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お嬢様は平穏無事な日常をお望みです  作者:
第三章 一年生 春
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46 お嬢様、お風呂で語らう


 部屋へ行くと、蛍が紅茶を淹れてくれた。

 それを飲む私の背後へ回り、髪に触れる。


「うーん、二週間ちょい、か。来月入ってからでもいいけど……、円華ちゃん、軽くトリートメントしとこうか。前回のじゃなくて、お風呂で使えるもう少し簡単なのあるから」

「任せるわ」

「あ、それから前髪ちょっと揃えていい?」

「えぇ、どうぞ。お願いします」


 風呂に入る前に、軽く前髪を揃えてくれる。


「よし、お風呂入りながらトリートメントしよう!」





 一緒にお風呂に入りながら、髪を洗った後に蛍がトリートメントを優しく馴染ませた。


「少し置いた方がいいから、ちょっと浸かっててね」


 髪を軽くまとめ、温めたタオルを頭に巻いてくれる。

 言われた通り湯船に浸かり、縁に頭を乗せてしばらく待った。

 その間に蛍も自分の体や髪を洗ったりしている。


「蛍の学校は、校則が厳しくないのね」

「んん? そうだねぇ。うちはデザイン科と美容科があるからね。割と自由なの」

「制服もないの?」

「基準服ってのが一応あるよ。制服みたいなの。普通科の子たちは結構着てるね。私は時々かなあ。デザイン科とか美容科の子たちはアレンジして着たりもするよ」

「へぇ」


 蛍の学校には普通科のほかに、服飾などのデザイン科と、美容師資格が取れる美容科があるという。蛍は美容科に通っている。


「髪はね、お互い切ったり染めたりするの。練習にね」

「そうなの」

「あ、円華ちゃん、そろそろ流すね~」

「はい。お願いします」


 それほど傷んでいたわけではないが、洗い流すとするするした感触になった。気持ちがいい。

 蛍が軽くまとめてくれる。


「はい、どうぞ~。あったまってね~。――私も浸かろうっと」


「ふぃ~」という気持ち良さそうな声を出して蛍が風呂に浸かる。二人では少し狭いが、うちのアパートほどではない。大人二人でも入れるゆったりしたバスタブだった。


「――ゆずくんとはさ、どんな出会いなの?」

「出会い……」


 一瞬、前世のオスカーを思い出すが、さすがに話すことはできない。

 譲――との最初の出会いは。


「――初日に、校内の森で迷っているところを助けてもらったの」


 ぷっ、と蛍が吹き出した。


「円華ちゃん、方向音痴だもんね……! そっかぁ、じゃあ恩人じゃない。なんで家来になってるの?」

「家来……、まあ、そうねぇ。普通の同級生として扱って、って言ってはいるんだけれど。前世からの因縁、とかなんとか……」


 細かいことは言えないから、なんとなくそう言ってはみたけれど、普通は説明つかないだろう。


「前世……、ゆずくん、変わってるねぇ……!」


 くすくすと笑う。そして、悪戯っぽい目を私に向けた。


「ねぇ、二人は付き合ってるの?」

「付き合う? それって恋人として、ってこと?」

「うん」

「……そういう意味では、付き合って、はないわねぇ」

「じゃあ、友達?」

「友達かって言うと……」


 ――どうなのかしら。

 もっと、適切な言葉があるのかもしれないが、見つけられない。

 強いて言うなら家族、か? ……でも、それも違う気がする。

 凌久や父さん母さんとは、また違う。

 もっと近いような、でも違うような。――なんなのだろう。

 従者、としか言いようがないのだが、よく考えてみると、別に給金を支払っているわけでもないし。そういう扱いをしてはいけないことはわかっている。


 ――私は譲に甘えすぎている。


 誰よりも私のことをわかっていて、何も言わなくても気持ちが通じてて。

 そういう関係を果たしてなんと言うのか、私はわからない。


 真剣に考え始めたところ、蛍が意味ありげに頷いた。


「ふぅん。友達でもないのか……。うん、でもいいよ、円華ちゃん、茹だっちゃうからあんまり真剣に考え過ぎないで! ――そのうち、きっと、わかるときがくるね。でも、ゆずくん、きっと、なんかちょっと円華ちゃんの『特別』なんだね?」

「『特別』……、そう、かも」


 そうね。『特別』、としか言いようがないのかも。

 家族のように『特別』で『大切』な。


「ふぅん、いいね。そういう人が近くにいるのはいいね。私も、嬉しい。……ちょっとだけ、寂しいけど」


 言って蛍はぷくぷくと鼻の上までお風呂に浸かる。

 その顔が赤くなっているのは、熱いだけではないのかもしれない。


「寂しい?」


 ぷはっと顔を出すと、蛍はちょっとだけ視線を逸らす。


「……だって、円華ちゃんの『一番』の場所、私じゃなくなっちゃうのは、寂しいもん……」


 私は思わず微笑んだ。


「……どんなに大切な人ができても、私の一番の親友は蛍だけよ」

「円華ちゃん……! 好き……!」


 頬を赤らめてそう笑顔で言う蛍は、本当に可愛らしかった。

 私はそんな親友がいる自分を幸せだと思った。


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