見向きもされなくなったら嫌ですもの♪
[思った通り。私になれたわ。ありがとうシェイム。
もう一つお願い。今度から、ブレーニー夫人のお仕置きは私が受けるから。始まったら直ぐに私に代わって。出来る?]
レイナはそう綴ってノートを引き出しに仕舞う。
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レイナはドレッサーに向かい目の前のノートを見つめている。
(……あら?)
ノートには
[良いけど…痛いよ?大丈夫?]
シェイムの文字に愛しさが込み上げる
(なんて優しいの…)
クレアは、頑張って…耐えて…我慢して…ずっと辛い感情を抱えている。
頑張ったけどそれでも抱えきれなくなって、溢れたのを代わりに抱えたのがシェイムだ。
シェイムが抱えきれない想いをノートに書き殴る程、彼女だって辛いのに、それでもレイナを慮る。
(もう一人の私…私の最初の友達……
私は王妃になるんだもの。自分くらい救ってみせるわ。)
[大丈夫よ。計画があるの。必ず代わってね。]
レイナはノートを引き出しに仕舞う。
レイナの自我が目覚めて一年が経とうとしていた。
◇◇◇
バシンッ
(今日もタイミングが合わなかった…)
バシンッ
(今日は雨なのね…)
窓の外は薄暗く、窓ガラスに自分達が映っている
バシンッ
(夫人は自分が笑ってるって気付いてるのかしら……醜悪な顔……これじゃぁ夫に避けられても仕方ないわ…)
しばらく打たれた後ティーポットを掌に乗せられる
(はぁ……ティーポットが嫌いになりそう。)
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「ですが…クレア様だって、ウィリアム様とお時間の合う時が余りありませんのに…」
目線の先に女子生徒に囲まれたウィリアムが居る。
話しかけてきた女子生徒に目を向けて
(……クレアのお友達達……ん?…昼食後かしら?…前後に影響の無い返答をしないと。)
「……ウィリアム様はお優しいから……」
「お優しいのはクレア様ですよ!」
食い気味にクレアの友達に言われレイナは面食らう。
「………私は良いお友達に囲まれて幸せですわ。」
そう言ってニッコリ笑うクレアに友人達は頬を赤らめた。
友人の一人が思い付いた様に話し出す
「そうだ!この後
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(自室…鏡の前……このジャケットは、脱いだのかしら?これから着るのかしら?)
コンコンコン
「お嬢様、準備は整いましたか?」
ノックの音と共にアニタが呼び掛けてくる。
時計を見ると七時半
(朝ね!良い時間帯だわ!今日が月曜か木曜であります様に!)
「支度出来たわ。」
レイナがそう答えると扉を開けてアニタが入ってくる。
「アニタ…今日って何曜日だったかしら?」
「?……木曜日です…」
(やったわ!)
レイナは飛び上がりたい気持ちをグッと堪えて、普段通りに振る舞う。
「今日…妃教育の後、街に買い物に行きたいの。」
話しながら自室を出る
「あぁ…ではお供しますね。授業の終わる頃にお迎えに上がります。」
アニタはカバンを持ちレイナの後を付いて歩く。
「ええお願い。でもブレーニー夫人は気難しくて…授業が中断されるのがお嫌いだから…来たのを知らせなくて良いわ。扉の外で終わるのを待っててくれる?」
「畏まりました。」
馬車の前まで来てアニタはそう答え、馬車に乗ったレイナにカバンを渡し礼をする。
「いってらっしゃいませ。」
レイナは満面の笑みで答える。
「行ってきますアニタ、また後でね 」
(やっとだわシェイム。もう直ぐよ。)
朝の景色がレイナの視線の先で流れて行く
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バシンッ
バシンッ
バシンッ
バシンッ
ブレーニー夫人が壁際にあるワゴンの所へ行き、指示棒を置くと氷いっぱいのティーポットを持って戻って来た。
あと1メートル程という所で、クレアはブレーニー夫人の方へ目を向ける。
ブレーニー夫人はクレアの初めての行動にビクリとして動きが止まった。
「いつも、ご指導ありがとうございます。」
そう言ってクレアはニッコリと笑う
「……ぇ…?」
「中々夫人の目指す完璧に成れず申し訳ありません」
「…ぃぇ…まぁ…そうね…」
