表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様は平穏無事な日常をお望みです  作者:
第三章 一年生 春
40/79

29 お嬢様、生徒会室に踏み込む


 特別棟の特別教室は、本校舎と同じようにドアは引き戸だが、生徒会室だけは違った。深い焦げ茶の重厚な二枚扉で、ドアノブは真鍮に見えた。重々しく開けられた扉の先にはサンルームのように明るく、広々とした部屋が広がっていた。


「どうぞ入って――紫野くん」


 扉を押さえた会長はにこりと笑って私を促す。

 思わず譲を見上げれば、彼も頷いて私の背をそっと押した。


 一足踏み入れたそこは、ふかり、と厚い絨毯に覆われていた。

 繊細な模様が編まれた高級な絨毯に思わず目を奪われ、一歩室内に入ればその天井の高さに溜め息を吐く。

 広々とした空間にはいくつかソファーとテーブルのセットが置かれ、奥の方には楕円形の大きなテーブルと美しいさまざまな椅子がぐるりと設置されていた。その向こうは大きくとった窓と、さらにその外はテラスのようだった。

 

 ヴァイオレットの屋敷のサロンよりは狭いが、居心地良さそうな空間は負けず劣らず、という風情だった。


 背後でガチャリ、とドアの閉まる音がして振り返る。


「校内でも有数の陽当たりの良さなんだよ。明るいでしょう? ――ようこそ、生徒会室へ」


 不思議と足音がしない歩き方で会長が部屋の中央へ歩いていく。

 会長はどうも猫のように、軽い歩き方をする。近づくまで気配を感じなかったのはきっとこのせいだ。その場にいると存在感はあるのに、背後に立たれると気配を感じさせない。

 それを意識してやっているとするならば、少し恐ろしい、と思ってしまう。


「全員はいないけど、現生徒会役員を紹介するよ。どうぞ、奥のテーブルへ。――みんな、新しい役員候補がいらっしゃったよ」


 会長がそう声をかけると、方々のソファーからぱらぱらと人が立ち上がった。

 男子生徒も女子生徒もいる。皆、にこやかにこちらを見ているが――こういう雰囲気は覚えがあった。

 ヴァイオレットだった頃の社交界。にこやかに微笑みながら品定めをする貴族たちのあの雰囲気だ。

 自然と背筋が伸びる。そんな私に譲はそっと近づいて囁いた。


「……大丈夫ですよ。僕がお守りしますから」


 私はこくり、と頷いた。

 落ち着いたら、紅茶の香りに気がついた。ずいぶんと薫り高い。――銘柄はわからないがおそらく高級品だ。そして、甘い香り。たぶんお菓子の。美味しそうな……。


 ゆっくりと大テーブルに近づいていく。


 生徒会室にいた生徒がテーブルにつき、会長が指し示した席を譲が引いてくれる。その席に座る。


「僕から自己紹介しようか」


 会長が、にこり、と笑った。


「僕は黒川(みつる)。三年生で、会長だよ」

「はじめまして。紫野円華です」

「久遠から概要は聞いてる?」

「簡単なことだけですが」

「聖クリストフォロス学院は、とにかく生徒主体、ほとんどの行事が生徒会主催で執行部は常に人手不足なんだ。選挙に立候補できる人材も限られてる。来期の生徒会執行部役員の確保のためにも、優秀な人材は積極的にスカウトするようにしているんだ」

「はい。そう、伺いました」


 会長は軽く頷く。


「君にも良かったら、事務局員として手伝ってほしいんだ」

「事務局員……」

「正式な役員じゃなくて、ボランティア、みたいなものなんだけど」


 会長がそこまで言った時、目の前にカチャリ、とソーサーに乗ったカップが置かれた。白地にほんのりと花の柄が浮かぶ美しい茶器だった。繊細な薄いカップに紅い茶が映える。ふわり、と香る紅茶の薫りに、差し出された長い指を思わず辿る。


「――会長。まずは、生徒会の役員を紹介なさったらどうですか」


 差し出したのは譲だった。

 見れば、譲の他に眼鏡をかけた女子生徒が、紅茶を配っていた。


「今日のお茶は久しぶりに久遠様が淹れましたのよ」


 眼鏡の女子生徒が会長にお茶を出しながら、そう口添えた。


「ああ……、久しぶりだね。久遠のお茶は美味しいから。彼にお茶を淹れさせられるのも生徒会特権だね」


 会長がひと口飲んで、美味しそうに目を細め、それから私にも促す。


「良かったら、どうぞ」


 私はありがたく、お茶をいただいた。かぐわしい紅茶の香り。

 ――美味しい。

 紫野家ではまず口にできないような、高級な茶葉が使われている。

 さすが、譲が淹れただけあって、私の好みによく合っていた。


 ……そうだ、オスカーはヴァイオレットによくお茶を淹れてくれた。

 作法の教師より、よほどオスカーの方が美味しいお茶を淹れられた。王妃殿下もいらっしゃるお茶会ではオスカーのやり方を真似て、褒められたことがあった。

 たとえ、そばにいなくても、オスカーはそうやって私を助けてくれた。


 ――今は譲が、そばにいてくれる。

 そう思うと、少しだけ気持ちが落ち着いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