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~勇者が行く~  作者: 創造主
第三部
93/196

【093】天空城の戦い(7)

華麗に葬ったはずが勝手に帰ってきやがった華緒。しかも自らを『風神』だと名乗りだした。察するに、奴は装備に宿る風神に命を捧げたってことなんだろう。

そうまでして勝ちたいとは…敵ながらアッパレな奴め。


「なるほど状況は理解した。にしても意思まであるとは…とんでもない靴だな。」

「お前のおかげで久々に好き勝手に動き回れる。感謝するぞ小僧。」

「フッ、なぁに気にするな。どうせすぐ天に還す身だ、礼には及ばん。」

「そうか、それは…残念だ!」


 風神の攻撃!

 ミス!勇者は華麗に攻撃をかわした。


「ふぅ…やれやれ、そんな見慣れた攻撃で勝てるとでも?思慮の浅い神だな。」

「フッ、お前も大したことないのぉ…斬られた肩口に気づかんとは。」

「ん?プッ!フハハハ!“嘘だよ隙ありー!”ってか?これじゃさっきのやりとりと逆…なっ!?」


 勇者の肩口から本当に血が噴出した。


「あ!盗子ちゃん虹!」

「仮に見えても今その反応はおかしいよ!?まずは心配しろよ心配!」

「…チッ、どうやら人格が変わった程度の変化じゃあ…ないらしいな。」

「ああ。こやつが死んでも次はいる。肉体の限界を超えて、暴れられるのよ。」

「ふむ…つまりお前、あれだろ?限界を超えて…ってことは要は“リミッター解除状態”にあるってわけだ。ハハッ、一転して大ピンチじゃねーか。」

「なんだ、臆したのか?」

「いや、問題ない。どうであれ倒すって結果は変わらんのだしな。やるだけさ。」

「フン、口だけはデカい小僧よ。」

「口だけじゃない!“態度”もだ!!」

「その訂正はどうなの!?」

「本気で潰すぞ!真の敵は暗黒神…三下は大人しく、死んでやがれぇーー!!」


ガキッィイイン!


「ぬぐっ!」

「ほぉ、靴で剣を受けるとは器用な…!だが、これならどうだ!?百の秘剣…!」


 勇者は『百刀霧散剣』を繰り出した。

 風神は風で防いだが防ぎきれなかった。


「くっ!我が風の防壁を通すとは…!フッ、血が騒ぐよ小僧…五百年ぶりだ。」

「勇者君の方が騒いでるよね?」

「ああもちろんだ姫ちゃん!血管がハチ切れんばかりさ!」

「普通そんな騒ぎ方はしないよ大丈夫!?」


 勇者の先制攻撃をなんとか受け切ったものの、無事では済まなかった風神は、素直に勇者の実力を認めたようだ。


「面白い、どうやら手を抜いて勝てる相手じゃなさそうだ…。さぁ次はこちらの番だ!味わえ我が奥義、必殺―――」

「無駄だ!さっきの防御でわかった、貴様の風なんぞ…」


「『大旋風葬』!!」


 痛恨の一撃!

