第136話
「お、あったあった……ここから入れそうだね」
プレイヤーとクラゲ人間たちとの戦場から少し離れて、私は城の側面にある通路を見つけた。この大きさの城、入るところはいくつもあるとは思ってたけど……やっぱりあったね。
私が見つけたのは恐らく排水用の水道。金属製の柵が付けられていたけれど、長く海中に沈んでいたからか錆びてボロボロになり壊れていた。
「今のところ敵の姿は無し……よし、突入」
私はライムたちと水道へと入った。かなり潮の匂いが強い……地下街の悪臭に比べればマシだけど鼻が痛い。
「と、何か居るね」
前方からヒタヒタと足音が聞こえてきた。戦闘体勢を整えていると現れたのはクラゲ人間3体。クラゲ人間は私たちを見つけると一気に敵意を剥き出した。
「「「ジュリリリ!!!」」」
クラゲ人間は触手の先をこちらに向け、身体の表面に光の模様を点滅させて向かってくる。なんか深海のクラゲみたいなことしてくるね……
「色々試してみるか……レモン」
「ビリリリ!」
レモンはクラゲ人間たちに向けて放電を放つ。クラゲ人間たちはバチバチ!と電撃に飲み込まれ倒れて消えていった。雷は弱点っぽいね……クラゲって水分の塊だからかな?
「そうなるとスチンとアセロラは不利かな……」
まぁ、試してみてから判断するとしよう。その後も水道を進んでいるとクラゲ人間が出てくるからスチン、アセロラ、プルーンにも攻撃させた。
結果としては水は水圧で軽く傷が付くくらいで今一つ。炎は効きは悪いけど、乾いてダメージが入るから不利では無い。氷は意外にも効果的で、ガチガチに凍らせ粉々にできる。
「意外と弱……というか私たちと相性悪いのか」
こいつらは遠距離攻撃を持ってないからか、兎に角こっちへ近づこうとしてくる。おかげで放電とか撃ってれば問題無いんだよね。
強いて強い点を挙げるなら数の多さだけど……広い場所じゃないなら怖くない。
「さっきの戦場は大変だろうね……」
戦争みたいに敵味方入り混じった戦闘……馬鹿正直に突撃していったプレイヤーが多かったのもあったけど、今頃面倒なことになってそうだね。クラゲだと毒ありそうだし。
「プワァ……」
「ん?なんか新しい敵が出てきた」
新たに現れたのはマスコットみたいな見た目のクラゲ。クラゲ人間に比べると弱く無害そうな見た目……そんなクラゲは私たちに気づくと身体を赤く点滅させながら向かってきた。
「レモン!」
「ビリリ!」
嫌な予感がした私はレモンを呼んだ。レモンは瞬時に放電をクラゲに浴びせ、クラゲは爆発した。その勢いはまるで爆弾……放電で爆発したにしてはかなり大きい。
「あの点滅とこの爆発……やっぱり自爆するタイプかぁ」
あの威力、防御力が低いパートナーなら戦闘不能に追い込まれかねない。防御力が高くても複数に囲まれ爆発されれば危うい。
「通路のおかげで不意打ちされないとはいえ……見た目以上の脅威だね」
上の戦場ではこいつらも湧いてるのかな?だとしたら大変だろうね……乱戦状態なら他人が迎撃したやつの爆発に巻き込まれるプレイヤーも居るだろうからね。
(この最終戦……思っていた以上に厳しいかも)
それにこれ……多分だけど今出てきてるのは普通の町人が変異したクラゲ。恐らく今後は兵士に騎士といった戦闘に慣れた人間が変異したクラゲたちが出てくる可能性がある……いうか城の中は殆どそいつらな気がする。
「これ……後方支援してた方が楽だった?」
待ち受けているであろう多数の強敵に、私は若干の面倒さを感じ始めた。ただしもう後戻りはできない……何故なら。
「ビリリリ!」
「メラララ!」
うちの戦闘狂のスイッチ入っちゃってるからね……これは行けるところまで行かないと。
「まぁ、今回は前々回と違ってラスボス参加しないだろうし……ちょっと強いぐらいなら大丈夫か」
まずはここを抜けないと……私はクラゲ人間と自爆クラゲを倒しながら水道の先を目指していった。
◇
ゴ……ゴゴゴ……ガコン!
