第三十八話:若様、ホクテンオーを制す
「さあ太郎様、整体の時ですの♪」
「いや、ちっと待って!」
「待ちません、回復は義務ですの♪」
「兄様、お力を抜ないと痛いですよ?」
幽世屋敷の太郎の部屋。
白い浴衣姿の太郎が、ピンクの作務衣姿の山吹姫と黒い作務衣姿の月夜に取り押さえれて
手足を曲げられたり首を捻れたりと手技で整体をバキバキ行われていた。
「若様、お灸も用意してるからね♪」
楓が灸を箱から取り出す。
「杏、何だあの地獄は?」
「あらあら、あれは健康と強くなる為の治療ですよ♪」
「なるほど、太郎が強くなった秘訣がこれか?」
遠巻きに見物しているのは、新たに仲間となった葵と杏子。
「葵ちゃんも、お灸と整体をするんだからね?」
月夜が葵を睨む。
「良かったですね姫様、身も心も整えられますよ♪」
「いや、勘弁してくれ月夜と杏!」
「駄目だよ葵、しっかりモリモリお灸するからね」
「姉上~っ!」
葵も太郎の後にみっちりと整体とお灸を味わった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、悪い事はしませんから」
お灸と整体が効いたのか、部屋の隅に体育座りをして大人しくなった葵であった。
「うちのお転婆姫が、こんなにも大人しくなるとは驚きの効果ですね」
「まあ、姫と月夜の二人がかりだからな」
「太郎様、後でまたお灸と施術いたしますわね♪」
再びお灸をすえられた太郎であった。
整体と灸が終われば、各自風呂に浸かる。
太郎は茶色い子犬の式神達と一緒に男湯へ。
檜風呂の浴槽には、虹色に輝く薬湯が満たされていた。
「若様、お背中流しますワン♪」
「お世話しますワン♪」
「ありがとう、右門と左門♪」
太郎もお礼にと右門と左門の体を洗う。
風呂から出たら食事まで、部屋で一休みする太郎。
イットウオーとのぶつかり合いで疲れた心身を癒したのであった。
「葵はそう言えば、お共ロボや加護武装は増えたのか?」
幽世屋敷を出て、七人パーティーとなった軍配党を率いて街道をゆく太郎。
「太郎が私に興味を♪ ああ、手に入れたぞ♪」
「葵様は、赤い鬼の形相をしたモミハギ神様からモミハギブレードを授かりました♪」
「太郎の為に、二刀流の技を振るうからな♪」
「おう、そうか」
杏子が解説し。葵が太郎に迫る。
「はいはい、若様には適切な距離でね♪」
「正妻は私ですので♪」
「ずるいですよ、葵ちゃん」
「待て、格差をつけるな!」
楓、山吹姫、月夜が葵と太郎の間に割り込む。
「私は太郎様の影なので、お傍に♪」
「いや、杏さん?」
杏に背後をから寄り添われた太郎。
「こら~っ! 杏が一番、狡いじゃないか!」
葵が叫ぶ、グダグダラブコメでかしましく旅路を進む太郎達。
秋山の地では、悪党退治よりもロボの力で雨を降らせて欲しいや大岩の除去。
最早川の新たな鼓の建設作業と、民の暮らしを助ける頼まれ事が多かった。
「ふう、米も麦も秋には豊かに実るだろう♪」
「各地にも巡って来るね、若様♪」
農村で田畑に雨を降らせ、日のエネルギーを与えとニチリンオーの力で農民を助けた太郎。
楓も実りの秋に期待を寄せる。
仲間達と行く先々で人助けをして行った太郎達は、秋山の地を抜けて北天の地に足を踏み入れた。
「ここが北天、秋山と概ね変わらぬ空気ですわね」
山吹姫が呟く。
「まあ、隣り合わせだからな」
太郎が返事をする。
「青葉の奴と対決するんだな? 私に任せてくれ♪」
「私のギンゲツオーも行けますよ♪」
青いと月夜が太郎にアピールをする。
