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お嬢様は平穏無事な日常をお望みです  作者:
第三章 一年生 春
41/79

30 お嬢様、紹介される


「じゃあ、紹介を先にしよう」


 ぐるり、とテーブルを見渡して、まずは会長の右手にいた男子生徒を指した。


「彼が副会長の庄司しょうじ裕貴ゆうき、三年生」


 最初に紹介されたのは、明るい髪色の男子生徒。すっきりとした目鼻立ちだが、どこか存在感の薄い人だった。副会長、ということは会長の補佐役なのだろう。

 控えめに目を伏せ、無言で会釈された。私もそっと会釈した。


 会長は次いで、その隣の男子生徒を指し示した。


「それから、彼が会計の木村優太、三年生」


 次に紹介されたのは、朴訥そうな眼鏡の男子生徒。


「はじめまして」


 柔和に微笑まれて私も会釈する。きっちりと制服を着て、丁寧に撫でつけられた髪に、真面目そうな雰囲気があった。


「今、お茶を配ってくれたのは、二年生で庶務の山口麻衣」


 こちらも眼鏡をかけてお下げ髪の女子生徒。お茶を配り終えて、席についた。


「どうぞ、よろしく」


 にこり、と微笑まれてこちらも会釈を返す。


「……後は、二年生で書記の」


 そこまで会長が言った時、生徒会室の扉が開いた。

 皆の視線がそちらへ向く。


「ああ、ちょうど良かった。彼女が書記だよ」


 入って来たのはふわふわ、と長い髪を纏わせた美少女だった。

 小柄でほっそりとした体つき。色素の薄いふわり、とした髪は長く腰のあたりまで達している。長い髪は重くはなく、動くたびに軽く揺れた。

 長い髪に縁取られた小さな顔はまるでビスク・ドールのように完璧に整っていた。色素の薄い瞳は、茶、と一口に言えない不思議な色合いだった。もっと淡い独特な透明感がある。


「……桜の姫だ」


 声を潜めて悪戯っぽく会長がそう言った。


 ――姫?


 思わず問い返しそうになったが、彼女には聞こえていなかったようだ。近くまで来て不思議そうに小首を傾げた。


「遅くなりました。――あら、今日は何かの会議でしたかしら?」


 鈴を鳴らしたような、高く涼やかな美声だった。静かなのに、不思議と通る声。

 その目が、ふと私に止まる。私は会釈した。


「いや、会議は入ってなかったよ。今日は久遠が次回執行部役員候補を連れてきてくれたんだよ。今役員を紹介していたところなんだ。――新入生の紫野くんだよ」

「紫野……円華様?」


 下の名前まで呼ばれて驚く。全員、名前を覚えているのだろうか。


「えぇ、はい。はじめまして」

「あなた、この前、馬術部に見学にいらしてた?」

「はい」

「なんだ、もう会ってた?」


 顔見知りかと訊く会長に、彼女はゆるく首を振った。


「いいえ。直接お会いしてはいないのです。帰る姿を拝見しただけで」

「そう。紫野くん、彼女は馬術部のホープでね。二年生の姫宮(ひめみや)桜子(さくらこ)


 姫宮桜子――それで『桜の姫』、か。

 会長の声の潜め方からすると、本人に直接呼びかけるようなものではないようだ。ただ、確かに、姫、という名に相応しいような不思議な魅力があった。

 小さくて、美しい……、まるで妖精のような。

 桜の精のようなその人は席につきながら、くすくすと可愛らしく笑みを零す。


「百合恵様がとても褒めてらして。絶対に入部させるって息巻いてましたわ」

三枝さえぐさくんか……。君のとこの部長さんは極端だからさー。紫野くん、大変な人に好かれちゃったねぇ。入部しないのだったら、逃げ回ることになるかもよ?」

「え……」


 私は三枝様の押しの強さを思い出した。うーん、あり得る、かも……。

 まあ、それはまたそうなった時に考えよう、うん。


「執行部の正式な役員は以上五名。あとは、事務局員だけど、今いるのは……」


 会長が視線を移した人は、椅子に座る姫宮様を後ろからがばり、と抱きしめた。


 ……あら。


 姫宮様のふわふわとした髪に顔を埋め、挑戦的にこちらを見る方は、長めのショートカットに細身で長身の――男性? ……あ、いえ、制服はスカート。ハンサムな、女性? ええと、女装男子?


「二年の桔梗でーす。桜子の恋人です」


 中性的な声だった。女性にしては少し低く、男性にしては少し高い。魅力的で印象的な声だ。

 きりっとした目に、すっと通った鼻梁。意志の強そうな眉。薄い唇はけれど、形良く整っている。

 

 ――まあ、とにかく整った容姿なのは間違いない。


 黒川会長は一瞬無言になってその方を見つめ、にこり、と笑うと私に向き直った。


「事務局員の、鎮ヶ森桔梗しずがもりききょう。ラクロス部の副部長」


 あの、恋人、というところは突っ込まなくてよいのですか?


「あ、ちなみに姫宮くんにはれっきとした許婚フィアンセがいるから」

「それが、私!」

「では、ないよ。別にちゃんといます」


 親指を立ててビシッと自らを指差すその方を黒川会長は笑顔でサクッと無視した。

 え、ええと……?

 ですからその、姫宮様の頬にキスしているその方は無視でよろしいの……?


「――彼は今日はどうしたの、姫宮くん」

「さあ? 別に私がスケジュール管理しているわけではないので……。ご実家のご用事ではないですか」

「冷たいねぇ。許婚なのに」

「……親同士が決めた相手ですので」

「ビジネスライクだねえ」


 要約すると、どうやら姫宮様には別のお相手がいる、らしい。

 でも、じゃあ、そのふわふわの髪を愛しげに撫でている目の前の方は?

