第58話
ロボトミ買いました
差し当たって愛ちゃんをお迎えしなければ……
管理で地獄を見るけれど
「思ったよりも仰々しいものが来たね……」
レモンの進化からいくらか経って、拠点に戻ってきた私は悪臭の実や濃縮誘惑香液の作業のための設備……隔離実験器を買って設置した。
隔離実験器はガラスのような透明な箱状。手を入れる穴とゴム手袋のような手袋がくっついている。これ細菌とかウイルスとかの実験で使わられてる奴に似てる。バイ◯ハザードの実験室とかに置いてありそう。
(中にものを入れるところは鍵付き……ついでにパッキンまであるね)
箱を壊したり、うっかり開けたりしなければ被害は出ないかな……箱の方もガラスっぽいけどそれよりも頑丈な素材のやつだからね。
「そしてこれと一緒に使う吸引機……これが無いと実験後に開けられないからね」
箱の中の空気を吸い無害化できる装置。隔離実験器よりもこっちにお金を使ったね……隔離実験器単体なら1万Gくらいなのにこっちは30万Gもしたからね。
「蓄電器も1個増やしたし……また貯金がすっからかんだよ」
可能なら融資受けたいなー……このゲームに銀行ってあるのかな?慢性的な金欠に私はそんな妄想を考え始めた。これからやる実験で元取らないと。
(とりあえず濃縮誘惑香液からやろう……こっちは対策が一応できるし被害も少ないからね)
私はストレージからピンクの液体が入った容器を隔離実験器へ入れる。実験に使う道具や素材も入れて蓋をし鍵をかけて……これで大丈夫なはず。数が少ないから頑張ってやらないと……何せ。
(メロンがこれに興味を示したからね……)
帰ってきて売るものと薬の素材とで整理してたら、メロンがノソノソとやってきたんだよね。そして濃縮誘惑香液に興味を示した……元々餌で与えていた植物の中で誘燗水花をよく食べてたけど。もしかしたらメロンは魅了や誘惑系の進化先になりそう。
(空き部屋の1つがメロンのご飯部屋になったけどね……)
本当はあんな危険物を餌で与えたくなかったんだけどね……あれ単体だと常温で蒸発するからプルーンに頼んで冷やしながら与えないといけない。プルーンの仕事が増えちゃったから後で労っておかないと。
「進化後に使いやすい魅了系素材を作ってくれればいいけどね……まぁ、とりあえず実験しよ」
今までの素材以上に危険物なため私は覚悟しながら手袋に手を通し濃縮誘惑香液の容器を開けた。ピンクの気体が容器から少しずつ漏れ出す。プルーンに冷やして貰えばこうはならないんだろうけど……
「箱の外じゃ効果が薄いし……箱の中に入ってもらうと実験しにくくなる」
高い隔離実験器だと箱内の温度や湿度を調整できて蒸発したりはしないんだけど30万Gもするんだよね……お金が貯まったら買おう。今は吸引機に頼るしかない。
シュゥゥゥ……
漏れ出した気体は繋げた吸引機に吸い込まれていく。おかげで視界を妨げられたりはしない……それじゃあ誘惑対策の薬を作ろう。
「ライムの治療液にどれくらいの混ぜれば良いのかな?濃縮率が分からない……」
何倍か分からないから手探りなんだよね……確実に言えるのは1:1の割合で混ぜたら確実にゴミになる。
(まずはどれだけ混ざれば良いのか……一滴ずつ増やして試していこう)
今回の実験の目的は適量を見つけること。私は丸薬1個分の治療液に濃縮誘惑香液を混ぜて加熱。丸薬にして最適な量を検証していった。
とりあえず1〜10滴で一旦やめ、濃縮誘惑香液の容器に蓋をし気体を全部吸引。問題無く蓋を開けられるようになってから丸薬をチェックした。
「1粒分に5滴が最適か……馬鹿みたいに濃いなこれ」
他の素材の5分の1くらいの量。単純に5倍濃縮ってことなのかな……とりあえず失敗作は危ないから廃棄。メモを取ってから実験を再開した。ここからは使いやすい完成品にしていく……
「てかこれ……蒸発しちゃうから大量生産するの難しくない?鍋に放り込めないし」
何かと混ぜてからなら蒸発しにくいけど……今使ってる鍋だと加熱してる時に発生する蒸気でテロみたいになる。
「確か蓋つきの調薬鍋があったはず……自動で混ぜる機能付きの」
凄い高くて見送ったんだけど……まさか必要になるとは。実験をすればするほど必要な設備が増えていくんですけど?一体いつになったら貯金ができるようになるのか……頑張ってモンスター倒してお金稼がないと。
(てかそろそろ大森林の素材切れるんだよね……明日は採取しに行かないと)
ファストロンか……手早く移動しよ。あそこまだ人多いだろうし。そんなことを考えつつも私は手を動かしていく。慣れない環境での実験だからめっちゃくちゃ時間がかかったが……完成品と呼べるものが出来上がった。
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誘惑消し丸薬
