第二十四話:若様、南国に至る
「ふう、ありがとうニチリンオー♪ アカベコマル♪」
力を貸してくれたニチリンオーとアカベコマルに礼を言う太郎。
「葵様も、礼を忘れてはなりませんよ?」
「うん、ありがとうイットウオーにオシラマル負けちゃてごめん」
葵の方もイットウオー達に礼を言い、神蔵へと機体を送還する。
「若様お疲れ様♪」
「お見事でしたわ、太郎様♪」
太郎の元へとやって来る楓と山吹姫。
「二人共、見守ってくれてありがとう」
楓達にも礼を言う太郎。
「杏、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして♪」
太郎の様子を見て、葵も杏に礼を言う。
葵は脳筋のアホの子だが、悪い子ではないので。
「若様、葵がこっち見てるんだけど?」
「邪見にしてはいけませんわ」
「まあ、そう言われるとな?」
太郎としては、やや億劫だったが歩み寄ろうと思った。
「太郎様、この度はご迷惑をおかけいたしました」
杏が太郎の所へ来て一礼、付いて来た葵はむくれていた。
「いや、葵の奴がめっちゃむくれてるんですけど?」
「誰がへちゃむくれよ!」
「お前なあ、お姫様なんだからそういうのはな?」
「ほらほら葵様、そんなお猿さんではいけませんよ?」
「杏までひどい、むき~~っ!」
「ほら、どうどう」
葵をあやす太郎。
「暴れん坊で甘えん坊ですのね、葵様って?」
「ごめんね、妹がアホな子で」
「まあまあ、そう言わずに私達もあやしに行きますの♪」
楓と山吹姫も葵をあやしに行く。
「はい、葵様~♪ もふもふですわよ~♪」
山吹姫が尻尾を出してふりふりとじゃらす。
「もふもふ~っ!」
葵は山吹姫の尻尾に飛びついた。
「よしよしですの♪」
「葵様が懐くとは、おみそれいたしました」
葵が山吹姫にじゃれつくのを見て、山吹姫に感服した杏。
「葵も、人を寄せる点では君主の器ではあるんだよな」
太郎が自分や仲間が葵の所に来ている事から、彼女に君主の片鱗を感じ取る。
葵が落ち着いた所で、改めて話をする一同。
「取り乱してすまない、迷惑をかけた」
一瞬だけ太郎を鋭く睨んでから、詫びる葵。
楓は、舌禍を防ぐために太郎の背後に回り口を塞ぐ。
「太郎様、葵様にお付き合いいただきありがとうございました♪」
「次は負けないから! 勝って太郎を婿に貰うから!」
「まあまあ、ライバル宣言ですのね♪ 負けられませんわ♪」
葵と杏のイットウオー組は、悔しがる葵を杏が慰めながら去って行った。
「うん、楓姉さんは止めてくれてありがとう」
「危なかったよ、若様が葵と話したらまた揉めそうだったし」
「太郎様の事がお好きな気持ちだけは、共感いたしますの」
太郎は、葵からの自分への好意云々については黙る事にした。
「まあ、取り敢えず俺達もアカベコマルで南国へ渡ろうか?」
「ですわね、何が待ち受けるやら」
「うん、葵もだけど他の候補とも鉢合わせとかしないと良いなあ」
「同感だけど、避けてばかりもいっれないよ」
太郎達、軍配党もアカベコマルに乗り込み無人島を立ち去る。
アカベコマルが海を行き、人気のない海岸に辿り着く。
「ここが、南国ですの?」
一行はアカベコマルから降りると、山吹姫が太郎に尋ねる。
「ええ、ここは佐津藩の領内です」
太郎が姫に答える。
「福多藩からじゃないんだね?」
「楓様、福多藩には何かございますの?」
「明太子にうどんに龍麺に鶏肉にと、食の街だよ♪」
