やだ。クレア様ったら」
「そうだ!お茶を飲みにいきましょう」
「そうですよ!まだお帰りまでお時間ありますよね?」
「ええ多分」
「行きましょう行きましょう」
学園のカフェテリア、窓際の席に座り談笑をする。
クレアは話が食い違わない様、聞き手に回って場を楽しむ。
ふと視線を感じて窓の外を見ると、ウェーブのかかった長い赤毛の女子生徒を中心にした、小さな集団が去って行くのが見えた。
(………何かしら?…シェイムは何か知ってるかしら…)
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帰宅の馬車に乗ってる時にレイナになったクレアは、帰宅後自室でノートを開いて読んでいる。
[二学年に上がって少ししたら、ウィリアム様は特定の令嬢と何度も会う様になったみたい。
最近はその方達と比べられる様な悪口の時に私になる。
私が知ってるのは、絵ガラスの君・草原の麗人・マリーゴールドの令嬢の三人。]
ノートの文字は急いで書いた様に乱れた筆圧だった
(要点だけ書いたって感じ…眠らないうちに急いで書いたのね…ありがとうシェイム。……それにしても……)
レイナはノートに感謝の言葉を綴り引き出しに仕舞いながら考える。
(……ウィリアム様……特定の令嬢と懇意にしだしたのね…しかも複数………何を考えてるのかしらね…)




