50 お嬢様、囲まれる
たぶん、男性二人に女性二人。四人が私を囲むようにジロジロ見てくる。
「ふぅん? さすがクリストフォロスのお嬢様は違うね~」
「いやいや、でも蛍の幼馴染みでしょ? てことはさー、庶民じゃん?」
「これ、カット、蛍? やるなー」
「しかし、いいねえ、素材。わくわくするね」
「あ、あの……?」
いい加減、居たたまれなくなってきた。なんなのですか……?
「はいはいはい! みんな離れてー! 円華ちゃんが怯えてるでしょ!?」
蛍が手を叩いてみんなを下がらせる。
「蛍……?」
「うん、ごめん。びっくりした? この人たち、私の学校の友達」
「はじめましてー。手塚です」
「西原です」
「貴嶋でーす」
「神崎」
手塚さんは指にいくつも太い指輪を嵌めた茶髪の男性、西原さんがピンク髪をおかっぱにした丸顔の小柄な女性、貴嶋さんはすらりと背の高い緑髪の女性、そして神崎さんが先ほどのロングスカートの青髪の男性。総じて個性的なファッションだった。
――うん、なんだか目がチカチカする……。
「四人ともデザイン科なの」
「はぁ……」
今日はお友達を紹介してくれるつもりなのだろうか。
いまいち要点がわからず、首を傾げてしまう。
そういえば、先ほど何やら言っていたような。
「円華ちゃんの壊滅的な服装のセンスをどうにかしてもらおうと思って連れてきた」
なんと。
「うん、壊滅的」
「そう、まさしく壊滅的、ね」
「そのパーカ、どこで売ってるの?」
「お嬢様がそれでいいわけ?」
「いや、似非お嬢様だって」
口々に言われるとさすがに私も傷つく……。
じ、地味なだけで、壊滅的、ではないと思う……。
「あのね、円華ちゃん。今度宿泊研修あるんでしょ? 私服の!」
「なぜ、知ってるの? 蛍……」
「ゆずくんに聞いたの! でね、今までの行事の写真とか送ってもらったわけ!」
いつの間に、そこまで仲良くなったの、譲と。
「まず、円華ちゃんのワードローブは使えないでしょ」
「つ、使えない、かしら……?」
「うん」
蛍は真面目に頷く。
いや、私も確かにどうにかしなければ、とは思ったけれど。とりあえず、先立つものはない。アルバイト代が入るのはもう少し先だ。宿泊研修は手持ちのもので行くつもりだった。
「パッと見ね、カジュアルなキャンプスタイルが多いみたいなんだけど、確実にハイブランドとか本格的なアウトドアブランドとかの服が多かったの。ファストファッションもまあまあいたけどね。私と円華ちゃん、身長違うくらいで体型はまあ変わらないから私の服とか貸してもいいんだけど」
「そ、そこまでしてもらうのは悪いわよ」
「や、いいの、そこは。合うやつがあれば。――でも、私、古着系はあっても、キャンプ女子みたいなの、あんまり持ってないのよ。でね、友達に相談したの。それがこちらの方々です!」
「じゃーん!」という効果音を口で言って、四人を指し示す。
「手作りの一点もの、たくさん持ってきてもらいましたー!」
「ええ……!?」
それこそ、悪くて借りられないわよ!?
「た、ただの学校行事よ、蛍? いいわよ、そんな……。パーティーでもあるまいし……」
「良くない……! 何を言ってるの、円華ちゃん! いい、最初が肝心よ!? 普段、制服だからみんな気づいてないけど、私服になったらやばいのよ、円華ちゃんは! すぅっと、距離が離れてくかもしれないよ……!?」
そ、そんなこと、ある……?
「まあさ、そこまでじゃないかもしれないけどさ。せっかく好きにしていいって言われたからさ、来ないわけにはいかないでしょ?」
青髪の神崎さんが、にっこり笑って大きなトランクをカパリ、と開ける。それに倣ってみなさん同じように荷物を開けだした。
パンツ、アウター、靴、帽子、などいろいろなアイテムがわんさかと出てくる。
「あの、でも、ね、蛍。私、一点ものを買い取るようなお金ないから……」
慌てて言えば、ふふふ、と蛍は笑う。
「安心して、円華ちゃん。なんと! 全部無料でレンタルです!」
「レンタル……?」
なぜ、そんな都合のいいことが。
――あるわけない、と思ったところで、にっこり笑った神崎さんと目が合う。
「ただし、条件つき」
あ、やっぱり。
「条件って……?」
恐る恐る訊いてみると、四人は目を合わせてふふふ、と笑った。
「ショーのモデル探してるんだ」
「モデル?」
「そう。僕らの学校、定期的にショーがあって。課題ごとに、制作、発表があるの。モデルは普通科とか美容科とかの子に大抵頼むんだけどさ。なかなか理想の子がいなくて。僕らのグループだけまだ見つけられてなかったんだよね」
「ジンにやらせてもいいんだけどさー。やっぱ女の子の方がいいかなー、って相談してたんだ」
「ジン?」
「あ、僕。神崎の『神』で『ジン』」
青髪の神崎さんはジン、というニックネームで呼ばれているらしい。
「蛍が髪切る前だったら頼んだんだけど、切っちゃったからさー、ちょっとイメージじゃなくなっちゃって。そしたら、君の話を聞いてさ。素材次第で交換条件で受けてもいいかな、って」
ふ、と神崎さんの指が私の髪を一筋攫う。
「……いいね。綺麗な髪だ」
そして、攫った髪に口づけた。
――流れるような動き。中性的な雰囲気を持つ彼だから、そんなことをされてもなんだか違和感がない。
ほかの人たちが呆れたように笑う。
「ジンの黒髪フェチ、異常だよな」
「自分、あんな頭してるくせに」
「はいはいはい、簡単に触っちゃだめ!」
くくく、と三人が笑い、蛍が神崎さんを私から引き離すようにしてくれた。
手を離して、神崎さんは残念そうに苦笑して肩を竦める。
「……モデル、というと、そのショーに出るということですか?」
「何かまずい? どっかの事務所に所属してるとか?」
「いえ、そういうことはないのですが」
私は困惑してしまう。円華のイメージを探る。――モデル、というと特別に訓練された人、というイメージだった。ファッション雑誌やテレビに出るような。
「私にそういうことができるとは思えないのですけれど……」
ピンク髪の西原さんがにこり、と笑う。
「あ、大丈夫。ほかもみんな生徒がモデルやることが多いから。本職のモデルさんなんてほとんどいないから、みんな素人だよ。簡単なウォーキングは指導してくれる人がいるから、うちらの服着てあとはただ歩いてくれればいいだけ」
そ、それなら……いいの、かしら。
「あとは君に合わせて制作するから、採寸とか仮縫いとかその都度お願いすることはあるけど」
緑髪の貴嶋さんが言えば、茶髪の手塚さんが頷いて続ける。
「体型維持だけはしてほしいね」
「あ、それ重要ー」
四人が頷いた。
「どうする? 円華ちゃん。いい話でしょ?」
うーん、と考えこんだ。
……まあ、現実問題、円華の手持ちでは、服はどうにもならない。
無料でコーディネートしてくれるなら、たまに服を着て歩くくらいはいいのだろうか。
「君、エキゾチックなイメージを掻き立てるんだよね。すごく、綺麗にできると思うよ? 無料で綺麗な服着れるなら良くない?」
神崎さんはにこやかにそう言った。
「……そうね。やって、みよう、かしら……?」
恐る恐るそう言えば、ヨッシャ、と四人が喜んだ。
次から宿泊研修編です。
次回の更新は4/19の予定です。