「いや、そこは相手の出方次第かな? まあ、俺が制さねば納得せんだろうが」
太郎が青葉の性格を思い出して溜息を吐く、倒して従えるしかない。
「次代の神君位への王手ですわね♪」
「あくまで次代のだから、まだまだ伯父上には働いてもらわないと」
山吹姫の言葉に太郎が答える。
「軍配藩の事もあるしねえ」
「そう、藩主を経てから神君へだから」
順番を飛ばされてはたまらないし、太郎としてはまだまだ自由に動きたい。
青葉を倒せば、太郎が次代の神君になるのは確定となる。
改めて、ヒノワ全国の王と言う地位の大きさと重さを感じる太郎であった。
覚悟を改めて、街道を進む太郎に仲間達も着いて行く。
目指すは青葉の生家の北天城のある都、岩台。
山を背にした緑豊かな地方都市で、岩台川は最早川などと並ぶヒノワの名川だ。
「で、どうするんだ? 殴り込むか?」
「葵様、そんな脳みそ筋肉ではいけません!」
葵が太郎に尋ねるが杏が窘める。
「いや、青葉は派手好きだからド派手に乗り込むよカブキ祭り作戦だ♪」
太郎が提案する。
自分がド派手な衣装に身を包み、派手に神輿に担がれて練り歩き挑発をするという物。
「面白そう♪ 衣装は任せて♪」
楓がまず最初に乗った♪
「では、お神輿は私めがご用意いたします♪ 担ぎ手にも頑張りますわ♪」
杏も笑顔で乗る。
「太鼓や鳴り物は式神達にさせましょう、担ぎますわ♪」
「兄様はドンと構えていて下さいね♪」
「太郎の花道、切り開くぞ♪」
山吹姫、月夜、葵も乗っかりカブキ祭り作戦が開始された。
その日、岩台の住人達は歴史の目撃差となった。
ドンドンと、リズム良く太鼓を鳴らす子犬の姿の式神に先導されるのは真紅の神輿。
担ぎ手は見目麗しいピンクの法被姿の四人の美少女達。
神輿に担がれるは、金の陣羽織を纏った若武者こと太郎。
「ハ~ッ♪ ハッハッハッ♪ 我が名は軍配太郎、次の天下を治める神君候補♪」
本当はこういうキャラじゃないと思いつつも、必死になって演技をする太郎。
「ええっ! あれが噂の世直し若様こと、軍配太郎様?」
「担ぎ手達は、他の神君候補の姫君達じゃないのか?」
「こいつは七夕の祭りも前にどでかい祭りが来たぞ♪」
わっしょいわっしょいと練り歩く太郎達を見て、通りにいた住人達は道を開けながら大騒ぎ。
北天も五大分家のスーパーロボットのお膝元。
住人達は他の神君候補の顔や名を見知っていた。
「さあさあ住民達よ、ニチリンオーの到来を告げよ♪ ホクテンオーとの勝負に参ったぞ♪」
必死になって太郎が叫ぶ、これだけド派手に動いて肩透かしになったら恥でしかない。
だが、太郎の心配は杞憂となった。
何故なら北天城の方からも、鉦や太鼓に笛と祭囃子を演奏する黄金の山車が出て来たからだ。
「やあやあや♪ お待ちしておりましたぞ太郎兄者♪ その勝負、北天青葉受けて立とう♪」
青葉も海の如き青い着物を身に纏い、山車の上から言い放つ。
街の人々からは歓声が上がった。
「カブキ姫と世直し若様の揃い踏みだ♪ 円形闘技場でロボ勝負が始まるぞ~♪」
住民の誰かが叫ぶ。
神輿と山車は競い合う陽に並走しながら街を進むと、広大な円形闘技場になだれ込んだ。
住民達も歴史的な勝負を見物しようと、円形闘技場へなだれ込む。
場内満場、客席が結界で守られた闘技場の中で相対する太郎達と青葉。
「ここで会ったが百年目、南国の仇は北天で♪ 太郎兄者、いざ勝負♪」
「望む所だ青葉、俺が勝ってきっちり天下を治めて見せる!」
語り合う二人、両者は軍配とドリルランスを天に掲げてロボを呼ぶ!