効果
誘惑、魅了を回復することができる
飲んでから10分間は誘惑、魅了にかからなくなる
1時間で6粒以上飲むと、周囲のモンスターを引き寄せ凶暴化させる
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上位の状態異常を治せる薬はその下位の状態異常も治せるんだね。それを考えると値段は少し上げるか……じゃないと魅了対策の薬の価値が減る。
「他のプレイヤーが調薬でイキイキしてるのに、それを嘲笑うような行為はアウトだからね」
というかこれ量産するの物凄く手間だし……それを加味すると高く売らないと割に合わない。正直な話をすると大量生産する余裕が無い……
「そもそも誘惑耐性って現状はアルーリング・マンティスだけだからね……」
買う人の幅がちょっと狭いんだよね……魅了消し丸薬でも対策できるしさ。今の資金稼ぎには向かないかも。
「今シンフォニアに来ているプレイヤーたちの懐具合ってそんなに豊かじゃないだろうしね」
色々装備や物資、私みたいに拠点を手に入れたプレイヤーは懐が寂しいはず。アホみたいに高い薬よりはその分安い薬を買い込んだ方が金がかからない……パートナーを含めたフルメンバー分の誘惑消し丸薬なんていくらかかるんだか。
「スライムオンリーだからそういう悩みは無いんだけどね……ガンガン攻めに行きにくいだけで」
とりま誘惑消し丸薬はある程度流すか……お金に余裕がある人が買うでしょ。というわけで次の実験……なんだけど。
「悪臭の実……どうやって使おう?」
これは中に悪臭のガスが溜まっていて、加工するには凍らせてガスを気体じゃなくしてからじゃないと面倒臭い。今回は先にプルーンに凍らせてもらってある。
(ちょっと時間かけすぎて少し溶けてるけどね……気化してはないはず)
それはさておいて本当に何に使おう?メジャーな使い方としては悪臭対策。悪臭は状態異常の中でも最悪の部類。食べたり飲んだりするアイテムの使用不可という効果と鼻が曲がる臭い……獣系のパートナーが受けようものなら一瞬で戦意喪失。それどころかトラウマになりかねない。
「だから悪臭消し丸薬を作ろうかと思ったけど……丸薬自体が臭そうなんだよね」
加熱とかでどうにかなってくれればいいんだけど……私はそんなことを思いつつ悪臭の実を隔離実験器内に入れ、ナイフでパカっと割りシャーベット状の黄色の物体を容器に。そして蓋をし吸引機で悪臭をケアしてから中身を調べた。
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悪臭の実のガス(凍結)
悪臭の実に溜められていたガスが凍ったもの
強烈な悪臭の元であるため取り扱い注意
服に付けば簡単に取れず、加熱しても臭いは消えない。獣系のモンスターは近づこうとすらしないだろう
液体に混ぜると揮発性が上昇するため、高級な香水の素材に使われる貴重な素材になる
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なんで第2フィールドの素材が手持ちの素材の中でもトップクラスの危険物なんですかね?何も考えずに丸薬にしなくて良かった……
「悪臭対策の素材にするのは難しいね……てか香水か」
これ作れるんじゃね?濃縮誘惑香液と一緒に薄める用の液体に混ぜ込めば作れそう……興味は無いけど面白そうだし作ってみるか。
「治療液だと粘り気があるし……浄水でやってみよ」
そんなこんなで始まった香水作り。普段の丸薬作りとは違うことをしてるからか結構楽しい。配合量をミスして悪臭の劇物や誘惑の劇物ができたりしたけど……なんとか香水が完成した。
「これ作ったは良いけど。私、香水苦手なんだよね……」
シーブ◯ーズとかも苦手だし。ちょっと嗅覚が敏感で……悪臭の実に注意してたのはそういう部分があったりした。
「プレイヤーに売れるかな…………いや待てよ。別にプレイヤーに売らなくていいんじゃない?」
この世界の住民……特に貴族とかに向けて売れば売れそう。テイマーギルドを挟んでね。
(貴族とかお金持ってるだろうし……悪くないんじゃない?)
薬売るよりは短期で稼げるかも。それに貴族と繋がりを作れれば美味しい……ちょっとやってみるか。
「この1番最初のやつはクティアさんにプレゼントしよう。いつもお世話になってるし」
聖水過剰生産とか、変人どもを神殿に呼び寄せたりしちゃったりして迷惑かけたからね……あれ?ほぼ迷惑しかかけてないな私。
(ス、スライムの神殿に貢献しなきゃ……)
香水作りで神官としてヤバいことに気づく私であった……
次は掲示板回
正直ノリと勢いで書けるから早いかも……
戦闘がある回は書き直しが多いんじゃ……