「ふぅ、やっと水道から出られたね」
錆びついてて動きの悪い扉を動かし、なんとか城へと侵入した。水道は迷路って言えるほど入り組んでなかったけど……中々出れなくて焦ったね。
「それでここは……うわぁ……」
何処に出てきたのかを確認してみると、目に入るのは鉄の格子。また鉄の枷や拷問器具のようなものが目に入ってくる。どうもここは牢屋のようだね……
(気分的に良くないところに出てきちゃったね……)
窓が無いから地下牢っぽいし……不吉な予感しかしない。さっさと出よう。私はライムたちを連れて地下牢を出ようとした。すると牢屋からズルズルという音がし始める。
「ジュリリ……」
「ジュ、ジュリリ……」
牢屋から現れたのはクラゲ人間。しかしその見た目は水道で見たものとは違っていて、腕には鉄の枷。足には錘のついた鎖が付けられている。囚人って感じの見た目だね……
「状態が悪いのか……所々、緑色に変色しているね」
ちょっとゾンビっぽい。そんなクラゲゾンビたちはユラユラ身体を揺らしながら近づいてくる。その歩みは錘のせいか遅く、見た目の割に強さを感じない。
「アセロラ。燃やしちゃって」
「メララ!」
私はアセロラに焼却命令を出す。アセロラはクラゲゾンビたちに向けて火炎放射を放った。
「「ジュリ、リリ……」」
クラゲゾンビはかなりタフで普通のクラゲ人間に比べて炎に耐えている。しかしアセロラが火力を上げると一気に乾き灰へと変わった。
「ふむふむ……クラゲ人間の強化タイプかと思ってけど、逆に弱くなってる?」
動きが遅い相手は怖くない。恐らく毒や麻痺などの肉体系状態異常への耐性が高い感じだったのかな?だけど状態異常は今回のメンバーだと感電、炎上、凍結の3種類。クラゲ人間の耐性的にクラゲゾンビも大差無いでしょ。
「自爆クラゲのゾンビだと話し変わりそうだけどね……あれの処理が遅れるのかなり致命的だし」
出てこないで欲しいな……そんなことを思いながら私は地下牢の出口を探す。時折出てくるクラゲゾンビたちは難なく倒して進んでいる、と出口らしき扉を見つけた。そしてそれを守る門番も。
「ジュリリリリ!」
「「「ジュリ、リリ……」」」
門番は大柄なクラゲ人間。軽装な金属鎧を身に付け、手には棘の付いた刺股のような武器を持っている。牢番……なんか獄卒にも見えるな。鬼じゃなくてクラゲだけど。
「ジュリリリリ!」
牢番クラゲはガン!ガン!と武器を床に打ち付ける。音に反応してクラゲゾンビたちが牢から出てきてこっちに向かってきた。
どうやらあの牢番クラゲはクラゲゾンビを呼ぶ能力があるみたい。地味に厄介だね……
「アセロラはクラゲゾンビを処理、プルーンはその援護。あいつはレモンがやって」
範囲攻撃に優れたアセロラと範囲デバフができるプルーンに雑魚処理を任せ、攻撃速度と火力のバランスが良いレモンにボスを相手させる。金属製の防具なら雷の方が通りが良さそうだからね。
「メラララ!」
「ヒヤァ……」
「ビリリリ!」
アセロラが近寄ってくるクラゲゾンビを焼き、範囲外のクラゲゾンビはプルーンが凍結で拘束。レモンの方は収束させた雷撃を牢番クラゲに放った。
「ジュリリ!!?」
牢番クラゲはバチバチ!と感電して動きが鈍くなる。それでも距離があって少し拡散してしまい効きが悪かったのか、牢番クラゲはこっちに向かってきて刺股を勢いよくレモンへ振り払おうとした。
しかし刺股とレモンの間に水の膜ができて刺股を弾き、牢番クラゲは体勢を崩した。
「ドロォ……」
「スチン。ナイスタイミング」
私がスチンを誉めているとレモンは雷撃の剣を作り牢番クラゲへ振り下ろした。牢番クラゲはその一撃を受け、手から武器を落として膝を着く。そのまま地面へと倒れ込むとグズグズに溶けながら消えていった。
クラゲゾンビたちも処理完了したので、中ボス戦は無事に終了した。
「所詮は中ボス、レモンの相手じゃなかったね……」
最初の雷撃で動き止められなかったのは予想外だったけどね。恐らくあの金属鎧に雷属性に対する耐性があったんだろうね。金属防具は結構そういう効果を付けられていることが多いらしいし。中ボスクラスの装備なら付けられてても違和感無い。
(やっぱり難易度高めっぽい……)
こっちは防具と武器無し。基礎スペックが高くても武器や防具で補完されると厳しい……武器や防具持ってる相手は加減無しの方が良いかもね。普段は消耗抑えるから最低限の威力でやらせてるけど。
今後の戦闘の方針を考えながらも私は牢番クラゲが守っていた扉を開ける。扉の先には登り階段があったから、なんとか外には出れそうだね。
「今度は何処に繋がってるかな?」
変なところに繋がっていないことを祈りながら私たちは階段を登っていった。




