第三十六話:若様、一休みと米作り
富沢での大事件を片付けた若様。
助けた人魚の姫巫女ティーラを、アカベコマルで南方の海へと送り出す。
旅の予定とは異なるが、放置はできない。
「ここから先は、ヒノワの領海を出るな」
「では、ここでお別れですのね」
「うん、お達者で♪」
「ティーラ様、お元気で♪」
「皆様、ありがとうございました♪」
アカベコマルのハッチを楓が開ければ、ティーラが人魚の姿になり海へと飛び込む。
ティーラを見送った太郎達、ヒノワの諸国漫遊の旅を再開しようとハッチを閉めた時だった。
周辺の海域に霧が立ち込め、青白い鬼火が虚空に灯る。
「太郎様、これは敵襲ですわ!」
山吹姫がレーダーを見て叫ぶ。
同時に機体の外には、巨大な白い髑髏の船首を持つ黒い海賊船の怪物が出現した。
「若様、ニチリンオーで退治しよう!」
楓が進言する。
「よし、呼ぶぞ! 来い、ニチリンオー!」
太郎が機内で黄金軍配を掲げれば、アカベコマルの周囲の霧が晴れてニチリンオーが降臨する。
アカベコマルからニチリンオーのコックピットへと転移した太郎達。
海賊船の怪物も髑髏頭を胴体にした海、賊船長風の巨大ロボに変形して襲って来た。
「幽霊海賊ロボですわね」
「でも、ニチリンオーなら負けないよ♪」
「ええ、外国の怪物であろうとも日輪の力は揺るぎません!」
「その通り、行くぞ皆!」
太郎達がニチリンオーを操り、紫の鬼火が白骨の刃に灯った敵のカトラスをダイグンバイで受け止める。
鍔迫り合いになると、幽霊海賊ロボの頭部が口を開けて紫の鬼火を吐き出す。
だが、吐き出された鬼火は、ニチリンオーに届くことなく霧散化した。
「馬鹿が、太陽神の機体にそんな汚れが通じるかよ!」
太郎が叫び、ニチリンオーが幽霊海賊ロボを蹴り飛ばす。
「嘘っ! 幽霊の類なら、ニチリンオーなら一発のはずなのに!」
楓が敵の丈夫さに驚く。
「恐らく、海で死んだ命の霊でバリヤーを張っているんですの!」
「山吹様と同意見です、浄化の力に霊を増やして対抗してるのかと?」
山吹姫と月夜が同じ意見になる。
「敵が海から力を引っ張るなら、こちらはそれ以上に天から力を貰う!」
ダイグンバイを天に掲げ、ものすごい勢いで日光を吸い込むニチリンオー。
機体どころか海すらも金色に輝きだす。
「悲しき魂達よ、生まれ変われ! 極光バースト!」
ニチリンオーがダイグンバイを振り下ろすと同時に金色の光条を放出した!