 勇者は壁にめり込んだ。




「勇者ぁーーーー!!へ、平気!?大丈…」

「も、問題ない…邪魔だから…近寄るな。」


 駆け寄ろうとする盗子を制し、なんとか立ち上がった勇者。

 だが肉体的ダメージだけでなく、かなり動揺もしていた。


「い、今の技は…『邪神』の…!?なぜ…だ…?」

「ん?なんだ“妹”に会ったことがあるか?アレは天才だったが、元は俺の真似事よ。」

「そうか…貴様が本家と…いうことか…ぐふっ!」


 崩れ落ちる勇者に駆け寄り、肩を貸す案奈。

 もはや勇者には立っているだけの力も無いようだ。


「だ、大丈夫か勇者!?輸血球はもう無いんやから気ぃ付けんと!」

「商南…少しでいい、時間を稼げるか?その間になんとか…回復してみせる。」

「ハァ!?フザけるんちゃうでアンタ、こない危険な状況で…」

「言い値で…払う。」

「ホレ『回復符』や。他にもさっき拾った呪符がいくつかあんねん。どやろ?」

「フッ、悪くない…。じゃあ任せ…たぞ……」


 勇者は気を失った。


「貴様…『符術士』か?だがそんな呪符ごときで、この技は防げはしない!」


 風神の周囲を凄まじい風が取り巻き始めた。

 どう考えても商人が立ち向かえる敵じゃない。


「ちょ、ちょいと安請け合いしすぎたかもしれへんな…。言い値やいうても、死んでもうたら取りっぱぐれてまうわ…」

「さぁ、食らえぃ小娘ぇーーーー!!」

「くっ、あかん…!」


 風神の攻撃!

 商南の前に風の柱が“二つ”そびえ立った。


「なっ、二つやてぇ!?」

「お、俺の技…だとぉ!?」


 想定外の事態に驚く二人の間には、別のもう一人の影があった。


「時間稼ぎか…それなら僕が、適任だね。」


 それしかできない男、『宿敵』が現れた。



「えっ、宿敵…!?アンタも来てたの!?転職したとは聞いてたけど、そんな強くなってたなんて…!」

「やぁ、久しぶりだね盗子君。キミの噂も色々と聞いているよ。」

「噂ぁ?アタシってそんなに有名人?い、イヤだな~なんか照れるなぁ~☆」

「聞いてるよ、言えないことから…言えないことまで?」

「言えるの無いの!?その情報源って…つまり勇者からなんて聞いたの!?」


 宿敵は口をつぐんだ。


「そうか貴様、『好敵手』か…。まさかこの時代にも生き残りがいたとはのぉ。」


 その昔に知り合いでもいたのか、風神は『好敵手』の存在を知っているようだ。


「ああ、僕は負けない。けど勝てもしないから最後は誰かに任せる他ないがね。」

「な、なんか…なんとかなりそうだね!じゃあアタシらは先生の応援でも…」


ドカァアアアアアアアアン!


 盗子が油断したその時、教師らが戦っているはずの方向から轟音が聞こえた。


「な、なに今の音!?さっきの劣勢な感じからして、まさか先生…負けちゃってたり…?」


 盗子はとても嫌な予感がした。

 だが振り向いて飛び込んできたのは、まったく逆の光景だった。


「ぐっ、馬鹿な…!死神…貴様、それ程の力を…どこに隠して…!?」

「フフフ、風神のおかげですかねぇ?風向きは…変わったようです。」


 なんと、状況は好転していた。


「チッ、どういうことだ…?幻術はあくまで幻術のはず…ダメージなんて…!」

「まぁ普通はそうですね。でも私の生み出す幻は…“現実”となるのです。」

「す、凄い!凄いよ先生!あまりにやりたい放題な能力で怖すぎだけども…って、アレ?なんか先生、髪が黒っぽくなってない?」

「そ…そうかテメェ、そういうことかよ。どうしても俺を殺したいらしいなぁ!」

「言ったでしょう?“今回は必死”だと…ね。」


 暗黒神を剣の山が取り囲んだ。

 そして一斉に襲い掛かる。


「くそっ、多すぎる…!うぉおおおおおお…!ぐっ!ぐぁああああああ!!」


グサグサグサササササッ!!


「やったね先生!グロすぎて放送じゃカットな感じだけども…って、先生!?大丈夫!?」

「ぐふっ…ゴホッゴホ…!カハッ!!」


 教師は大量の血を吐いた。


「先生、その血って…強すぎる力を使うには相応の代償が必要、みたいな例のよくあるパターン…!?」

「やれやれ、吐かせるのは好きなんですがねぇ…」

「ホント大丈夫!?特に思考回路!」


 そっちは手遅れだった。


「う、うっわー…にしても、すんごい刺さってるよ…なんかもう“剣山”みたくなってるね…」

「実はなにげに趣味なんですよ、生け花。」

「生きてないよ!?普通の奴なら最初の数本で死んでるからね!?」


「フ…フフ…ぐふっ!ゲハッ…!ハ…ハハハハ!ブハァ!」


 盗子の言う通り、普通なら死んでるような状況にありながら、なぜか高笑いする暗黒神。


「…何がおかしいんです?これで効いてないなんてハッタリは通じませんよ?」

「あ?いやぁ効いてるさ、死ぬ程な…。だが…お前の反応を想像したら…なぁ?ププッ!」

「ッ!!?」


 教師は背後の気配に振り返った。

 教師は目を疑った。


「な…なん…で…?」


 教師の前に立っていたのは―――


「お兄ちゃん…会いたかった…」


―――死んだはずの妹、凶優だった。



ドスッ!



