「双子は人気者」
サードステーションに到着し、ホームで魔動列車を待つ。
「それで、それってどこで売ってるの?」
「なになに? おにぃちゃんも欲しくなった?」
「いや、欲しいとは思わないけど、なかなか手に入らないって言ってたからさ」
「えぇーほしくないのー? まぁ、最初の一個目は、抽選で当たらないとなんだけどね。なんとその倍率は100倍なのです!」
「倍率100倍って……凄いなぁ。ん? 最初の一個目ということは、二個目も必要なの?」
「うん。効果が切れたらまた新しいやつを買わないとなの。ほら、いま薄紫色してるでしょ? この色が抜けて無色透明になったらラッキーホルダーの効果が切れたという事になるの。最初の一個目は大体二週間くらいで切れるんだって」
「じゃあ、二個目も同じように抽選で?」
「ううん、二個目を手に入れるためにはこのラッキーホルダーの製造元の【常世の楽園】に入会しなくちゃいけないんだよ」
「【常世の楽園】? いかにも怪しそうな名前だね」
「数年前にできた新興宗教法人らしいよ? まぁ、そのラッキーホルダーのお陰でここ最近信者が急増しているらしいけど――」
スミの話では、ラッキーホルダーを一度手にした人達のほとんどが大なり小なり恩恵を受けているらしく、この開運アイテムに依存してしまうらしい。そのため【常世の楽園】に加入し、結構な額の献金を捧げているという。献金の額によって、ラッキーホルダーを優先的に買えるらしく、そのせいで破産した信者もかなりの数いるらしい。
「ルミは、そんなところに入ったりしたらだめだからね!?」
「入らないよ~たぶん……」
自信がないのか、ルミの声がどんどん小さくなる。
「絶対だからね! ちょっと、アニキも何とか言ってやってよ」
ここで、まだ兄歴二日の俺にふるか?
でも、俺を頼りにしてくれているんだ、ちゃんと応えて上げないと。
「大丈夫。もし、ルミに何かあったらそん怪しい団体、俺が跡形もなくこの世から消し去るから」
そう笑顔で返すと、「「いや、怖いから……」」と双子の義妹達はだいぶ引き気味になっていた。何がいけなかったのか思い返していると列車が到着し、そのままルミに腕を引っ張られる形で、列車に乗り込んだ。
◇
昨日と同じく、一つ先の駅であるフォースステーションで降りる。スミ達が通うヤマト学園と俺が通う事になるヤマト第三高校は同じ方角にあるらしい。そのため、俺は、列車を降りてからもスミ達と一緒に通学路を進んでいた。一定の間隔で街路樹が並んでおり、眩しい日差しから発せられる紫外線を影を作って遮ってくれている。
「いい天気だなぁ」と空を見上げて歩いていると急に周囲が騒々しくなり、何事かとキョロキョロと周囲を見渡すとスミとルミを囲むかの様に人集りが出来ていた。みんな俺とは違う青いブレーザーをきた男子生徒だ。
「ルミさん、俺とぜひ!」
「スミちゃん、今日こそいい返事を期待しているよ」
「てめぇ、抜け駆けすんなよ!」
「お前こそ!」
どうやら、彼らは我が義妹達に好意を寄せているようだ。
「げぇ~~~~~」
「もう、毎日毎日いい加減にして下さいッ!」
そして、明らかに迷惑がる我が義妹達。
「毎日こんなことを?」
「そう、毎回断ってもしつこくて! この人達のせいでいつも遅刻ギリギリ。だから、急いでっていったのよ!」
「ごめんって~」
そう言ってルミに当たり散らすスミを見て、
朝あんなに急いでいたのはこの所為なんだと一人で納得する。
「なんだあの男?」
「見ろよ、サンコーの制服だぜ?」
「サンコーの落ちこぼれが、なんであの二人と」
「無駄にイケメンなのがムカつくぜ」
どうやら、彼らの興味が俺に移り始めたみたいだ。
イケメンに無駄があるのか? それにしても、サンコーの落ちこぼれかぁ。
青のブレーザーは、第一高校の制服だ。前述どおり、このヤマトアイランドには三つの高校がある。アークマスター育成に特化した第一高校、研究者のスペシャリスト育成に特化した第二高校。彼らにとって、その二つの専門育成機関から溢れた第三高校の生徒である俺は、落ちこぼれという扱いらしい。
通常、人間には両親から受け継がれる46個の対となる染色体を有しているが、アークマスターは46個の対となる染色体とは別にD染色体という47個目の単体の染色体をもつ人間にしか扱う事ができないとされている。
聖櫃はD染色体を持つ者が善悪の判断ができるとされる四歳になった日にいきなり現れる正十二面体の物体であり、それに触れる事によって能力を授かるとされている。ちなみに、D染色体はdeus ex machinaの頭文字からきている。
アークマスターは自分が神に選ばれた特別な人間だという選民思想が強い。これが彼らが俺の事を落ちこぼれと見下している訳だ。
「あぁ~良いこと思いついた」
ルミがにっしししと笑いながら俺の顔をみる。
うん、凄く嫌な予感が……。
「学生ちゅーもーく!」
お前も学生だろ!とは誰もツッコまず、
そこら中の学生の視線がルミに集められる。
「えーっと、この人は、私達のおにぃちゃんです!」
俺の正体に、ざわつく男子生徒達。
そんな事はお構いなしに、ルミは続ける。
「もし。おにぃちゃんを倒す事が出来たら、話くらい聞いてあげてもいいかな?」
「あッ、それいいかも! アニキ、任せた!」
「おい、ちょっと」
そう言って、ルミとスミは俺を野獣共の前に押し出し、「おにぃちゃん、頑張ってねー」「負けたら承知しないから!」とその場から逃げる様に立ち去る。
「アイツさえ倒せば……」
「サンコーの雑魚なんて余裕っしょ」
「ルミちゃんは俺のモノルミちゃんは俺のモノルミちゃんは俺のモノ」
「ぶっころせええええええええええええええ!」
俺に向かって飢えた野獣共が一斉に襲い掛かる!
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