「天下成敗、ニチリンオー!」
「天下突貫、ホクテンオー!」
太陽の城のロボと、ドリルの城のロボが向かい合う。
「「お共ロボ、全合体っ!!」
ニチリンオーとホクテンオーの双方が叫び、お供ロボットを召喚して更なる合体を行う。
ニチリンオーはゴシキニチリンオーに、対してホクテンオーは胴体が鮫の頭になった。
「これぞ新たな力、アラナミホクテンオーなり♪ いざ、突貫っ!」
海賊船長の帽子と上着を纏った青葉がコックピットで叫び、レバー操作で突っ込む。
「サメなら退治済みだっ! ロッカクドリルスパークッ!」
ゴシキニチリンオー、右足の鹿ロボのアオトビマルの角を回転させて電撃を放つ。
「電撃の波も何のその、アラナミロールッ!」
アラナミホクテンオー、機体を回転させて電撃を弾きつつ突進。
「ならば牛の角で受けるっ!」
「はい、アカベコシールドですの!」
「ふんばって、姫っ!」
ゴシキニチリンオーは、巨大な真紅の牛の頭の盾で突進を受け止める。
「ちいっ! 流石兄者、芸が細かい!」
アラナミホクテンオー、アカベコシールドに阻まれたので機体を飛ばして後退する。
「ならばこちらから行くぞ、加護武装アメノサンサホコッ!」
ゴシキニチリンオーの手に巨大な三叉の鉾が握られる。
「長物ならこちらの方が上だ~っ!」
アラナミホクテンオーも、巨大なドリルランスに鮫のヒレ型の刃がついたハルバードを構える。
両者突進し、互いの長物がぶつかり合いになる。
「図体が大きいのは的が広くなっただけだっ!」
アラナミホクテンオーが打ち合いから突きに入る。
ゴシキニチリンオー、あえて避けず胸を狙った相手の一撃を胴の狼の頭が噛んで止めた。
「コガネマル、歯を食いしばりなさい!」
「ありがとう姫とコガネマル♪ 捕まえたぞ、ニチリンビーム!」
「ぐわ~~っ!」
至近距離からニチリンオーが、必殺のビームを発射して相手を吹き飛ばす。
「まだまだっ! 集え荒波っ!」
立ち上がったアラナミホクテンオー、ドリルハルバードの先端に水流を集める。
「ならばこちらも、加護武装コダイオーブレード!」
ゴシキニチリンオーも、巨大な黄金の蕨手刀のコダイオーブレードに装備を変更する。
「アラナミダイナミックッ!」
先手はアラナミホクテンオー、槍を天衣掲げ纏わせた水流っを大波にまで巨大化させて振り下ろす。
「日輪の炎は波をも打ち消す、紅蓮金環斬っ!」
ニチリンオーは慌てず、コダイオーブレードを振るい円を描く。
描かれた円は、紅炎燃え盛る金環となって飛んで行き大波とぶつかり合い打ち消した!
「さらに続けて行くぞ、金環日食崩し!」
ニチリンオーは止まらない、再度円を描き金環を飛ばしてアラナミホクテンオーを拘束する。
「しまったっ! くっ、流石は太郎兄者!」
青葉がコックピット内で敗北を悟る、同時にニチリンオーによって振るわれた一閃で勝負は決した。
ホクテンオーは光の粒子となって、異空間にある整備ドッグの神蔵へ送還。
パイロットの青葉は、ニチリンオーの手に受け止められて地上へ下ろされた。
「さて、これで俺の勝ちだな青葉?」
「はい♪ この青葉、喜んで太郎兄者に嫁ぎます♪」
「いやちょっとまて、お前もか!」
ニチリンオーから降りた太郎達が、青葉と対面すると青葉が太郎に抱き着いて来た。
「青葉、ずるいぞ! 私の方が先だ!」
「ぐわっ! おのれ、葵姉者っ!」
葵が青葉を太郎から引きはがす。
「いや、お雨らいい加減にしろ!」
太郎の怒号が、競技場内に響いたのであった。