 痛恨の一撃!

 教師は凶優に胸を貫かれた。



「ぐふっ…!しまった、油断を…!」


 想定していなかった展開に柄にもなく動揺してしまった教師は、見るからにヤバい一撃を食らってしまった。

 咄嗟に回復魔法を唱えた教師だが、やはり専門ではないため命を繋ぐのが精一杯のようだ。


「ぐっ…カハッ…!」

「せ、先生大丈夫!?それに誰その子…!?さっきまでいなかったのに…!」

「お兄ちゃん…お兄ちゃん大好き。だから…死んで、一緒に遊ぼうよ。」

「えっ、妹!?いやいやどう見ても少女じゃん!」

「…ふぅ、なるほどそういうことですか。私としたことが…こんなことにも気付かないとは…情けない。」


 教師は睨みで柱を破壊した。

 なんと、柱の陰から黒猫が現れた。


「フォフォフォ!やはりこうなったか。戯れに保存しておいて正解だったわ!」

「あ、アンタは死体使いの…!じゃあその子はホントに先生の妹だっての!?」

「その通りよぉ!それゆえ死神は手も足も出せず、これから実の妹に殺され…」


ピカァアアッ!


 凶優は光の中に消え去った。


「安らかに眠りなさい、凶優。」

「なにぃ!?何のためらいもなく消し去っただと…!?愛する妹のはずが…!」

「フッ、共に在ること…そう望んでこそ愛だとでも?浅いですね、非常に浅い。」

「うわっ!せ、せせせ先生の銀髪が…真っ黒に…!?」

「さぁお仕置きですよ、ニャンコさん。千の地獄にもがき苦しみ…そして死ね。」


 黒猫は大変なことになった。



「ふぅ、参りましたね…神のトドメまであと…一歩なんですが…ねぇ……」


 力を振り絞ってなんとか黒猫を始末したはいいものの、これまでに受けたダメージはあまりにも大きく、教師の体は既に限界を迎えていた。


「うわー!先生ぇー!たたた大変だよ先生が死んじゃうよ死んじゃうよぉ~!」

「騒ぐんじゃないさウザっ子が。息があるならまだ間に合うさ、この人なら。」


 暗殺美が目を覚ましていた。


「あ、暗殺美!アンタ治ったの!?良かった~!じゃあ姫が空いてるんだね!」

「うん、私が治すよ!いつも通り頑張っちゃうよ!」


 教師のピンチは続く。



「にしても、先生のあの髪…。これが噂の“リミッター解除”ってヤツかさ?」

「いや、違うなじゃないかなぁ?自分の意思で解除できるもんじゃないって前に先生自身が言ってたし。でも確かに、明らかに普通じゃないし何かあるよね絶対…」


「死神と契約したのだろうよ。まぁ華緒のように身を委ねたわけではないようだがなぁ。」


 盗子らの疑問に答えたのは、なんと死んだと思われていた剛三だった。


「えっ、アンタは帝都の軍の…って、なんで生きてんの!?だってアタシらが来た時にはもう…」

「死んだはずの奴が動いてる…今この状況で答えを出すんなら、もはや一つしか無いさ。」

「そ、それじゃあまさか…!」

「フォフォフォ!ぶっつけだったが成功したよ。近くに使える体があれば、我が魂は永遠だ。」

「じゃあやっぱアンタ黒猫!?なんてしぶとい奴なの!?ウザすぎるよ!」

「先生にグッチャグチャにされる前に別の死体に乗り移ったってわけかさ。確かにウザすぎる奴さ。」

「フォフォフォ!動きは遅いがこの筋肉…良い体だ、存分に暴れてくれよう!」


 爺さんはムッキムキの肉体を手に入れた。


「ど、どうしよ暗殺美…アタシって煽るまでが仕事でそれ以上は…」

「そう堂々と役立たず宣言されると逆に清々しいけど死ねさ。でもまぁ私も全然回復できていないし…一緒に死ぬっぽいけどもさ。」

「そんなー!だ、誰か助けてぇーーーー!!」

「唸れ剛腕!死ねぃ小娘どもぉおおおお!!」


ドガシィッ!


