第三十三話:若様、ギンゲツオーと対決する
「亀水湖か、相変わらず大きいね~♪」
「まさしく湖が亀の甲の形ですのね♪」
「ああ、そしてあそこが亀水大社だ」
「亀水飴や亀団子に甲羅焼き、大社通の名店巡りでお腹と元気が一杯だよ♪」
「楓様の仰る通り、美味でございましたの♪」
「いや、観光を楽しみ過ぎてない?」
都の北、亀水の地を訪れた太郎達。
道中通った門前町、大社通りには亀にちなんだ名物の菓子の店が多かった。
となればし成り行きで、楓と山吹姫は買い食いで英気を養っていた。
呆れ顔の太郎が掌で指し示すのは朱塗りの大鳥居。
その先は、石段と見張り小屋を兼ねた巨大な二階建ての隋神門。
龍縄でも見たような隋神門の屋根には、鯱ならぬ亀がいた。
湖の大きさや、屋敷でもある大社の大きさなどに感動する山吹姫。
「人払いはされてるね?」
楓が人気のなさから、術で人払いがされていると感じ取る。
「お社よりも舞台の方から強い気を感じますわ!」
山吹姫が湖中央の舞台を見やる。
「よし、月夜はそっちだな。 アカベコマルよ、来い!」
太郎が黄金軍配を掲げれば真紅の牛型ロボが静かに現れた。
一行はアカベコマルに乗り込むと、機体を操り舞台へと向かう。
湖の上の舞台では、額に冠を被り短剣の鍔に鈴の付いた祭具を持って舞う巫女がいた。
アカベコマルから降りて機体を送還した太郎達と,舞を終えた巫女の目が合う。
長い黒髪に白い肌、目鼻立ちが整った顔に宿る金の瞳は満月の如き美少女。
細身の体付きだが、胸はあるのは神のご加護か中の都のアイドル的存在。
彼女がギンゲツオーのパイロット、盾守の姫巫女こと盾守月夜だ。
「年始の集まり以来だな、月夜?」
「お久しぶりです太郎兄様、楓姉様とそちらが山吹姫ですね?」
「初めまして、山吹と申しますの♪」
「月夜ちゃん、久しぶりでごめんね?」
巫女こと月夜と挨拶を交わす太郎達。
「ご用件は、私の旅でしょうか?」
「そう言う事だ、ギンゲツオーとぶつかり合って話そう」
「わかりました、私も武家の娘。 それでは一騎討ちで参りましょう」
「その意気や良し、姫と楓姉さんも行くぞ!」
「射撃はお任せだよ♪」
「私達でお支えいたしますの♪」
太郎がニチリンオーを召喚すれば、楓と山吹姫もサブパイロットで共に牽引ビームで乗り込む。
対する月夜姫が剣鈴を手に掲げてくるりと回れば、湖が渦巻き巨大な銀の亀が浮かび上がる。
浮かび上がった亀が口を開き、その中に月夜が吸い込まれれば空中で亀が逆立ちして人型へと変形。
メインカラーは緑、モチーフは亀と月と鎧武者。
スケイルメイル状の重装甲に太い手足。
額に銀の満月の飾りが付いた兜を被り、双肩と前腕に亀甲型のシールドが付いた人型ロボ。
その他の特徴は、名前の由来でもある胴体に銀の三日月型のパネル。
「天下鏡月ギンゲツオー、参ります!」
ギンゲツオーが名乗りを上げれば、舞台を結界が覆う。
太陽と月のロボの勝負が始まる。
「初手から行きます、ギンゲツビーム!」
ギンゲツオーの機内、スタンドファイトモードで機体を操る月夜が叫ぶ。
ギンゲツオーの胸のパネルが輝き、光条を放って来た!