 

「――私は、ヤツを認めてませんから」


 キリッと、鎮ヶ森様は黒川会長を睨む。


 ――ああ、カオス!


「君が認めようが認めまいが、王子が正式な許婚だってば」


 ――王子……?


「正式ってなんすか。高校生が結婚て! むしろ私が嫁にもらうわ!」

「今結婚するわけじゃないでしょ。君こそ結婚てどうするの。婚約者がいるのに?」

「とりま、海外に逃亡でも……」

「うーん。まずは本人の了承を得なよ」

「えー。桜子、私と結婚するよね? 子どもの頃に約束したよね?」


 姫宮様はにこり、と微笑んだ。

 ――そ、それ、同意ですか? どちらですか?

 桜の姫は愛らしく抱きしめられたままで、ハンサムな方をやんわり無視。

 

「――会長。話が逸れてましてよ」


 姫宮様に話を戻されて、黒川会長は何事もなかったかのように、こちらに向き直った。


「そうだね。――とりあえず、今いるのはこれで全員。わかりやすいように役職を説明するよ」


 黒川会長は席を立つと、近くにあったホワイトボードをガラガラと引き寄せ、黒いペンの蓋を取った。

 生徒会執行部、と書いた下に役職を書き出していく。

 以下、書かれた内容だ。


  会長  黒川満 三年生

  副会長 庄司裕貴 三年生

  書記  姫宮桜子 二年生

  会計  木村優太 三年生

  庶務  山口麻衣 二年生


「この五人が選挙で選ばれた正式な役員。で、その他に体育部代表と文化部代表。これは各部活の部長が話し合ってその年の代表を決める」


 線を引いてその下に追加で記載する。


 体育部代表 フェンシング部部長 幹晴斗 三年生

 文化部代表 放送部部長 水野哲 三年生


 ――ああ、フェンシング部の幹様、生徒会に出入りなさってるのね。


「あとは委員会長。これは各委員会の代表だけど……、まあ、例年風紀委員長がなるのが慣例かな。まだ今期の代表委員会が行われてないから、これから承認されるんだけど」


 部活動の代表の下に風紀委員長(仮)、とだけ書かれる。名前はない。


「で、あとはボランティアの事務局員。これは特に人数は決まってなくて、大抵は中学で執行部だった人と、次期部代表候補に頼むんだけど」


 風紀委員長の下に事務局員、と書かれる。


「久遠はとりあえず、ここ。中学の元副会長」


 事務局員のところに譲の名前が書かれる。


「それと、彼女」


 顎で軽く、姫宮様に抱きついている方を指す。

 とりあえず、女性、でいいらしい。

 鎮ヶ森桔梗 二年生、と追加される。


「体育部の次期代表候補だから。――姫宮くんにくっついてきてるだけ、とも言えるけど」


 その下に文化部代表候補、と書かれる。


「ええと、文化部の方はまだ決まってないんだっけ?」


 会長がそう言うと、お下げ髪の山口様がにこり、と答える。


「そちらも、今度の部代表会議で決まります」

「だね。どちらにしても四月中には全員揃うよ。――あと、事務局員は、去年の中学の会長、北大路(きたおおじ)鷹雅(たかまさ)


 私は内心で、ぴくり、と反応する。


 ――王子。


 ホワイトボードに北大路鷹雅の名が追加された。


「王子……ってのは彼のあだ名なんだけど。知ってる?」

「お名前とお顔だけは、なんとなく」

「姫の王子様だよね?」


 黒川会長の悪戯っぽい視線が姫宮様に向く。


 ――ああ、先ほどの、許婚って……。


「本人はそう呼ばれるのをあまり好んではいないようですよ」


 黒川会長は肩を竦めて軽く笑った。


「まずいまずい。怒られちゃう。――久遠、王子は今日は?」


 私も思わず、譲を見た。


「どうして僕に訊くんですか」

「親友でしょ?」


 譲は私を見ると軽く溜め息を吐いて、安心させるように頷いた。

 ――ああ。そんなに不安そうな顔になっていた?


 譲が四角い板――じゃなくて、ええと、携帯電話ね、あれは――を取り出して、何やら操作した。


「自宅で急用ができたそうですね。――今日は来ないようです」


 ――ほっとする、と言うとおかしいけれど。つい少しだけ、詰めていた息を吐いてしまった。


「今現在は、以上です!」


 そして、黒川会長はホワイトボードの事務局員のところの、空いたスペースに紫野円華と書いて、赤ペンで大きく丸をつけた。トン、とペンでそこを指す。


「僕らはここに君が来てくれることを望む!」

「――申し訳ございません。お断りします」

「ええ!? 来ておいて即答!?」


 生徒会室が、ザワッとした。


 あ、いえ、つい。もう少し柔らかくお断りするつもりが……。


 ご、ごめんなさい、譲。

 彼を思わず見ると、譲はふっと笑った。


 え、何、その笑み。


黒川会長のホワイトボード覚え書き


―――――――――――――――――――――――――

 生徒会執行部役員

  会長  黒川満 三年生

  副会長 庄司裕貴 三年生

  書記  姫宮桜子 二年生

  会計  木村優太 三年生

  庶務  山口麻衣 二年生

――――――――――――――――――――――――――

  体育部代表 フェンシング部部長 幹晴斗 三年生

  文化部代表 放送部部長 水野哲 三年生

  風紀委員長(仮)


  事務局員

   久遠譲 一年生

   体育部代表候補 鎮ヶ森桔梗 二年生

   文化部代表候補 二年生

   北大路鷹雅 一年生

   紫野円華 ←来てくれることを望む!


――――――――――――――――――――――――――


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