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お嬢様は平穏無事な日常をお望みです  作者:
第三章 一年生 春
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48 お嬢様、予期せぬ出会いを見守る


 二人をとりあえず、空いている席に案内して座らせた。

 水とおしぼりを持ってきた蛍に譲が紹介する。


「ああ、これは同級生の北大路鷹雅。『王子様』ってのがあだ名でね」

「……おい。その呼び方はやめろ」


 北大路鷹雅は不愉快そうに眉を寄せる。

 譲はくすり、と笑って肩を竦めたが、やめる気はないらしい。


「みんなに『王子様』って呼ばれてるのは本当だろ? ね、王子様っぽいでしょう、蛍さん」

「北……王子くん?」


 不思議そうに蛍が王子を見返す。

 ――譲、たぶん蛍、名前間違えて覚えてるわよ……。


「はぁ……。ゆずくんのお友達は王子くんなんだねぇ。クリストフォロス、イケメン度高いわ……」

「蛍さん、イケメン好きなんですか?」

「いや、顔のいい男に興味はありません。基本的に信用はしない。まあ、ゆずくんは良しとするけど」

「そうなんだ……!」


 珍しく譲が本気で楽しそうにしてる。


「……『ゆずくん』っていうのは?」


 不可解そうに王子が呟く。

 ……あ、ひっかかるの、そこなんだ。


「羨ましいだろう?」

「? ……別に」

「ゆずくんは円華ちゃんのじゅ――」

「ご注文は!?」


 ――従者だから、と言いそうになっている蛍を慌てて遮って注文を取る。

 言ったところで、不可解そうにされるのがオチだろうけれど。

 さらに説明が必要なことになるのも面倒だ。


「蛍っ! ほら、あちらのお客さんが呼んでるわよ!? ここは私に任せて!」

「あ、ほんとだ~。じゃあ、ゆずくん、ゆっくりしてってね~」


 あっさりと蛍が別の席にパタパタと向かっていく。


「――何しに来たんですか? お二人とも」

「だから、さっき言ったじゃないか。生徒会関係の仕事の打ち合わせ。宿泊研修が近いから、流れをざっと話しとこうと思って」


 宿泊研修とは、四月末、ゴールデンウィークの頭あたりに行われる学校行事だ。

 一年生だけで一泊二日で泊まりに行く研修らしい。

 高校入学したばかりの生徒たちの親睦を深めるための軽い旅行のようなものだ。

 聖クリストフォロス学院は、そういう学校行事も生徒会主体で行われる。

 生徒会役員には一年生はまだいないが、事務局員が主に計画などを立て、クラス委員と協力して行うという。

 入学して以来、(私の世話の合間に)譲が主に中心となって準備していたらしい。私にかかりっきりだったから、さらにそんな準備をしていたなんて、さぞ忙しかったに違いない。……申し訳なかった。


 ちなみに同じ時期に、二年生はやはり国内の別の場所で同様の宿泊研修があり、三年生は海外に修学旅行へ行く予定だそうだ。


「……何もここじゃなくても……」

「アルバイト初日がどんな具合か気になるだろう?」


 にっこり笑う譲に溜め息を深く吐いた。


「それで? ご注文は?」

「僕はミックスにしようかな」

「かしこまりました。――北大路様は?」


 北大路鷹雅は、物珍しそうに店内を見回した。


「もしかして、鷹雅、こういう店初めてかい?」

「――そうだな。お好み焼きは食べたことはあるが、店に来たのは初めてだ。どういうシステムだ?」


 さすが、クリストフォロスに通う御曹司、とでも言うべきか。

 まあ、庶民の通う店には来たこともないのだろう。 

 もったいないこと! 人生の半分損してるようなものよ!?


「システム、とかいう大仰なものはないよ。食べたいお好み焼きを注文して自分で焼くんだ」

「……自分で? だから、それぞれ鉄板があるのか」


 なるほど、と納得したような王子に、譲がメニュー表を示す。

 テーブルに立ててある手書きのそれを受け取って、むっと眉を寄せた。


「どれがどれだかわからんな。――何がお勧めだ?」


 王子が私を見上げてくる。

 私はにっこり笑って、一番高いメニューを指差した。


「豚玉海鮮ミックススペシャルぜんぶ乗せです」

「……じゃあ、それひとつ」


 ――断らない!? 

 高校生でしょ!? いくらお小遣いもらってるの!?

 内容わかっているの!?

 豚だけでなくエビとイカと極めつけにカキが入った豪華お好み焼きの上に、チーズとさきイカとモチと明太子のトッピングが乗ってて、さらに卵までつくのよ!?

 元々千六百円もする上にトッピング込みだと二千円以上にもなるのよ!?


「……男性お二人でしたら、お好み焼きひとつずつでは足りないと思いますよ? 他に焼きそばと、バランスを考えて野菜の鉄板焼きの盛り合わせと、甘いものがお嫌いでなかったらデザートにアイス付きあんこ巻きはいかがですか?」

「じゃあ、それも」


 ――こ、断らない!?


 一応のサービストークだったのだけれど!?

 いくらになると思っているの!?


「あと、良かったらドリンクはいかがですか? ソフトドリンクでしたらアイスティー、緑茶、ウーロン茶あたりが食事には合うと思いますけれど」

「じゃあ、緑茶を」


 水なら無料なのにドリンクまで!?

 内心では愕然としている私に、譲が笑いを堪えるような顔をしている。

 

「……かしこまりました。ドリンクは先にお持ちしてよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 この分なら食事が終わるまでにもう一杯くらいソフトドリンクも頼んでくれそうだ。メロンソーダかコーラフロートくらい勧めておけば良かった。……でも、さすがに良心が痛んでしまって。


 なんだか敗北した気持ちで厨房に、オーダーを伝えに戻る。


「あれ、六卓のお客さん、譲くんとお友達だって? 大丈夫かしら、こんなに頼んじゃって」


 おばさんとおじさんが厨房から客席の方を窺う。


「……食べきれるか、という意味では大丈夫だと思います……」

「価格の意味でも大丈夫ですよ。彼、大企業の御曹司ですから」


 後ろからついてきていた譲がすかさず言った。


「譲くん、いらっしゃい」

「昨日は御馳走様でした。――これ、つまらないものですが」

「あら。いいのに。――まあ、『遠州屋』のお菓子! ここの、美味しいのよね」

「それは良かった。両親もよく御礼を、と申しておりました」

「まあ、ご丁寧に。こちらこそお気を遣わせて。――ゆっくりしていってね」

「はい」


 席に戻ろうとする譲を捕まえる。


「ねぇ、どういうつもり……!?」

「だから、さっきから何度も話してるじゃないですか」

「そういう建て前はいいから……!」


 ふ、と譲が頬を緩める。一度、客席の方を見てから私を見返す。


「……たまたまですよ。今日、あなたを見にきたかった僕と、彼の用事がたまたま合ったから」

「譲……!」


 そうじゃなくて――、と言いかけた私に客席から声がかかる。


「お姉さん! お冷やお願い!」

「はーい!」


 反射的に返事を返す私に、譲は客席を示す。


「……ほら、呼ばれてますよ」

「もう……!」


 ピッチャーを持って慌てて客席に向かう。

 チラ、と譲の方を窺うと、ひらひらと笑顔で手を振られた。

 席に戻った譲のもとに、蛍が早速ドリンクを届けて、三人で何やら会話していた。


 な、何を話してるのかしら……。


 気にはなったが、他の席からも次々と注文が入り、そちらを気にする余裕はすぐになくなってしまった。


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