お仕置きの後なのに笑顔でハキハキと話すクレアにブレーニー夫人は戸惑う。
「早くブレーニー夫人の様に完璧な才女にならなければと思ってるんです。……あぁ、でも!」
しょんぼり俯いて話すクレアが気付いた様に顔を上げる。
「それだけだと、ウィリアム様に愛想を尽かされてしまいますね。」
「……は?…」
「やはり女性としての慎ましさや慈愛が滲み出る様、磨きを掛ける必要もありますよね?美しさとか?」
ブレーニー夫人の顔が見る見る赤くなり、手に持つティーポットがカタカタと震える。
「ブレーニー夫人みたいに、ウィリアム様に見向きもされなくなったら、嫌ですもの」
ゴツンッ ガタガタンッ ガシャーンッ
クレアは頭に衝撃を受け椅子から倒れ落ちる。
ブレーニー夫人がティーポットを振り上げクレアの頭に打ち付けたのだ。
「小娘が!!!生意気なーー!!!!!」
ブレーニー夫人は倒れた椅子を押し除け、倒れたクレアに覆い被さり首に手をかけ締めた。
と同時に勢いよく扉が開く。
「何事ですか?!お嬢様!」
室内の騒音にアニタが駆け込んできた
「お嬢様ーーー!!」
アニタはブレーニー夫人に掴み掛かるが、夫人は手を緩めない
「………ッグ…」
(……息が……)
「夫人!離して!!誰かーーー!、、」
(人の駆け込む足音が聞こえる…)
騒音の中レイナは気を失った。
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(………何処の天蓋かしら?)
王城の一室のベットで目を覚ましたレイナの頭と首には包帯が巻いてある。
「お嬢様、お目覚めですか?」
側に控えていたアニタがそっと声をかける。
「…………アニタ…」
目線を向けると視界に入ったアニタは、酷く顔色が悪く目の下にもハッキリと隈が見える。
「……先程まで、衛兵庁舎で聞き取りを受けておりました。……お嬢様…何か欲しい物はございますか?」
(アニタ…酷い顔してるわ…)
「…ん〜ん…大丈夫………アニタ…ちゃんと寝てる?」
アニタは目を見開いた後、ポロポロと涙を溢した。
「……申し訳ありません……申し訳ありませんお嬢様……私が何も気付かなかったせいで…一年以上も…お辛い目に……申し訳ありません…」
アニタは嗚咽を漏らしながら謝罪の言葉を繰り返す
(……あぁ…ごめんねアニタ…私が回りくどい方法を選択したせいで……あなたを苦しめてしまった…)
過去のシェイムのノートには
[私は私が嫌い…] [私の存在を知られたくない…]などと書いてあった
(シェイムの性質は自己否定や自己不信。
必死に心をノートにぶつけて、懸命に自分を隠そうとしてるのを守ってあげたいと思ったから…
クレアが自ら言わないのなら私が言う訳にはいかないと思ったから…
ブレーニー夫人に自滅してもらう方法を選んだ……
でももっと良い方法があったかも知れない……もっと迅速に…効率的に………私の判断の結果がアニタを泣かせている…)
「……アニタ…私が言わなかったのがいけないの……ブレーニー夫人は小賢しい人だったし……アニタのせいじゃ無いわ。」
「………ですが…」
「アニタ。……アニタは来てくれたよ。………助けてくれてありがとう…アニタ。」
そう言ってアニタに手を伸ばしニコリと笑う。
「〜〜〜!……はい。」
アニタはクレアの手を握りしめた。
「アニタ…やっぱり、お水を頂戴。」
「はい。…冷たい物に取り替えて参ります。直ぐお待ちしますね。」
そう言ってサイドテーブルの上の水差しを持って立ち上がるアニタ、きっと顔も洗って来るだろう。とレイナは思った。
しばらくして戻ったアニタに体を起こしてもらい、差し出された水を飲む。
「……アニタ……ウィリアム様は……」
クレアの現状にウィリアムはどうしてるのか気になった
「隣国からお戻りになるのは、陛下の計らいで再来週に延ばされました。良かったですね。お嬢様は来週にはお屋敷に戻れますし…陛下はお嬢様のご希望通り、ウィリアム様の耳には一切入らない様にして下さいました。」
「……良かった。……アニタ…少し眠くなって来た…」
「はい。ゆっくりお眠り下さい。私はお側におりますから。」
そう言ってアニタはクレアが横になるのを介護した
(そう……ウィリアム様は国内に居なかったのね。……良かった♪ ……クレアは陛下にお願いをしたのね………知られなかったわよ。シェイム、クレア……)
レイナは頭の痛みを心地よく感じながら微睡んだ。




