第109話
「試練の間。ここに来るのは2回目だね……」
「メキュ」
前は場所を教えてもらっただけ……今日は試練に挑むためにやってきた。私はライムと一緒に光属性の試練の扉の前に、そして扉を開けて中に入った。
パタン……ガチャ!
後ろで扉が閉まり鍵がかかる音がした。扉の先は白い石材で作られた通路が伸び、その先に更に扉があった。私たちは通路を進み扉を開けてその先へ進んだ。
「ここが試練の場所?」
「メキュ?」
2つ目の扉の先にあったのは円形の広い空間。あちこちに黒い剣が床に突き刺さっていて、奥には7本の黒い鎖で封じられている大扉が。そして上には大きな砂時計が浮いていて、私の目の前には試練についての説明が書かれた石碑が置かれていた。
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光の試練
①地面に突き刺さっている剣は全て呪われており、引き抜くには人の手でなければならない。
②扉の鎖は剣で断ち切る以外に壊すことはできない。また人が振るうことでしか断ち切ることはできない。
③刺さっている剣は抜かないと浄化できない。
④剣に触れることで砂時計は反転する。
⑤砂時計の砂が全て落ち切る前に鎖を全て断ち切り、扉の先に進めば試練は達成となる。
※この空間では称号、装備、アイテムの効果が制限される
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ふむふむ……要するに剣を抜いて浄化し、その剣で鎖を斬ればいいのね。戦闘系の試練じゃなくて助かったね。
「っと、この剣……思ったよりヤバ」
剣を引き抜こうと持った瞬間、強い脱力感が襲いかかってきた。それと同時に命を吸われるような感覚がし手先が一気に冷たくなる。一旦、離そうと思ったけれど手が離せない。
「メキュ!」
全身の感覚が曖昧になりかけた時、異変を感じたライムが剣からか引き剥がしてくれた。そして《慈愛の祝福》で回復もしてくれる。
「ありがとうライム……」
「メキュ」
へたり込んでいる身体の感覚がじんわりと戻ってくる。試練……想定よりも生温いものじゃなかった。これは生半可な覚悟で挑むものじゃないね。
(何処か心の隅にあった慢心も消えた)
砂時計も反転した。無駄な時間は使えない……私は息を吐き剣を持って力を込めて上へ引っ張る。また身体の感覚と体温がおかしくなり、意識が暗くなりそうになったけれど……剣は無事に地面から引き抜けた。
「メキュ!」
「大丈夫。これの浄化お願いね」
カランと剣を落とし、ペタンと尻餅をつきながら私はライムに視線を合わせる。ライムは心配する様子を見せながらも、指示を聞いて剣を浄化する。
進化して得た《慈悲の祝福》をかけられた剣は汚れが落ちるように黒から白の剣へと変わっていく。私はライムから剣を受け取り扉の鎖まで近づいて叩きつけた。
バキン!!
鎖は一撃で砕け散って消える。それと同時に持っていた剣も粉々になって消滅する……やっぱり1回で壊れるよね。何度も使えるなんて優しい仕様のはずがなかった。
「あと4回……死ぬ気で頑張ろう」
私は新しい剣に手をかけて引き抜く。さっきのダメージが完全に抜けてないからか、さっきよりも意識が暗転しかけた。これ次は回復挟まないとマズい。
「メ、メキュ!!」
フラついた私をライムが受け止めてくれた。視界がまだぼんやりしてる中、口になんか甘い液体を流し込まれると意識が一気に明るくなって活力が湧いてくる。
(《慈愛の祝福》を流し込まれたかな……)
体内に直で。直接飲んだの初めてだけど甘いんだね……子どもの頃に飲んだシロップ薬を思い出す。
「メキュ!メキュメキュ!」
意識がはっきりするとライムに凄い怒られた。『無茶するな!身体を大事にしろ!』って感じかな……ごもっとも過ぎて反論できない。時間制限も別にキツキツでは無いし。
「メキュ!」
「はい、気をつけます」
パートナーに叱られる主人という珍妙な光景を試練の場でやりつつ、お説教中も浄化してくれていた剣を受け取り2本目の鎖を断ち切る。
その後、3本目4本目と剣を抜き、浄化して鎖を断ち切っていった。抜くたびにライムに回復してもらっているが……この剣、抜くたびに他の剣の呪いが強まっていくみたい。
(全快近くまで回復しても……かなり持っていかれるね)
6本目を抜いた時は意識が飛ぶかと思った。更にはライムの浄化にも時間がかかるようになり……私とライムの消耗はかなり大きくなっていた。それでもラスト1本……これを引き抜ければ試練達成。砂時計の砂もかなり落ちてる……早く抜かないと。
「ぐっ……この……」
掴んだだけでガンガン命を吸われるような感覚が襲う……最初の脱力感がちっぽけな感じに思うほどの感覚、しかし私は手放さず後ろに倒れ込むようにして剣を引き抜く。
バタ!!
