「狙われているらしい」
「狙われてる? 俺が?」
俺の疑問にグレンとミリーが頷く。
「そう。で、俺、誰に狙われてるの?」
「オロチのジジィだ」
「はぁ? なんでそこでオロチが出てくるのさ?」
オロチと俺は何の接点もない。
予想だにしていなかった名前が浮上したことにやや驚いてしまう。
「ホワイトタイガーのペクホが泣きついたらしいぜ?」
グレンは簡単に事の顛末を教えてくれた。
俺に常世の楽園という収入源を断たれたペクホに団長が追い打ちをかけた事で俺達に復讐を企むが世界最強の団長に自分が叶うはずもなく、団長でも避けているオロチに泣きついたという事だ。
「てか、どうやって手に入れたの? その情報」
オロチの居場所を知っているものは限られてくる。
そんなオロチの情報を手に入れられる手段はそんなに多くないはずだ。
「Oとブレインのオッサンが開発した米粒よりも小さい迷彩ドローンをペクホのあの趣味の悪いベストに忍び込ませたんだ」
Oは、銀の乙女団の情報担当、そして、ブレインことルーベン・スタインは、団員の武器や便利道具などを製作してくれる団所属の発明家だ。
その二人が組めば、世の中にあるものは大抵作れるだろう。
「なるほどね。でも、オロチって確か結界のせいで動けないんじゃなかったけ? どうやって俺を狙うの?」
「良く知ってるじゃねーか坊主。そうだ、オロチは結界に封印されているから動けない代わりにオロチは自分のガキ共にお前の討伐を命じたと言う訳だ」
「娘達ね……」
オロチは、何年かに一度口から卵を吐き出すと言われている。
娘達というのは、オロチの卵から孵ったオロチの子供達、通称【龍の子】の事だろう。
龍の子は、オロチほどではないが、かなりの力を持っているとされている。
「娘達というからには、一人ではないという事なんだね?」
「あぁ、最低でも二人以上だと思ってくれればいい」
ドローンを動かすとオロチに感づかれる可能性が高いため、ちゃんとして映像は取れなかったのだが、話している内容を聞く限りそこには二人の龍の子がいたという。
「やつらが動く前に――と言う訳にはいかないか」
「あぁ、こっちにあるのは音声データのみだからな。奴らを潰すには色々と証拠がなさすぎるんだわ」
「わかった。襲撃に対して備えておくことにするよ。それでグレン達はどうするの?」
「何って、お前の護衛――」
「そんなわけないよね?」
グレンとミリーが俺の護衛としてここにいる、というのは考え辛い。
グレン達を軽く見ているわけではないが、彼らがいてもいなくてもこちらの戦力的には大して差はないからだ。
それは、グレン達も十分に分かっている。
「俺達は別の任務があるんだ」
「別の任務?」
「あぁ。ペクホの野郎、オロチのジジィの結界を破る気でいやがるんだ」
「結界を破る? いやいや、あのオロチでさえ破れない結界をペクホ如きが破れるわけないじゃんか」
「その通りだ。結界自体を破る事は不可能だ」
「それなら結界の巫女を亡き者に? いや、それもありえない」
結界の巫女というのは、その名の通りオロチを封印する結界を維持するという役割を担う者であり、結界の一族内で継承を繰り返しているとされている。
ただ、結界の巫女が務めを果たすための空間は、結界の巫女以外立ち入りを許されないため、結界の巫女を手にかける事は不可能だ。
「そう、結界の巫女に直接手出しする事は不可能だ。ただし、当代の巫女の任期がもうすぐ終わるならどうだ?」
「次代の巫女を消せばいいという事か」
「あぁ、すごくシンプルだろ?」
「でも、そういう事があるから巫女に関する情報は厳しく管理されているんじゃなかったの?」
「それをペクホは何らかの手を使って手に入れたんだよ。次代の巫女の情報をな」
「……誰なの次代の巫女って」
「それがな……わからねぇ」
「はぁ? 分からないって……」
「ペクホから、情報を得る前にドローンの充電が切れて聞けず仕舞いってやつよ」
「じゃあ、どうするの?」
「結界の巫女の能力の絶頂期は17~27歳まで、10年だけだ。10年が過ぎたら能力を失う。つまり交代の時期と言う訳だ。ペクホは龍の子らにこのヤマトアイランドで学校に通えって言っていた。その情報を合わせると次代の巫女はこのヤマトアイランドの第一から第三までのどっかしらの高校に属している可能性が高い訳よ」
確かに、もうすぐ交代の時期であれば次代の巫女は17歳、つまり高校二年生という可能性が高くなる。
「この事を結界の一族に伝えると言う選択肢は?」
「言っただろ? 証拠が足りなすぎるって」
「うん……」
「話をもどすぞ? 今日から俺は第一高校の臨時教師として、そして、ミリーは第二高校の保健医として潜り込む。お前には第三高校を担当してもらいたい」
「わかった。対象を見つけたら?」
「すぐに保護して、俺達に連絡してくれ。俺達が次代の巫女を知っているという事がかなり有力な証拠になるからな。それを持って、結界の一族と話をつけるさ」
「分かった」
方針は決まった。
教室に向かおうと立ち上がる俺の肩にグレンが手を掛ける。
「坊主、お前の強さは十分わかっている。けど、相手は龍の子。油断するんじゃねぇぞ?」
「き、気をつけてくださいね」
グレンとミリーは俺の事を心配してくれている。
いつまでたっても二人にとって俺は子供なんだろう。
「うん、ありがとう。この件が片付いたらご飯でも食べにいこうね」
二人の温かい表情に見送られ、俺はその場を後にした。