 黒猫の攻撃。

 だが間一髪で宿敵が間に合った。


「ふ、ふぅ~…ギリギリか、危なかったね。」

「あ、ありがと宿敵!アンタに助けられるとかまだ違和感あるけど助かったよ!」

「運良く届いたから助けられたけど、次は期待しないでほしい。なぜなら僕は…」

「オイ貴様、よそ見とは余裕すぎないか?この風神様も舐められたものだ!」

「やるなぁ小僧!だが次の一撃は、受け止めきれるかな!?」

「ハッ!しまっ…」


 風神、黒猫のダブル攻撃!

 宿敵は激しく吹き飛ばされた。


「えっ、なんで!?アンタにはどんな攻撃も効かないんじゃなかったの!?」

「こ、『好敵手』は“1対1”の職…多角的な攻撃にはどうしても隙が…ね。」

「じゃあやっぱり、猫の方はこっちで引き受けるさ。私は暗殺美、覚えとけさ。」

「ッ!!?」


 宿敵は暗殺美を見て硬直した。


「な、何さ?状況的に一応仲間さ、ガンくれてんじゃないのさボケが!」

「美しい…」

「まったくこれだから勇者の連れは…って、ハァ!?なな何言ってるさ!?」


「…下がっていてくれ暗殺美君とやら。僕は、誰にも負けない!」


 命懸けのアピールが始まる。




 暗殺美に一目惚れしたっぽい宿敵は、向いてないにも関わらず風神と黒猫を一人で相手にするという暴挙に出た。

 その結果どうなるかは、考えるまでもなく明白だった。


「ハァ、ハァ、ハァ…!マズい、ダメージを受けすぎた…!」

「なに無理してるさアンタ!?いいから片方こっちに任せるさボケが!」

「ハッ!いやいや、全然平気だよ!むしろ二人くらいいないと物足りブホッ!」

「あの無敵の『好敵手』に、こんな弱点があったとはのぉ。もはや限界だな。」

「フッ、限界?まだ寝ぼけているのかな古き神よ?敵の力量も読み取れぬとは。」

「敵は風神だけじゃないぞ小僧!打ち砕け『鋼鉄パンチ』!」

「こ、『コンソメパンチ』!」

「食らえ『魔道風』!」

「ま、『麻婆豆腐』ー!」


 宿敵の限界は近い。



「ゼェ、ゼェ、ぐっ、痛い…あ、いや痛くない!むしろ気持ちいいから大丈夫!」

「むしろ大丈夫じゃないよ!それは強がりを通り越してただの変態だよ!?」


 なんとか暗殺美に良い所を見せたい宿敵だったが、もう限界をとうに超えておりおかしなキャラになりかけていた。


「どう見てもヤバそうな感じさ。ホントに放っといていいのかさ?」

「あ…ああ、ここは僕に任せて…休んでいてくれ。キミは気にしないでいい。」

「わかったさ。まったくもって相手にしないさ。」

「いや、その言い方はちょっと…」

「さぁフィナーレだ!女にうつつを抜かしている暇など無いことを知るがいい!」


 宿敵の状態から今を勝機と見た黒猫は、トドメを刺すべく右手を振り上げた。


「わっ、マズい…!」

「食らえ、必殺…」



「一刀両断剣!!」



 背後からの攻撃。

 黒猫の両足を斬り落とした。


「ぬ゛ぁっ…!き、貴様いつの間に…!?」

「残念だなぁノラ猫、今からは…俺のターンだ!」


 勇者が目を覚ました。

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