「自由と不自由」
「ぁぁ……本当に……これでボクは……」
複合人間としてこの世界に産み落とされた瞬間から自分を拘束していた聖櫃具が外れた。
聖櫃具から解放されて自由に――。
そんな夢を見る事さえも諦めていたクララは首を触りながら小刻みに震えている。
「うん、君はもう自由だよクララ」
「もう……誰かを……傷つけなくても……いいの?」
「もちろんだよ。君が嫌だと思う事を強要することはもうないよ。言ったよね? 君はもう自由なのだから」
「……うぅ……」
クララは膝をつき両手でその小さな顔を覆う。
両手からこぼれた雫がポツポツと落ちて無機質なコンクリートを濡らす。
「ありえねぇだろ……絶対服従の聖櫃具なんだぞ? それを契約者でもない奴が解除しただと!?」
「さて、次はアナタだね」
「ま、待ってくれ! そうだ、お前、俺と組まないか? お前のその力で他の奴隷どもの契約を書き換えれば、俺達なら天下とれるぜ!?」
俺の手の中にあるチョーカーを見る。
このチョーカーは効力を失っているわけではない。
これを使い再びクララを縛る事はできる。主を書き換えるという方法で。
「本当にめでたい頭してるよね? 何で俺に敵対したアナタと組めると思っているのかな? それにね、俺はこれが大嫌いなんだ。吐き気がするくらいにねッ」
「くッ……」
ぐしゃっとチョーカーを握りつぶす。
俺は複合人間と同じように見勝手な人間達のエゴによって生まれた存在だ。だからなのか、複合人間に少なからずの親近感を持っている。
そんな俺に複合人間を食い物にしようと誘ってくるこの男を俺は赦す事はできない。
「ちょっとどうなってるのよ!?」
背後から聞こえる怒号に近い声に反応して振り返る。
そこに立っていたのは、あの失礼な受付嬢だった。
なるほど、俺の情報をこの男に渡したのこの女だったのか。
この女ならなんだか納得できる。
「雨音、てめぇ! 話が全然違うじゃねぇか!」
「なんの事よ!? どうなってるこれ? 私の金は!?」
「勝手なこと言ってんじゃねえぞ! クソッ、こんなバケモン相手にさせやがって! 何が落ちこぼれだ! お前の間違った情報で部下はやられるわ、商品は奪われるわ、このままではムショ行き確定だ!」
「間違った情報だなんて……だって、データバンクには確かに格闘士って書いてあったのよ!」
協会に登録する際にアークの情報を偽る事はご法度だ。
どんなカラクリがあるのか分からないのだが、登録時に行う血液検査でそれがウソか本当か分かるからだ。
だけど俺のアークは団のみんな以外に知られる訳にはいかないので、一か八かマイナーな格闘士という事にした。ダメだったら迷宮には潜らない事にして。だけど、俺の心配は杞憂に終わる。格闘士ですんなりと通ったのだ。
団長は俺が実際に格闘士のアークを持っているからなのだろうと言っていたが、俺も何となくそう思う。
「それで、どうするの? 続きやるなら相手にするけど」
「聞くまでもねぇだろ。くそッ、最悪だ」
「ちょっと、何あきらめてるのよ! 私の金はどうなるのよ!」
「うるせぇ! こんなバケモンに勝てるわけねぇだろ!」
「何よ! あんた、元傭兵でしょ!? こんな子供相手に情けないとは思わないの!?」
「なんだと!」
二人の低次元なやり取りを見ていると、複数の自動魔動車が周辺を囲む様に止まる。
そして、自動魔動車からぞろぞろと出来きた屈強そうな男達が無精ひげの男とあの受付嬢を囲む。
「ちっ、警備隊か……もう、終いだな」
「な、なんなのよ! なんで、私が!? 私を誰だと思っているのよ! 私はナンバー2受付嬢なのよ!」
無精ひげの男は全てを諦めたかの様にその場に尻餅をつく反面、受付嬢はジタバタと抗おうとしていたが、とある人物の登場で顔が真っ青に染まる。
「雨音、お前は何てことをしてくれたんだ……」
日本支部長である風花紬さんだ。
実は、この人達に遭遇したあたりからこっそりデバイスを付けて支部長の妹さんである纏さん繋いでいたのだ。纏さんであれば、すぐに支部長へ繋げてくれると思ったからね。
それにしても想像していた以上に早くこの場所に来てくれた。
「し、支部長!? なんでこんな所に……いや、そんな事より、私は無実なんです! このモドキにハメられたのです!」
無精ひげの男一人に罪を擦り付けようとする雨音たる受付嬢。
だが、支部長は雨音の弁明をスルーして俺に深く頭を下げる。
「カイト様、私の部下がとんでもない事をしでかしました。誠に申し訳ございません! 何卒、今件はこの私の首一つでご容赦を!」
「支部長! だから私は――」
「黙れこの面汚しが! 機密事項である会員の情報を流出し、この様な者達と結託し会員様を貶めようとするなど言語道断! 恥を知れこの犯罪者が! おい、こいつを連行しろ!」
「待ってよ! 私が何をしたっていうのよおおおおおお!」
警備隊に拘束された雨音は引き摺られながら、俺達の目の前からその姿を消した。
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