第三十七話:若様、イットウオーと再戦する
「ここが秋山、隣は北天とここまで来たか」
晴れた朝、太郎が丘の上から秋山の地を見下ろし物思いに耽る。
「ここより北だと、北神威島かあ」
楓も呟く。
「さらに北はピロシキ王朝ですのね?」
山吹姫が続く。
「ヒノワだけでも広いのに、世界は更に広いのですね」
月夜も丘の上から宿場町を見下ろす。
「空の上にも世界はあるし、世に果ては無しだな」
太郎も感慨深く呟く。
「まあ、物思いはおしまいにして秋山と言えばうどんに米にと食い所だよ♪」
「毎度ですがまたですか楓姉さん?」
「お約束のご当地の美食ですわね♪」
「最早川と言う名水の地ですからね♪」
「月夜も乗って来たな」
ワイワイ語らいながら丘を降りて、宿場町へと向かう太郎達。
行き交う旅人達に見られたり、驚かれたりヒソヒソ話をされたりする。
「皆様♪ 民に寄り添う正義の味方、軍配党が秋山の地にやってきました♪」
楓が周囲に声をかけて手を振る。
「皆の衆、俺は民の為に力を振るうぞだから恐れないでくれ♪」
太郎も笑顔で手を振れば、旅人達が足を問えんて拝み出した。
「ニチリンオーは太陽の神、万民を漏れなく照らしますわ♪」
山吹姫も幟を振り回してアピールする。
「道祖神様ですわ、お供えをして行きましょう兄様♪」
「ああ、皆の旅の無事の祈願だ♪」
道沿いに立つ祠に握り飯を供えて、太郎達は周囲の皆の旅の無事を祈る。
民衆への好感度アップを図りつつ、宿場町へと入る太郎達。
都会ほどの賑わいではないが、宿屋や商店の活気は良い明るい宿場町であった。
「あれ? まさか、杏さんか?」
「うん、と言う事は葵もいるね」
「面白い事になりそうですわね♪」
「葵ちゃん、すぐ刀を抜こうとするから苦手」
街に入った太郎達、目の前の通り沿いの茶店を見て驚く。
店の外の長椅子に座り、あんこマシマシの団子と茶を楽しむ知人を見つけた。
「あら、太郎様♪ 月夜様もお仲間にされたのですか?」
太郎を見てあざとく微笑む杏。
「ええ、杏さんが自由時間なら葵は寝てるのか?」
「そのような所でございます♪」
従姉妹のお供がのんびりしてるとあらば、寝てるか何かであろうと予想する太郎。
「太郎様♪ ここは私達もご一緒しましょう」
「うん、お団子を食べつつ情報収集だね♪」
「葵ちゃん、食あたりじゃなければ良いのだけれど?」
太郎達も杏と同じ茶店で休息をとる。
「あらあら皆様、ご活躍は存じておりますよ♪」
杏も店内に入り太郎達と同席する。
「まあ、杏さんが情報収集担当だろうからな」
「葵様は、戦闘特化だと思われますの」
「そうだね、あの子は剣の申し子みたいなものだから」
「体動かすこと全般は得意かな?」
茶と団子を頼み、飲み食いしながら語り合う。
「ええ、なのでその武を活かす将が必要なのですよ太郎様♪」
杏子が太郎に振る。
「俺が神君になればそうするさ、悪いようにはしない」
「では、私も葵様も側室希望でございます♪」
「いや、そこはちょっと待って!」
「ええ、私もクガニちゃんも太郎兄様を諦めてませんから♪」
「月夜も勘弁してくれないか?」
「私も側室になるよ、若様♪」
「正妻は私ですから♪」
「山吹姫は良いとしてなあ?」
仲間や親戚から好意を寄せられて、戸惑う太郎であった
「まあ、その件は太郎様が即位されてからでも遅くはないと言う事で♪」
「いや、大事な事だから勝手に決めるな!」
ちょっとマジで怒る太郎。
「失礼いたしました」
太郎の気迫に驚いて詫びる杏。
結論として、茶店では特に情報は得らえなかった。
杏と別れた太郎達は、宿場を後にして街道を進む。
「杏さま、肝心な所ははぐらかしてましたの」
「あっちも忍びだからね」
「兄様へのお気持ちには偽りは無しかと」
「その話は、今の俺の要領を越える」
恋愛事は苦手な太郎であった。
「待て~~いっ!」
「先ほど振りでございます♪」
後ろから葵と杏が太郎達を追いかけてきた。
「来たか、食い過ぎで寝ていたんじゃなかったのか?」
「食い過ぎでも食あたりでもない! 月夜もいたとは!」
葵に呆れる太郎。
「葵ちゃん、女の子らしくした方が良いよ?」
「何を言う、私こそ天下一の剣術乙女だ!」
「うん、剣なら家の山吹姫や桜鹿の薫子姫と世にはまだまだいるぞ?」
「噂には聞いている! いつか試合を挑む予定だ!」
ぐだぐだなトークになる太郎達。
「それでは、改めてイットウオーとニチリンオーで勝負なさればいいのでは?」
杏子が提案する。
「そうか、乗ったぞ杏♪ 私が勝ったら太郎は家の婿に貰う!」
