第125話
「♪〜♪♪〜」
暗い研究所を綺麗な歌声が響いていく。歌声に惹かれ寄って来るモンスターたちは赤、青、黄……色取り取りの弾幕の雨が撃ち抜く。さながらコンサートの演出みたいだね。観客の敵モンスターは撃ち抜れて死んでいってるけど。
「仕事無いですね。うちの子、進化してちょっと燃費悪くなったので助かりますけど」
「メキュ」
「そうですね。まぁ、私の子たちは狭い通路だと弱いので助かります」
「ホー」
私とデルタさんはその後ろでキラリさんとパートナーのコンサートを楽しんでいた。リアルアイドルって言ってただけあってキラリさんの歌は上手い。バラードっぽい曲だけど……それでも惹かれる感覚がする。サイリウムでも持っていたら振ってたね。
「キラリさんの戦闘はファンが多いですからね。彼女の戦闘を見てファンになった方も多いですし」
「宣伝にもなってるってことですか」
ちなみにアイドルがゲームしてると厄介ファンが湧きそうなものだけど、有志が作ったキラリファンクラブってクランがそういうのを近づけさせないようにしているらしい……そもそも厄介ファンが少ないらしいけど。
なお、そのファンクラブの人数はかなり多く……クラン人数ランキングがあれば、5本指に入るくらいには多いらしい。ちょっと数にビビるね……
(多分、ゲーム内でファンになった人が多いんだろうなぁ……)
そんなことを思っている間に戦闘が終わった。キラリさんはふぅ……と息継ぎをし、パートナーたちも光弾を撃つのを止めた。圧倒的な戦闘だったね。
「ふぅ……踊らない分こっちの方が楽だね。アイドルじゃなくて歌手になれば良かったかな?」
「アイドルがそれを言ってはダメでは?」
「ふふ、冗談だよ。踊るのも好きだからね」
キラリさんが笑うとクルクルとパートナーの精霊たちが動く。楽しそうだけど……精霊系って感情が無いんじゃ?
「『感情が無いんじゃ?』って思ってる?それは生まれたての精霊の話なんだよね」
生まれたての精霊。要するに一度も進化していない精霊は評価通り感情が無い。だけど信頼を作りながら進化を重ねていくと少しずつ感情が芽生えていき、人の形に近づいていくんだとか。スライムでいうスライムヒューマのルートかな?
「まぁ、結構時間かかるし……私の子たちぐらい感情がある子は見たことないね」
「そうですね。アーカイブの方でも何名かは感情を芽生えさせることができましたが……キラリさんほどではありませんね」
「ほー……そうなんですか」
結構難しいのね……まぁ、感情を0から作るのってかなり難しいだろうからね。むしろ少しでも芽生えさせただけでも凄いような?そんな感じで雑談をしながらもボスのところへ向かっていく。道中の雑魚敵は交代交代で処理をしてどんどん下へ……かつては呪毒の液体で満たされていた場所はバルブが閉められたことで水位が下がり、階段が見えるようになっている。
「メェェバァァ!!」
「ゴ!ゴゴ!」
下に行くと大きくなったアメーバ野郎や珊瑚やその辺の瓦礫を巻き込んだゴーレムが現れるけれど、私たちの敵では無く処理されていく。消耗や治療は私が居る時点で問題無い。大きなダメージもライムが居るしね。
(それにしても……バイオ・スライムたち出てこないね)
会いたかったんだけどね。多分、他のプレイヤーと一緒にいるから出てこないのかな?ボスを倒したら個人的に来るか。そんなことを考えていると前を歩いていたデルタさんが足を止めた。おっ、着いたかな?
