第95話
「あるとすればここだよね……風属性強化薬の素材」
水湧きの霊山で力不足を感じた私は、風属性強化薬の素材を求めて霞森を訪れていた。風の属性強化薬があるとすればここのはず……
東と南はサブフィールドが無い。だからメインのフィールドに強化薬の素材があると睨んでる……風笛の霞森って名前からしてあるはず。
(風胡桃は違ったんだよね……)
あれは中の空洞に圧縮された空気が詰まってるだけ。必要なのは風属性の魔力が含まれた素材。
「前回来た時に探して見つからなかった……そうなると上の方にあるかな」
地上にあったら見つけてる筈だしね。ということで現在、チェリモに頼んで木の上を探索してきて貰ってる。そろそろ帰ってくるかな?
「ヒュウ♪」
「おかえり。収穫あった?」
帰ってきたチェリモに聞くと、チェリモは手に持っていた物を見せてきた。見た目は薄緑色の蔓植物、そこに鬼灯のような水色の実がいくつも付いていた。
ーーーーーー
空鬼灯
常に風が吹く場所で成長する植物
霧と風に含まれる魔力で成長し、実に風属性の魔力を溜め込む
大量の水や過度な日光、強過ぎる風などで簡単に枯れるため、育成するには条件が厳しい。
ーーーーーー
栽培するのが難しい植物か……流石にここまで栽培条件が厳しいとメロンに頼むのも無理だね。品種改良する前に枯れるだろうし……専用の設備が必要。てかこれ育てるなら施設が必要だな。
(うちの隣の建物を買い取って、更地にして施設を建てる必要が……おぇ)
頭の中で算出した費用に若干吐き気がしてきた。ソロでやることじゃないよね……大きいクランがやるべきだと思う。
「とりあえずチェリモ……これ採れるだけ取ってきて」
「ヒュウ!」
私はチェリモに空鬼灯の採取を頼んだ。ちなみに今回の編成はライム、プルーン、ルベリー、レンシア、チェリモ。メインアタッカーのレモンとアセロラ抜き……レンシアとチェリモが強くなったからね。これで行けるか試してるところもある。
「グルルルル……」
私がチェリモを見送っているとミストアサシン・パンサーが唸り声を出して出現した。お前は相変わらず自分の存在をバラしてから襲ってくるな……馬鹿なのか?
「ガァァァァ!」
私が呆れた視線を向けているとミストアサシン・パンサーが牙を剥き出して飛びかかり……地面から飛び出した砂の棘で滅多刺しにされた。
「ガ、ァァ……ァ……」
「スナァ……」
レンシアがパチン!と指を鳴らすと棘が消えミストアサシン・パンサーが地面へと落ちた。急所をいくつも貫かれ致命傷……ここから動けるはずも無く光へと変わっていった。
(うん……怖過ぎ)
レンシアが攻撃する素振り気づかなかったんだけど……しかも喉とか心臓とかの急所を滅多刺し。最近私が買った医学書『薬草が生物の内臓に与える影響』が最近読まれた形跡あったけど……読んだのレンシアだな?
