第160話
「…………!」
両腕に槍を持ったヘルゲート・ガーディアンが動き始める。黒く変色した地面を踏み砕き真っ直ぐ向かってくる。そして迎え討とうとしたパートナーたちへ2本の槍が振られた。
「ガァ……!」
「ニャ……!」
禍々しい呪いを纏った槍がパートナーたちの命を刈り取っていく。しかしこちらも負けじと攻撃を放っていく。
「撃て撃てー!」
「これ以上進ませるなー!」
ヘルゲート・ガーディアンに様々な属性の攻撃が叩き込まれる。第二形態になったこと行動パターンが変わったのか、ヘルゲート・ガーディアンは回避なんてせずにひたすら槍を振い続ける。
「…………!」
「あれ?なんかさっきよりも効いてる感じだね……」
攻撃を受けたヘルゲート・ガーディアンの反応が大きい。よく見るとヘルゲート・ガーディアンの身体に赤いヒビが入っていた。攻撃力が上がる代わりに防御力が下がってるのかな?
「…………!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「うげっ!?当たってないのに呪いの余波でめっちゃ弱体化貰ったんだが……」
「無理はするな!近接は遠距離持ちに近づけさせないようにすれば良い……ヤバくなったら一旦引け!」
他のプレイヤーたちも攻撃の効きが良くなったから攻めに転じていく。遠距離攻撃が無いパートナーたちが命懸けでヘルゲート・ガーディアンの足止め。その命を無駄にしないよう遠距離持ちのパートナーたちが攻撃を続けていく。
「MP回復薬に各種属性強化薬……デメリット無しのを出してたけど、強めの奴も出しとくか」
デメリットあるけど、そこは種族とか見つつ適切に処方しよ……実験データは百鬼夜行やナギ、その他攻略勢のおかげで集まってるしね。
「この子にはこれ……そっちの子にはこれとこれ……あ、2本まとめて飲ませると効果が下がるから、1本目が切れる寸前で飲ませて」
私はテキパキと薬を処方していく。組み合わせや飲み合わせの情報は全部頭に入ってる……忘れててもメモに残してあるからね。
(これであいつを早く倒せれば良いけど……)
この出費は割と痛いからね。特に今配ってるのは割とコスパ悪めだし……コスト高い素材多めだからね。私はゴリゴリと減っていく在庫にゲンナリしそうになった……その時。
「「グォォォォ!!!」」
「きゃぁぁぁ!?」
「な、なんだ!?」
突然、ドラゴンの咆哮と悲鳴や困惑の声が聞こえてきた。声の方を見ると治療をしていたドラゴンが数匹錯乱しているかのように暴れていた……あれはちょっと不味い。
「ルベリー。拘束」
「ノロォ!」
私はルベリーに頼んでドラゴンを拘束してもらった。本来、味方への攻撃は無意味になるけれど一部のスキルは干渉できる。今回なら呪いの鎖で呪いは与えられないけど動きは制限することはできる。幸いにもここは呪いが強化されるのか6本もの鎖で封じ込めることに成功した。
「一体何があったんですか?」
「スライムマスター。実は薬を飲んだドラゴンたちが暴れ始めて……」
薬?そんな暴れるようなデメリットを発生させる薬なんて出してないはず……とりあえずこのドラゴンのプレイヤーに話を聞こう。
「この子たちに何を飲ませたんですか?」
「えっと、うちの神殿のお偉いさんから貰った薬で……いざと言うときに飲ませろって言われてたんで飲ませたんですが」
ドラゴンの神殿のお偉いさんから?あの元王族さんかな……その人は飲ませた薬はもう持って無かったけど、他のドラゴンの神殿所属のプレイヤーさんも渡されていたから。その薬を見せてもらった。
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竜種強化薬(狂化)
ドラゴン系パートナーにのみ有効
服用後、10分間全ての能力値を5倍にする
(ただし、強力な成分がいくつも使われているため。飲ませたドラゴンには精神的な負荷がかかり錯乱や暴走を引き起こす危険性を秘めている)
(作成者:カエラ・リオ・シンフォニア)
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何……このゴミ。薬を作る立場からして吐き気がするような薬。しかもムカつくのが……これ()内の文章が隠蔽されてた。読めない人からすれば何のデメリットも無い強化薬にしか見えない。
「私は称号のおかげで読めたけど……完全に確信犯な薬でしょ」
これがドラゴンの神殿を貶めたい誰かの策ならまだ良いよ……でもこれ作成者の名前。シンフォニアって国名がついてるってことは王族だよね。そしてドラゴンの神殿……犯人は明確。
(自分の神殿が活躍するなら神官のパートナーがどうなろうと関係無いってこと……ふざけるな!)