「それを言いだしたら、ヒノワは何処も食の街だよ!」
楓の食道楽ぶりに太郎がツッコんだ。
「なるほど、楓様といると食の知識も増えますわ♪」
「姫~? 教えるから作って~♪」
「うん、まあ立ち寄ったら食べよう」
「ちなみに、佐津は焼き物と牛肉の有名どころ♪」
「楓姉さん、本当に旅の案内が上手いな」
「忍修行で旅芸人に化けて、国内は一通り回ったよ♪」
「楓様、流石ですの♪」
海岸でわいわい語り合う太郎達。
太郎は脳内で思考操作をして、アカベコマルを幽世屋敷に送還する。
「それじゃあ、また歩いて旅をしようか♪」
「ええ、己の足で歩いてみて回りましょう♪」
「こっちにも、ハニワ教団みたいな奴らもいるかもしれないしね?」
「うん、そうそう世直しと人助けの方に行こうな皆?」
楽しい旅は良い、だがメインは世直し人助けだと言い聞かせる太郎。
ライバルとの対決も避けられないが、メインは世直し人助け。
前世で見たアニメの如く、手にした権力や武力は正義と平和の為に使いたい。
楓がこの道を進めば陶芸の名産地だ、と語るのを聞きながら街道を進む。
「お武家様~っ! お助けを~っ1」
「その娘を逃すな、待て待て~っ!」
太郎達の行く手から、赤い着物姿の町娘が助けを求めて走って来る。
娘の背後から、いかにも悪人面の浪人者達が抜刀して迫る。
「いきなり事件か、成敗するっ!」
「容赦はいらないね♪」
「一人ほど生かして、後は手打ちですの♪」
楓が二丁銃を抜いて空を舞い、山吹姫が狼に変化して疾走する。
「ぎゃ~っ! 天狗に狼がっ!」
「ひいっ、食われるっ!」
「おのれ何奴、ぐはっ!」
楓に撃ち抜かれ、山吹姫の爪で喉を裂かれた浪人達。
残った一人は、太郎の軍配で頭を殴られ近くの木に縛られた。
助けられた娘は、背後で起きた惨事を目の当たりにして腰を抜かした。
「助けたけど、この人気絶してる!」
「太郎様、あそこの荒れ寺で介抱をいたしましょう♪」
「そうだね、私が運ぶよ♪」
「うん、じゃあ俺は浪人に尋問する」
楓と山吹姫に町娘を任せて、太郎は浪人に砂糖水をかけて起こす。
「この印籠を見ろ!」
「ご、五大分家の紋所! お話させていただきます故命だけは!」
太郎が印籠を見せると、浪人はべらべらとしゃべり出す。
「なるほど、家老に雇われて村を乗っ取り戦の準備か?」
「下種衛門はこの村にロボの絵付けの為と機体を用意させております」
「そうか、貴様の始末は天に任せる」
話を聞き出した太郎は、浪人を放置して仲間達の所へと向かった。
太郎の背後で、虫が虫がと叫ぶ声を無視して。
「太郎様、どうでしたの?」
「ここのご家老が、悪い事を企んでるんだって」
「こちらも同じことを聞いたよ、村を乗っ取り謀反の支度とは許せん」
仲間達とお堂レベルの荒れ寺で話し合う太郎。
「あの、私は一体どうすれば?」
町娘がおそるおそる太郎に尋ねる。
「うん、しばらくコガネマルの倉庫の中に匿うよ」
「ええ、お任せ下さい♪ 娘さん、我らがきちんとお守りしますの♪」
「そうそう、ニチリンオーがしっかり守るからね♪」
「あ、ありがとうございます!」
微笑む太郎達に、町娘は平伏した。
敵が待っているなら、こちらもロボを出して乗り込む事にした太郎達。
ニチリンオー、コガネマル、ヒスイマルを召喚して乗り込んだ状態で村を目指す。
村の入り口に着いた所で、太郎のニチリンオーが通信機で叫んだ。
「悪家老下種衛門! 不逞浪士を集め藩の転覆を企むとは不届き千万、成敗するっ!」