私がちょっと横にズレて前を確認してみるとそこにはあちこちからパイプが伸びた大扉。扉の横には無数の呪毒の液体の入ったタンクが並んでいる。扉の近くには数人のプレイヤーが立っていて色々作業している。
「イプシロンさん。お疲れ様です」
「おー、デルタ。お前さんが来たってことはいよいよ攻略するのか?さっさとこんな薄気味悪いところ出たいから、さっさと片付けてくれ……まぁ、今は中にプレイヤー入ってるから無理だけどな」
デルタさんが話しかけたのは黒スーツに青ネクタイ、革靴とゲーム内であんまり見ないような服の男性。会社員の見た目だけど口にはスルメのような乾物を加え、手にはビール瓶のような瓶を持っている。なんだこの人……仕事できる感とできない感が半々なんだけど。
「あ、ココロさんは会うのは初めてですね。彼はイプシロンさん、うちの幹部です。主にボスの情報を担当してますね」
「どうもー、イプシロンです。好きなものは酒とタバコ……あとギャンブルか。この前パチで10万消えたけど」
「最後の最後で台無しでは?」
自己紹介の点数があれば赤点な自己紹介。ただこの人、こんな感じでも有能らしい……悦楽の沼地のスワンプ・メガロドンや旧ノーステルマのヘルゲート・ガーディアン。雷鳴の小砂漠にいる空飛ぶクジラ、ストーム・ホエール等の圧倒的な強さを誇るボスたちの情報も集めているらしい。普通に凄い人だった。
「まー、時間稼いでるだけだがな。ソロで倒すとかめんどくせぇし……おじさんはのんびり茶でも飲んでいたいのさ」
「言っておきますけど、今だに誰も討伐できていないあのボスたちを前に、最低10分も生き残っているのイプシロンさんだけですからね?あと飲むのはお茶じゃなくてお酒でしょう?」
「おー、デルタも言うようになったな。そのまま俺の仕事も持っていってくれ。俺は拠点でゴロゴロしてるからさ」
「嫌です。人柱はあなただけで充分ですから」
何気に今デルタさん鬼畜発言したね。というかデルタさんの額に青筋が……お、怒ってる?
「(えーと、ね。イプシロンさんは実力はあるんだけど、アーカイブで最も不真面目って言われてるの。逆にデルタちゃんの方はアーカイブきっての真面目枠だから……)」
「(致命的に相性が悪いと)」
「(そういうこと。いつものことだから気にしなくていいよ)」
デルタさんとイプシロンさんがバチバチとメンチの切り合っているのを、少し離れたところでキラリさんと眺めていると奥の扉がゴゴゴ……と開き始めた。開いた扉からは黄緑色のモヤが溢れ始める。
「あーあ、中に居たやつは皆やられちまったか。大体10分くらい……まぁ、獣系だらけで挑んだにしては長い方だな」
もう見慣れた光景なのか、イプシロンさんは淡々と感想を口に出す。そしてさっさと行けと言わんばかりに顎を横に動かした。それを見たデルタさんは舌打ちしてイプシロンさんの脛に蹴りを入れた。
「では行きましょうか」
脛を強めに蹴られて悶絶しているイプシロンを無視し、デルタさんはボス部屋に歩いていった。私とキラリさんもその後に続いて中に入った。パーティー全員が入ると扉は音を立てて閉じていった。
ボス部屋のフィールドは至ってシンプル、円形で扉側に半円形に足場が、反対は呪毒の海が広がっている。そして呪毒の海がゴボリ!ゴボゴボゴボ!!と泡立ちザバァ!!と波を立ててボスが姿を現した。
「ギィビィアアァァァ!!!」
不気味な咆哮を上げるのは事前情報通りの怪生物。全体像は腕の長いトカゲ人。頭は爬虫類だけど虫のように目が複数あり魚の鰭が両脇に、体は人間のような感じの肉付きで腕は鋭い獣のような爪が生え揃っている。背中には透明で呪毒が流れた管が伸び、管の先は天井にくっ付きどんどんトカゲに呪毒を流し込んでいる。
(実験の末に誕生した化け物か……)
口からダラダラと呪毒の液体を垂れ流すボスを見ながらそんな感想を思い浮かべた。哀れな実験体……でも倒させてもらうよ。
私たちはパートナーたちに私の薬を飲ませて強化し戦闘体勢を取る。ボスの方も再び咆哮を放ち敵意に満ちた目を向けてくる。
「戦闘開始!」
そしてデルタさんの号令と共に戦いの火蓋が切られた。
ちょっと告知するのが遅いのと、勘の良い読者の人は察してるかも知れませんが
「スライムマスターちゃんのVRMMO」書籍化します
詳しいことは後々出していきたいと思います
お楽しみに
私はこういうの苦手なんじゃ……
ココロ「しっかりしろ。新社会人」