「断る、俺は山吹姫以外を娶る気はない!」
「葵ちゃん、我儘はいけませんよ? 兄様は皆の夫です!」
「月夜も大概だな! 大体、葵は俺のどこが好きなんだよ?」
「それは、優しい所っ! きちんと私と向き合てくれる所! お前の全部が欲しい!」
葵の太郎の好きな点に同意する仲間達。
「葵様のお気持ちは共感できますが、渡せませんわ♪」
「私も若様の事は嫌いじゃないしね♪」
「独り占めはさせませんよ!」
「葵様、私も太郎様の事はお慕いしておりますので♪」
「いあ、お前らなあ?」
前世で縁がなかった、ラブコメ展開に参ってしまう太郎。
「勝負だ太郎! 私が誰より一番だって、わからせてやるっ!」
「うん、断固としてお断りだよ!」
女心は苦手な太郎、周囲に村や畑などがない平野でロボ勝負を挑まれる。
夏の風が吹き出した平野、イットウオーとニチリンオーの二体のスーパーロボットが向き合う。
立ち合いと被害を防ぐ結界役として、ギンゲツオーが間に立っていた。
「天下両断イットウオー参上っ!」
「天下成敗ニチリンオー見参っ!」
「それでは、始めっ!」
ギンゲツオーの合図で動き出す二体、お供ロボも加護武装もなし素の勝負。
「ヒカリオオタチ壱の太刀、真っ向下ろし!」
巨大ロボが巨大な刀を大上段に構えて踏み込み、振り下ろす。
「基本は極意か、ならば破って見せる! ダイグンバイアッパーッ!」
対するニチリンオーが取った策は、全速力で前に突っ込み巨大な軍配を振り上げる事。
激しい衝撃音が鳴り響き、振り下ろされた大太刀が跳ね上げられる!
「こっちだって、剣術は学んでるんだ! お返しだっ!」
ニチリンオーのダイグンバイが、胴を打ちに行くがイットウオーの大太刀が防ぐ。
「胴を防がれたら首だっ!」
胴を防がれて跳ね返された勢いで切り返し、反対側から横面を討ちに行く。
山吹姫から学んだ野風流が唸るり、イットウオーが弾き飛ばされ転がる。
生身では苦戦するであろう葵だが、ロボ勝負では太郎に分があった。
「これしきで負けないっ! イットウビ~~~ムッ!」
「ならばこっちも、ニチリンビームだっ!」
武器でのぶつかり合いの次は、ビーム対決。
両者共に兜の飾りから必殺のビームを発射し、ぶつけ合う。
青白い光線と金色の光線が押し合う、ビームの相撲とも言うべき力比べ!
エネルギーの消耗と意地のぶつかり合いを制したのは、ニチリンオー。
ビームを切り、再度の白兵戦に持ち込もうとしたイットウオーに対して連射に切り替えて光の弾でその動きをけん制する。
「そらっ、組み合って相撲で決めようぜロボ相撲だ♪」
白兵戦が望みならと突進し、ニチリンオーをイットウオーに組み尽かせる太郎。
「挑まれたなら受けて立つ!」
葵もイットウオーを操り、相撲勝負に乗っかる。
互いに退かずに組み合い、背部のブースーターを噴射して押し合う。
これが太郎の策であった、剣と馬術と弓では葵の方が上だが相撲なら太郎の土俵。
ニチリンオーが先にブースターを切り、力を抜いてくるりとイットウオーのサイドに回る。
バランスを崩したイットウオーの足に足をかけて跳ね上げて、首に手を回して掛け倒した。
「決まり手は、河津掛けだ♪」
太郎が叫ぶと同時にイットウオーが転倒する、ここでギンゲツオーが手を挙げた。
「勝者、ニチリンオー!」
ギンゲツオーがニチリンオーの名を呼び、勝負はついた。
ロボを送還し、生身に戻って向き合う太郎と葵。
「負けた、太郎に負けた」
「そうだ、だから俺について来い!」
「え? それって、もしかして結婚か♪」
「それに関しては色々問題があるから取り敢えず、お供からだ!」
「うん、太郎のお嫁さんに相応しいと証明して見せる♪」
「特大な面倒事だが、放置できねえだけだ!」
負けたら素直に太郎緒に懐きだした葵、溜息を吐く太郎。
「太郎様が認めたなら受け入れますが、私の正妻の座は揺るぎませんの♪」
「若様、背負い込んじゃったなあ♪ 私も背負ってもらお♪」
「兄様、これは私もチャンスがあると言う事ですね?」
「太郎様、私は側室で構いませんので喜んでお仕えさせていただきます♪」
太郎が葵を仲間に入れた事で、恋愛のチャンスを見た楓や月夜達。
「いや、お前らなあ? 俺の恋愛の要領は低いんだぞ?」
クガニ達に知られたら、自分達もと来そうなのが怖い太郎。
だが、面倒を見ると言った以上は捨て置けない。
かくして軍配党の郎党に、葵と杏が加わったのであった。
評価など、応援のほど宜しくお願い申し上げます。