「ならばこちらも、ニチリンビーム!」
ニチリンオーも兜から金色の光を放出し、ビーム同士がぶつかり合う。
互いのビームが対消滅した所で、ギンゲツオーが体当たりを仕掛けて来る。
「緊急回避ですわ!」
山吹姫が機体を操作しニチリンオーが側転でギンゲツオーの体当たりを回避する。
「この舞台は私の庭、逃がしませんよ!」
ギンゲツオーが機体を独楽のように回して反転し、ニチリンオーに迫る。
「台場キャノン、発射だよ!」
対するニチリンオーは、楓が操作し胴体から火の玉を発射する。
「甘いですっ! 押し通ります!」
ギンゲツオーは火の玉を盾に受けながらも突進して来る。
「タヂカラゴテで迎え撃つぜっ!」
ニチリンオー側も太郎がスタンドファイトモードになる。
ニチリンオーの両腕に巨大な黄金の神の籠手、タヂカラゴテが装着される。
「タヂカラカウンターパンチッ!」
寮出に金の籠手を嵌めた太郎が突きを繰り出せば、ニチリンオーも拳を突き出す。
ぶつかり合う拳と盾、ギンゲツオーの盾が割れ重い機体が吹き飛ばされた。
「そ、そんなっ! ギンゲツオーの盾がっ!」
吹き飛ばされて転がった状態から起き上がる月夜とギンゲツオー。
「若様、あっちが起きるまで待ていて良かったの?」
「優しさや正々堂々とは違う理由がありそうですの?」
「下手に攻めれば、ギンゲツオーの回転攻撃で弾き飛ばされるんだ」
太郎はギンゲツオーが仰向けで転んだ状態は危険だと判断した。
「後、月夜は柔の腕が立つから引き込まれての寝技が怖い」
「それは、技をかけられた経験がおありなのですね♪」
太郎の言葉に山吹姫が微笑む。
「兄様、やはり引っかかりませんかつれないお方です」
ギンゲツオーの中では、太郎の読み通りな事を企んでいた月夜が悔しがる。
「で、どうするの若様?」
「ビームは相性が悪そうですの!」
「なら熱と炎と物理で行く、太陽は光だけにあらず!」
太郎が両腕をハの字に構えて拳を握る。
「参ります、シールドシュート!」
ギンゲツオーの両肩のシールドが自動的に外れ、回転しながら飛んで来る。
迫り来るシールド、ニチリンオーはタヂカラゴテを嵌めた拳を振るい打ち返した。
「甘いですわ!」
月夜が指で印を結び叫べば、打ち返されて落ちた手からビームが発射される。
だが、そのビームを受けてもニチリンオーは止まらない。
「甘いのはそっちだ、ビームを吸えるのはこっちもだ!」
ギンゲツオーのシールドのビームを吸収しながら進むニチリンオー。
両手に嵌めたタヂカラゴテが燃え上がる。
「行くぞ月夜、外の世界を見てこい! バーニングタヂカラナックルッ!」
ニチリンオーの燃え盛る拳が唸り、ギンゲツオーを鎧袖一触で叩きのめした!
ギンゲツオーは光の粒子となり神蔵へ送還され、月夜はニチリンオーの掌が救った。
「お見事ですわ、太郎様♪」
「勝ったのは良いけれど、都の守りとか事後処理だね」
「うん、伯父上に相談するよそこら辺は」
勝負を終えた太郎達、月夜を大社まで運び事情を説明する。
「お役目とはいえ、娘を一人で旅立たせるわけには参りませぬ」
「そこは、信頼のおける者達を共につけるとか?」
住居部分で月夜に似た美しい妙齢の女性、月夜の母の千代と対話する太郎。
「でしたら、太郎殿に預けるのが一番ですね」
「え? それはちょっとお待ち下されおば上!」
「待ちませぬ、勝者の責務としてしばし娘の世話をお願いします♪」
千代の言葉に勘弁してくれと言う顔になる太郎。
「都の守りを考えず、ギンゲツオーを叩きのめした責任はどうします?」
「そう言われたなら確かに、わかりましたお引き受けいたします」
「頼みましたよ、それまで都の結界は我らが張りますゆえに」
月夜の面倒を見る事となった太郎であった。
「と言うわけで、月夜を俺達の旅に加えるよ」
「宜しくお願いいたします、山吹様、楓姉様♪」
「宜しくお願いいたしますわ♪」
「月夜ちゃん、機体はどうするの?」
幽世屋敷の居間で挨拶をする巫女姿の月夜。
楓が月夜のロボはどうするのかを尋ねる。
「それでしたら、亀水の神より新たに与えられたクロガメマルがございます♪」
笑顔で月夜が答える、旅に出る餞別で貰えたらしい。
「そう言えば、屋敷の中に池と祠ができてたけどそこか?」
「はい、後でお見せいたしますね♪」
「あらあら、楽しみですの♪」
「仲間も増えたし、楽しくなるね♪」
「まあ、旅は道連れだから仕方ないが月夜は月夜で神々から力を貰えよ?」
「ええ、私も神々に好かれる性質なので♪」
新たな仲間、月夜を加えた太郎と軍配党。
ギンゲツオーを味方につけて、太郎の旅は続くのであった。