「我ら軍配党が許しませんわ!」
「武士なら潔くロボで勝負だよ!」
「姫、楓姉さん! 合戦で行きますっ!」
「馬鹿な、このような所にニチリンオーが来るとはもはやこれまで!」
太郎に断罪を宣告された下種衛門、覚悟を決めて隠していた機体へと手下達と乗り込んだ。
太郎の乗ったニチリンオー、山吹姫の乗ったコガネマル、楓の乗ったヒスイマルと勢揃いした軍配党のロボ軍団。
対するは悪の家老下種衛門が操る、金の上下の武士型巨大ロボットアクガロン。
下種衛門が率いるは、彼が雇った不逞浪士達が乗る黒い侍型の浪人ロボ部隊。
正義と悪のロボ軍団による合戦の火ぶたが切って落とされた。
周囲は山や畑と言った小さな村を戦場に、巨大ロボ同士が相争う。
ニチリンオー達は村の建物を壊さぬようにと思っても、敵はそうは思わない。
家屋や田畑を壊す事など厭わない敵軍に太郎は怒りつつ立ちはだかる。
「民百姓の暮らしを守るのが武士であろう!」
ニチリンオーが壁となり敵兵達の攻撃を一身に集める。
「若様はやらせないよ、キジブラスター!」
「我らが攻めますわ!」
ニチリンオーが耐えている間に、コガネマルとヒスイマルが敵の兵を撃破。
「ぐぬぬ、やはり五大分家の機体は難攻不落か!」
手下をけしかけて、自分は離れて様子をうかがうアクガロン。
「おのれ、もはや逃げるしか!」
だが、コガネマルとヒスイマルにより浪人ロボ達を撃破されると焦りが生まれる。
「太郎様、敵兵は倒しましたわ下知を!」
「若様、村を守ろうとするその優しさは素敵だよ♪」
自分の機体に敵を引き付け、村への被害を抑えた太郎を讃える姫と楓。
「姫、楓姉さん! アカベコマルも皆で合体、カルテットニチリンオーだ!
ニチリンオーの機内で太郎が叫ぶ。
「かしこまりましたの!」
山吹姫が答え、コガネマルを走らせる。
「了解だよ、合体シークエンススタート!」
楓も答え、ヒスイマルが飛翔する。
ニチリンオー、コガネマル、ヒスイマル、アカベコマルの四体が合体。
銅に狼の頭、背には翼、足は四つ足のニチリンオーが完成した。
「完成、カルテットニチリンオー!」
太郎が叫んで名乗りを上げる。
「太郎様、参りましたわ♪」
「若様、宜しく~♪」
山吹姫と楓も太郎に合流した。
カルテットニチリンオーの誕生に、アクガロンの中で腰を抜かす下種衛門。
彼に太郎達からの断罪の時が迫る。
「若様、アカベコアローを試してみよう♪」
「良し、武装合体アカベコアローだ♪」
楓の言葉に太郎が乗り、瞳に映る武装の情報を視線クリックで操作。
アカベコマルの頭であるアカベコシールドと、ヒスイマルの両翼が合体。
牛の頭に緑の翼の弦と言う新たな武装が誕生した。
カルテットニチリンオーが弦を引き絞って放てば、牛の口から光の矢が発射される!
下種衛門は、アクガロンの回避を試みるも間に合わず機体が射抜かれる。
「しまった、炉心を射抜かれっ!」
下種衛門は、逃げる事は叶わず爆散する機体と共に光となって消えた。
「これにて、一件落着♪」
太郎の勝利宣言で、戦いは終わった。
助けた町娘を村へと送り出した太郎達。
「何と言うか、今回は調査する暇がなかった」
「葵様達が倒して来た悪党も、ああいう輩だったのでしょうか?」
「問答無用な敵なら仕方ないとはいえ、それはそれかなあ?」
「頭が痛いが、悪は倒すしかないよな」
新たな地で、戦い方について頭を悩ませる太郎であった。