幽霊海賊ロボも、ニチリンオーの浄化の輝きには抗えず無数の霊魂となり昇天した。
「これにて一件落着かな、次は善き命に生まれ変われよ」
「ありがたい光でしたわ♪」
「拝みたくなる光だね♪」
「強くも優しい浄化の光でした」
ニチリンオーがもたらした浄化の光に感動した仲間達。
「さあ、ヒノワに戻り幽世屋敷で休もう♪」
太郎が帰還を宣言する。
かくして一行は、ヒノワに戻ってから幽世屋敷に帰る。
「さあ、太郎様はお休みになられて下さいね♪」
「若様が寝てる間に、ごちそう作っておくから♪」
「兄様は、心とお体をお休め下さいね?」
屋敷の居間で仲間達に休息を勧められた太郎。
デジタルスクリーンを出して自分のステータスを見る。
「ああ、確かに何と言うか減っているな」
霊力と言う、ゲームで言う所のMPがゴッソリ減っていた。
機体に乗っている時は仲間と機体自体の霊力で消費が抑えらえる。
だが、メインパイロットの太郎は必殺技の使用で仲間以上に消費していた。
霊力は使えば鍛えられる、だが使い切ると激しく披露して動けなくなる。
即効で回復させるには、特殊な霊薬がいる。
その他にも時間はかかるが、睡眠や食事に風呂などの休息を取れば回復する。
幽世屋敷での食事や風呂は、霊薬に相当する回復効果があるので太郎達は元気に旅ができていた。
自室に赴き、浴衣に着替えて布団を敷く。
軽く仮眠を取るかと布団に寝転がる太郎、瞳を閉じれば眠気が襲って来る。
気が付くと太郎は、不思議な空間にいた。
太陽が輝き白い雲が浮かぶ、心地良い空気の黄色の空。
太郎は虚空に浮かびながらニチリンオーと対面していた。
「ニチリンオー、いつもありがとう♪」
『こちらこそ、我が力を快く使ってくれて感謝する主よ♪』
「主って柄じゃないよ、ロボも神様も家族だから♪」
『だからこそ、我が主に相応しい♪』
「ありがとう、これからも宜しくな♪」
『ああ、任せてくれ♪ そして、疲れを癒してくれ♪』
「うん、お休み」
愛機と対話し終えた太郎は、ニチリンオーからの金色の光のシャワーを浴びて眠る。
目を覚ますと、心身がすっきりしていたが腹が減っていた。
「良い夢だったけど、腹が空いたぜ」
太郎が呟くと同時に襖が開かれた。
「太郎様、お食事の時間ですわ♪」
ピンクの着物の上に白の割烹着を付けた山吹姫が現れた。
「ありがとう、喜んでいただきます♪」
起き上がり、姫について行き部屋を出て居間へ行く。
黒い着物の月夜と緑の着物の楓もいて配膳が出来ていた。
「若様のお目覚めだね、じゃあご飯にしよう♪」
「楓姉様、まだ気が早いですよ?」
「ああ、じゃあ姫の隣に座っていただきまか」
「ええ、たんとお召し上がりくださいませ♪」
皆で座り、いただきますと料理に手を合わせる。
食卓には、マグロ尽くしと言わんばかりに刺身が並んでいた。
「このマグロは一体、どこで手に入れたんだ?」
自分が寝ている間に何があったのかと尋ねる太郎。
「それがね、龍神様が持って来てくれたんだよ♪」
楓が答える。
「ティーラさんのお父上の外国の海神様とお知り合いだそうで、お礼にと」
月夜が補足するように答える。
「沢山いただいたので、捌くのに一苦労いたしました♪」
「山吹姫はありがとう、マグロを捌く姿を見て見たかったな♪」
「では次は、太郎様にもお手伝いいただいますね♪」
「ああ、お供えは済んでる?」
「勿論ですわ、ロボ達や神々へのお供えは済ませております♪」
太郎が山吹姫とやり取りする。
「兄様、山吹様にべったりですね♪」
「若様の正妻だからね♪」
楓と月夜が太郎と山吹姫の仲の良さに微笑む。
食事の前のやり取りを終えて、改めて皆でいただきますと食事の開始。
人助けならぬ人魚助けの恩返しのマグロを太郎達は堪能して、英気を養った。
神から貰ったマグロで英気を養った太郎達、幽世屋敷で風呂に睡眠にと休みを取る。
「さて、米潟は今回はどうだろう?」
「以前は海賊退治でしたわね♪」
「お米が美味しいんだよね♪」
