第25話
第3の町サディナス。元々は鉱夫たちが休む小さな村だったが、鍛治士などが集まって町になった。
その由来からかこの町では金属の加工が盛んであり、町の近くには鉱石を集められるダンジョンがある。つまり何が言いたいかというと……
「私には旨味が無い……次の町に行くか、胞子の山林に潜らないと」
セカンディアと比べるとゴツい広場の片隅。ベンチの上に座りながら私は今後の予定を考えていた。ライムたちは……ライム、レモン、アセロラが鏡餅のように積み重なっていて、プルーンが何してんだ?みたいな様子を見せてた。
(セカンディアが調薬に手厚かったなら、ここは鍛治に手厚いんだよね……)
でも素材0はマジで辛い。ダンジョンもモンスターの素材で薬作れるかな?って思ったけど、出てくるモンスターが岩や鉱石100%のモンスター。薬に使える部分が手に入りそうもない。
「ライムたちが装備を持てるモンスターなら行く価値が生まれるんだけどね……」
んー……本当にどうしよう?ダンジョンも興味はあるんだけど、lvを上げるために行くのは面白く無い。それに結構大きいダンジョンだから攻略にも時間かかる……一度入ったら攻略し切るまで離れにくくなる。
「そうなると王都に向かうフィールドを進もうかな……ちょっとは薬に使える素材が手に入りそうだし」
とりあえずテイマーギルドで下調べしてこよう。次のフィールドも少し厄介そうだからね……何せ。
「モンスターよりも、不意の事故で死にやすい場所らしいからね……」
◇
乾風の山道。サディナスから王都へ行くための道であり、胞子の森とは正反対な乾き切った場所。植物は少なく、生えていてもサボテンなどの乾燥に強い植物ばかり。斜面は急で山肌を振り子のように下っていかないといけない……真っ直ぐ突っ切ろうとしたら、山肌をゴロゴロと転がりボロ雑巾のようになって死ぬ。
そして1番このフィールドで恐ろしいのは事故率。時折発生する強風で足を踏み外し。戦闘の余波で発生した落石。環境がこっちを殺そうとしてくる。
(悦楽の沼地とは違う意味で面倒なフィールドだよね……)
モンスターに関しては基本鳥系。飛んで襲ってくるからと上を警戒していると足場が悪く転落。逆に足元を気にしていると、上からモンスターが向かってくるのに気づきにくい。いい性格してるよ……
「でも景色は良いんだよね……あの白い街壁が王都かな?」
障害物が無いからか、次の目的地である王都らしき街が確認できた。王都との間には川があって、大きい橋がかかってるね……あの川もフィールドの一部じゃないよね?
「あそこに行くまで何日かかるかな……」
さて、それじゃあ攻略開始していきますか……あんまり下ると登るの面倒だね。
「みんな転がっていかないでね。丸いから転がったら止まれないかもしれないし」
特にレモンとアセロラ。戦闘中以外も割とよく動くからね……コロコロ転がって行きそうで怖い。
「ピュィィィ!」
「早速モンスターが来たね……あれはスカイファルコンだっけ?」
笛のような鳴き声に上を見上げると、空色のハヤブサが旋回していた。あれは昼間の山道の雑魚敵筆頭……体色のせいで見上げていても見つけにくい特徴を持っている。
「ピュィィィ!」
スカイファルコンは再び鳴き声をあげると翼を畳み、こっちに向かってダイブしてきた。そして鋭い爪がある足を……レモンに向けていた。
「レモン」
「ビリ!」
私が声をかけると同時に、スカイファルコンに掴まれかけたレモンが身体から電撃を放った。スカイファルコンは感電し地面へ落ちる。
「ピュ、ピュィィィ……」
「あっ、死んだ」
スカイファルコンは追撃をする前に光へ変わった。ミストワスプの時にも思ったけど、飛行できるモンスターは打たれ弱い?大体一撃で死ぬんだよね。
「まぁ、飛行できてタフとか普通にキツいか……数が多いやつは特に」
上を見上げると他のスカイファルコンの姿がいくつも見える。目を凝らさないと本当に分かりにくいね……中々に厄介。
(夜中には出現しないみたいだけど……代わりにナイトオウルという黒色の梟が出てくるんだよね)
夜に黒いモンスターを探すとか難易度がルナティック……まだ雲とかで見つけやすいスカイファルコンの方が優しい。
「ピュィィィ!」
「ピュィィィ!」
「前言撤回。やっぱ優しくないや……」
普通に空から襲われるのは面倒……というかウザい。遠距離攻撃持ちも飛行能力持ちもいないし……
(狙われるのがレモンとアセロラなのが救いだね……)
色のせいかレモンとアセロラ以外はあんまり狙われない。おかげで捕まる寸前に放電や発火して迎撃している……時々掴まれてから反撃してるけど。
「コケェェ!」
「ようやく2種類目……次はニワトリか」
ニワトリはニワトリでもシャモの方。スカイファルコンに苦悩している私たちの前に現れたのは、勇ましさを感じる茶色のニワトリ……名前はバトルチキン。
好戦的で相手に怯むことなく突撃し、足にある鋭く硬い蹴爪と嘴で襲ってくる。あとサディナスで聞いた話だとこいつの肉は凄く美味しいらしい。
「コケェェ!」
バトルチキンは翼をバサバサと動かすと、一気に駆け出しアセロラへ踊りかかった。アセロラは身体を燃やしバトルチキンへ突撃していく。
「コケェェ!」
「メラ!メラララ!」
炎を纏うアセロラに対し、バトルチキンは怯むことなく蹴りを入れた。アセロラは蹴り落とされて地面に落ちたが、すぐさま反撃の炎上タックルをかました。
「コケェェ!」
アセロラの攻撃を受けバトルチキンは真っ赤に燃え上がった。普通なら怯んだり、火を消そうと行動するはずだが……バトルチキンは燃え上がったままアセロラへ再び蹴りをかました。
「メララ……」
「ライム。急いで治療!レモンはアセロラのカバー!」
「メキュ!」
「ビリリ!」
二度の蹴りを食らいアセロラがほぼ瀕死に。大急ぎで治療とカバーに入る。しかしカバーは必要無かった。
「コケェェ……」
アセロラを蹴り飛ばしたバトルチキンはやり遂げた感を出して光へ変わっていった。あいつ……死ぬ前に一矢報いようとしたのか。戦士過ぎるでしょ。
「メキュ!」
「メララ」
私がバトルチキンの生き様に慄いている間に、ライムがアセロラの治療を終えた。流石うちのヒーラー、相変わらず手際が良い。
「次からバトルチキンは囲んでボコろう……」
ニワトリじゃなくてヒクイドリと思うことにしよう……あいつにはそれだけの気迫があった。私はちょっとニワトリに苦手意識ができそうになった。