「あれ、生物の急所の教科書じゃないんだけどな……」
あれご丁寧に絵まで描いてあって、内臓がある生物全部描いてあったんだよ。人間も含めて……つまりレンシアはやろうと思えば人間も滅多刺しに。
「医学書の管理気をつけよ」
レンシアが暗殺者になってしまう。私はちょっとヤバめの医学書は隠しとくことにした。そんなにヤバいやつないけどさ……基本的に薬の本ばっかりだし。
「ヒュ、ヒュウゥゥゥ!!」
「ん?」
私がレンシアにちょっとビビっているとチェリモが何やら慌てた様子で帰ってきた。そしてその後を追うように何かが飛んできた。
「プテェェェ!!」
チェリモを追いかけてきていたもの。それは薄緑色のプテラノドンだった。プテラノドンのトサカと翼の縁は刀のようなブレードになっていて、翼は4枚2対……本体のサイズは人間と同じくらいだけど横幅は5m近くはある。
「プテェェェ!!」
プテラノドンは甲高い鳴き声を放つと翼を激しく羽ばたかせる。翼から無数の風の刃がばら撒かれる。
「ヒヤァ」
「スナァ……」
プルーンが氷の盾で風の刃を防ぎ、防ぎ切れない範囲をレンシアが砂でカバーした。風の刃は範囲こそ広いけれど威力はそこまでだった。氷の盾と砂の壁は風の刃を耐え切った。
「プテェェェ!!」
プテラノドンは風の刃を止めると天高く舞い上がった。そして翼を広げて一気に急降下。トサカと翼の刃が光を反射し、まるで流星かのように突っ込んできた。
「ヒヤァ」
プルーンが氷の盾で受け止めカァァァァン!!と甲高い音が大きく鳴った。プテラノドンの急降下の勢いが強過ぎてプルーンが氷の盾ごと押し込まれる。
「ヒ、ヤァ」
普段冷静なプルーンから珍しい声が出た。プルーンは氷の盾に力を込め、プテラノドンを一気に押し返した。プテラノドンは軽く体勢を崩したがすぐに立て直して高いところに行ってしまった。
「うわ、プルーンの氷の盾に大きな切れ目が」
プテラノドンを正面から受け止めた盾には大きく深い斜めの傷が付いていた。受け止めたプルーンにも衝撃でかなりダメージを負ってる。
「プテェェェ!」
「スナァ……」
「ヒュウ!」
上空から追い討ちの風の刃がプルーンに向けて放たれるがレンシアが砂の壁で防ぎ、チェリモが飛行して霧風の弾で攻撃した。
「プテェェェ!」
プルーンを狙っていたプテラノドンは攻撃してきたチェリモにターゲットを変えた。チェリモとプテラノドンは飛び回りながら攻撃を撃ち合う。
プテラノドンは持ち前の飛行能力で回避、チェリモは飛行能力で上回れず攻撃が被弾することもあるが、纏っている風で威力を削いでいるためなんとか戦えていた。
「プテェェェ!」
「ヒュ、ヒュウ……!」
遠距離の撃ち合いでは埒が明かないと思ったのかプテラノドンはチェリモに向けて突撃、翼の刃で直接ぶった斬ろうとする。そしてチェリモに刃が届きそうになった時……プテラノドンに向けて周りから砂の触手が伸びた。
実はプテラノドンとチェリモがやり合ってる間に、レンシアが木々に砂を這わせてトラップを作っていた。そこにチェリモがプテラノドンを誘い込んだ。
「プテェェェ!」
プテラノドンはバサっと羽ばたいて砂を打ち払うと脱出しようとする。しかし上はすでに結晶化した砂が網のように広がり逃がさない。そしてその隙を狙って。
「ヒヤァ」
ライムの治療で回復したプルーンの氷の槍が投げられた。氷の槍はプテラノドンの翼の膜に大きな穴を開けた。
「プ、プテェェェ……!」
プテラノドンはバランスが崩れ必死に羽ばたくが、穴の空いた翼はいくら羽ばたいても浮力が得られない。飛行能力が落ちればお前はもう怖くない。レンシアの砂の包囲網が更に広がってるしね。
「ヒュウ!!」
「プテェェェ……」
最後はチェリモの霧風の刃でプテラノドンはトドメを刺された。中々に強い相手だった。
「空戦能力に長けた亜竜……森の上を飛んでる感じか」
空鬼灯の採取の支障になるなぁ……今回はチェリモが無事に戻って来れたけど、こっちに来る前にやられる可能性もあるし。
(何か方法を考えるか……)
あっ、ちなみにプテラノドンの名前はエアレイド・プテラ。素材は武器に使えそうなものが多い……亜竜って薬に使える素材は亜竜の血ぐらいだよね。アンキロも防具やハンマーに使えそうな甲殻がメインだったし。
「てかこれ……北にも居るよね?」
西、南ときて今回は東……北に居なかったらおかしいよね。
「何が居るんだろう……ちょっと怖いな」
ヤバいのが居ないと良いんだけど……とりあえず目的のものがある程度手に入ったので、私は1回帰ることにした。プテラの対策考えたいしね。
「あとは真珠か……まぁ、そっちは少しアテがあるけど」
そっちの実験も進めなきゃ……