「楓姉様は、食い気ばかりですね?」
ワイワイ言いつつ、元気に歩いて以前訪れた米潟の地を訪れる。
訪れた農村では、田んぼが干上がり民が困惑していた。
「これは、何者かの仕業?」
「ああ、皆でここの村役人に話を聞きに行こう」
「うん、人助けの時間だね♪」
「何やら嫌な予感がします!」
太郎達は、村の奥にある立派な屋敷。
村を直に治める村役人の家にを訪れた。
「たのもう、軍配党だ! 他の干上がりを解決しに来た!」
印籠を見せて叫べば、平伏する村役人とその一家。
村役人らしい灰色の着物姿の老人男性が太郎に語る。
「ありがとうございます、突然西の方の空から巨大な火の玉の化け物が!」
平伏しながら事情を語る村役人。
「わかった、その化け物は退治して俺達が田を作りなおそう」
「我ら軍配党にお任せ下さいませ♪」
「怪物退治以外にも色々と出来ますよ♪」
「病人や怪我人の手当ては私が♪」
太郎達が村役人に優しく宣言すると、村役人達は礼を言った。
村役人の家を出た太郎達、太郎の腰の刀が打太刀から蕨手刀へと変化する。
「なるほど、異界獣の仕業だなっ!」
「太郎様、空に黒い穴が開きましたわ!」
「出番だね、若様♪」
「ああ、月夜はギンゲツオーで村を守ってくれ」
「お任せあれ♪」
敵の出現に太郎達もロボを召喚して乗り込む。
ギンゲツオーは地上で結界を張り村の防衛、ニチリンオーは空を飛び敵を討ちに行く。
次元の穴から出て来たのは、巨大な一つ目と口を持ち炎が燃え盛る首だけの怪物だった。
「こいつだな、許さん!」
「先手必勝、台場キャノンですの!」
山吹姫が、操作をして火炎弾を発射する。
敵も火炎弾を口から吐き出すが、ニチリンオーの火炎弾は敵の九尾劇を打ち砕き直撃する。
「へっへ~ん♪ ニチリンオーの正義の炎は負けないよ♪」
「楓姉さんの言う通りだ、金環日食崩しで決めるぜ!」
「待ってましたですの♪」
ニチリンオーのコクピットがスタンドファイトモードに変形。
太郎が小さくも四角い台の上に立ち、楓と山吹姫が脇に控える形になる。
台の上で太郎が蕨手刀を構えて弧を描けば、ニチリンオーも手に蕨手刀型の武器を召喚。
ニチリンオーが描く弧は炎が燃え盛る金の光の輪となり敵へ飛んで行き、その体を磔にする。
続けてニチリンオーが突進し、斬撃を敵に振るえば敵は一刀両断され爆散して消滅する。
ニチリンオーの必殺技、金環日食崩しが炸裂すれば一件落着であった。
ニチリンオーが技を振るった余波は、地上にも来た。
だが、地上のギンゲツオーが展開した六角形のバリヤーが防いで村への被害を防いだ。
攻めのニチリンオー、守りのギンゲツオーと言うスーパーロボット同士の連携の勝利であった。
戦いの後は、田畑の救済だ。
月夜はギンゲツオーからお供ロボットのクロガメマルに乗り換える。
楓と山吹姫が地上に降りて式神を召喚する。
農具を持った天狗や稲や野菜の苗を用意した小犬が、田畑を耕し直し植え直しする。
クロガメマルが口から水を散水し、ニチリンオーが額の飾りから光を出し成長促進。
田圃は水を張れば良いという状態まで復旧したらニチリンオーが変形。
リュウジンニチリンオーとなり、鉾型の武器アメノサンサホコを天衣かざして雨を降らせる。
神の力を持つスーパーロボットの力により、荒れた田畑は生まれ変わった。
太郎達は、村人達から大いに感謝され後のこの村の米は太郎米と呼ばれる事となる。
「ふう、やっぱり人助けって気分が良いな♪」
「村の方々に喜んでいただけたようで何よりですの♪」
「太陽の神様のロボと、水の神様のロボの見事な連携だね♪」
「兄様達は、ロボを武具以外にも使い人助けをされて来たのですね♪」
事件を解決し、道中を歩きながら語る一同。
「まあ、ニチリンオーや皆の力を借りたお陰で出来た事さ♪」
成し遂げられたのは、仲間やロボの力のお陰様と方々に感謝しつつ太郎達は旅を続ける。
感想や評価などをいただけると幸いです。
宜しくお願いいたします。