神官。何より薬を作る人間としてこんな代物を何も知らない人に使わせるなんて言語道断。とりあえずこのドラゴンたちを治そう。
「「グォォォォ!!」」
私は拘束されながらも方向を上げてるドラゴンたちの口へ丸薬を放り込んだ。そしてゴクンと飲み込まれて一瞬の間を置き……
「「グギァァァァ!!?」」
薬を飲み込んだドラゴンたちがゴブリンみたいな悲鳴をあげた。そして白目を剥いて気絶する……おぅ、効果覿面。
「ス、スライムマスター。あんた何飲ませたんだ?」
「え?気付け薬だけど。どんなパニック状態でも治せるね……まぁ、その分ゲキマズだけど」
なんせ薬の成分というよりは味の衝撃で正気を取り戻させる薬。あまりの味にテスターになった攻略勢から『これだけは売らないでくれ』と涙目で懇願されるくらいだからね……まぁ、原型を作ったのがライムとルベリーだから味は仕方ない。
「とりあえずこの薬と呼びたくないゴミは預かりますね……これ作った人、後でぶん殴ろう」
「「「ヒェ……」」」
ん?なんか小さな悲鳴が聞こえた気がする。とりあえずドラゴンたちは対処完了したし、ヘルゲート・ガーディアン戦に戻ろう。
「と言っても戦闘面は本当にやることないんだよね……」
「…………!」
相も変わらず遠距離攻撃をドカドカと。足止めのパートナーたちも慣れてきたのか被弾は兎も角、直撃即死は減ってきていた。即死しなければこっちで治せるからね。どんなに死にかけでもHPが残ってるなら問題無し、治して前線に行ってらしゃいができる。
(まぁ、逝ってらっしゃいかもしれないけど……治す側が言っちゃダメだね)
というわけで私はひたすら回復に努める。レモンとアセロラが参戦できなくて不満気だけど……君らの足の遅さだと巻き込まれたときに怖いから勘弁して。
「それにしても第2形態の割にはあんまり派手じゃないよね?」
ただ槍が2本になって暴れてるだけ。それだけでも脅威ではあるけどさ……レイドイベントのボスにしては派手じゃない気がする。
そんな心配はあったけれどヘルゲート・ガーディアンとの戦いは順調に進んでいった。それを証明するかのように全身のヒビはどんどん全身へと広がっていく。杞憂だったかな……
「いけー!このまま攻め切れー!」
「近接部隊。持ち堪えてください」
勝ちの目が見えてきて攻撃は苛烈になる。それと比例するようにヒビも広がっていき……
パキャ……
卵が割れるような音がした。それは後方にいた私……いや、他のプレイヤーたちにも聞こえていた。そして突然、視界から赤く染まったかと思うと気がつけば宙を舞っていた。
「…………はぁ?」
突然の異常事態に私は惚けることしかできなかった。地面を転がった痛みや衝撃でようやく頭が回ってきた。今のはヘルゲート・ガーディアンから、全身のヒビから赤い光が迸ったかと思うと吹き飛ばされた。
「うっ……痛ったぁ……」
「何が起きて……」
周囲のプレイヤーたちも何が起きたか分かっていない様子。そんな中ヘルゲート・ガーディアンの方に目を向けると土煙の中動かない影が目に入った。その影には光る赤いヒビが明滅し……その明滅はどんどん速くなる。周囲の空気は渦巻き土煙は赤黒い煙へと変わる。煙は遠目に見ると卵のように見え、その感覚は間違って居なかった。
ピシ!パキ!バキバキ!
煙の中から音が響く。その音はどんなに離れていても聞こえ……肌がゾワッと鳥肌が立った。それはこれから起きることを頭よりも身体が……本能が先に理解したかのよう。
パキャン!!
「ギャァァァス!!!」
渦巻く卵は遂に孵化を遂げた。一際甲高い割れる音ともにヘルゲート・ガーディアン……いやヘルゲート・ガーディアンだったものが現れる。
その姿は上半身は然程変わらない。腕と槍が融合し円錐状のランスのような形状になり、鎧のあちこちが弾け溶け固まったような状態で特に顔の下半分が完全に無くなっただけ。しかし下半身は大きく変わりヒレの付いた鉤爪の4脚、黒い鱗の生えた胴体、グルグルと渦を巻く尻尾……まるでドラゴンのようになっていた。
「半人半馬から半人半竜……まるで生まれ変わったようだね」
「ギャァァァス!!」
さっきの演出も合わさり新たな生物になったヘルゲート・ガーディアン。寡黙だった口を開き産声を上げるそれとの戦闘が始まろうとしていた。
ヘルゲート・ガーディアン
廃棄神獣。半人半馬という人でも獣でもない姿故に捨てられし哀れな獣。
神に愛されなかった妖獣は恨み辛みをその身に溜め込み機を待つ……成獣へ至り捨てたものへ復讐するために