「メキュ!!?」
剣を引き抜き私は地面に倒れた。視界は暗く耳も若干聞こえ辛い。正直、結構マズい状態。でも……
「ライム……今は回復しなくていい。剣の浄化して」
「メキュ……」
私はライムにそう指示を出す。ライムの能力は進化して強くなった……しかしその分燃費が悪い。私を回復して剣を浄化できなかったが1番起きて欲しくない状況……私の回復は後回しで良い。
(ゲームしてて1番辛い状況だなぁ……)
ライムの浄化を待つ間、気絶しないように考え事をする。MEO、ずっと安全マージンとってプレイしてたからね……これ残りの試練もこんなに厳しいのかな?心折れそう……
「メキュ!」
「むぐ」
今後のことを考えて若干ネガティブになりかけていると、口に液体が流し込まれる。身体に活力が蘇る……だけど全快とはいかず気休め程度。
「やっぱりギリギリだったね」
「メキュ……」
疲弊が隠し切れないライムから剣を受け取った。砂時計を見るとあと少しで砂が無くなる。私は重い足を気力で前へと進め、力が入りにくい腕を振り上げて鎖に叩きつける。
バキン!ギィィィィィ……
最後の鎖を断ち切ると大扉が音を立てて開く。私はその扉をライムと共に潜る……そして限界を迎えて気絶した。
◇
ペチペチ。ペチペチ
「ううん……」
「メキュ!」
頬をペチペチと叩かれ私は目が覚めた。目が覚めると私は大きな白い水晶柱が浮かんでいる部屋に居た。何処ここ?と周りを見回すとライム……そしてライムに抱えられている1匹のスライムが目に入った。
「キュピピ!」
ライムに抱えられているスライムは挨拶するように鳴き声をあげる。初めて見るスライム……よく見ると天使の輪っかみたいなの浮いてるし。
「あっ、もしかしてクティアさんのパートナーの子?」
「キュピ!」
試練の場に居るって言ってたの思い出した……回り始めた頭でそんなことを思い出していると。天使スライムはぴょんぴょんと水晶柱の方へ移動した。そして水晶柱にクイクイと視線を何度も合わせた。
「それに触れってこと?」
「キュピ!」
私は立ち上がって水晶柱に触れる。水晶柱から白い光がポワッと出現すると腰に付けてあった聖書に溶け込むように消えた。
聖書の方もほんのりと光を纏い、表皮の白い水晶の縁が金色に装飾される。ちょっと豪華になった?
ズズズ……
私が聖書の表紙を見ていると重々しい音が部屋の奥から聞こえた。音の方を見るとテレポーターのような魔法陣が出現していた。あれに乗って帰るのかな……
「色々ありがとうね」
「メキュ」
「キュピピ」
私とライムは天使スライムに挨拶して魔法陣に乗る。身体を光が包み込み、光が消えると私は試練の場に行くための広場に戻ってきていた。
「ふぅ……疲れたね。帰ってお茶飲もうか」
「メキュ……」
その前にクティアさんに声かけていこ。私とライムは疲れを滲ませながら上に戻った。
多分、今後触れるか分からないのでここで解説
光の試練管理人
ピュアエンジェル・スライム
光属性の中でも天使系統という特殊なスライム
天使の輪っかがある以外は普通のスライムだが
死者すら蘇らせる回復能力、悪を蒸発させる浄化能力を持っている
純真無垢な性格で人懐っこい
なお、悪と見なした相手はその存在をこの世から抹消される。別名、神罰の代行者




